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第十六章:闇を包む、闇。

-1-


すっかり日が暮れ薄暗い闇が町を包む中

正門前で野田を見送りこちらを振り向いた紫苑の前に

俺らは再び集まった。


「これで良いんだよね」

紫苑がにこりと微笑んで見せた。

「ああ…野田君も明日にはまたいつもどおりに接してくれるはずさ。

じゃあ、僕らも帰ろうか。」

イネ=ノのその言葉を合図にみなが正門前で散った。


射川と入間先輩は再度並木道を戻り北金倉駅方面へ、

紫苑は正門前のバス停の前に立った。


俺は、

本当なら北金倉駅に行った方が近いのだが

なんとなくあの二人と一緒に歩くのが気まずいと言うか…

それに二人だって話したい事があるだろうと思い

あえて金倉駅方面へ一人歩いた。


そして思わずほっと、ため息をつく。


やっと…


やっと…長年もやもやと悩み続けていたものが一気に溶けると同時に消えてなくなり

快晴の空のように気持ちよく澄み渡ったような爽快感。


小学生の頃から、ずっと一人

オリオンの記憶を静かに持ち続け

誰も仲間になることなく、一人孤独だった日々。


それを理解してくれる人が、

やっと、しかもこんなにも大勢できるなんて。


嬉しかった。


何よりも一番会いたかった紫苑…キク=カが俺の存在に気付いてくれたのだから…。


それにイネ=ノやスズ=タケもクラスメイトだし、

学年は違うけれどアキレスだっている。


明日が楽しみで仕方がない。


明日から一体どんな日々が始まるのだろう?


紫苑との関係は?


気が付くと思い切りにやけている自分がいた。

それを知ったのは夜の電車の中、

窓際に立ちドアがしまった瞬間ドアガラスに映された自分をみて、だ。


落ち着けよ、と心の中でブレーキをかけようとするが

それすら押し上げて喜びがこみ上げてくる。


そう…明日…


明日から新しい何かがきっと、はじまる。


そんな予感が胸を熱く包んでいた。



-2-


「僕らの事ずっと見てたんでしょ?」


観月紫苑は目の前に立つ人物の顔を睨んで見せた。


「悪い?」


相手は悪びれる素振りもなく素直に、くすりと笑いながら答えた。


「…ひどいよ…。

もう…ほっといてくれないかな…。


僕は普通に学生として過ごしたいんだ。


君たちのごたごたに巻き込まれるなんてまっぴらごめんだよ」


「言うね。だけどその言葉そっくりそのまま返してあげるよ。

こっちだって冗談じゃない。

それに、君にはまだ仕事をしてもらいたいしね」


「…嫌だって言ったら?」


「また同じ事を繰り返すだけだと思うよ。

それでもよければどうぞ?」


「ちょ…!!なんだよ!!本当にもう…やめてくれない?!

それに今度はイネ=ノだっているんだから!!

君だってタダじゃすまないよ」


「誰を脅してるんだい?君。

ま、いい。どうあがこうが君は僕に逆らう事は出来ない。

たとえ力を全て覚醒してスコーピオンと統合したとしてもね。」


「………僕をどうするつもり?」


「だから言っただろ?仕事をしてくれればいい。

君ならできるだろ?」


「話が進まない」


「そうだね、僕は面倒くさい事は嫌いだから、

手っ取り早く済ませようか?」


紫苑の右手をすばやく取ると手首にそっと口付けをした。


「ちょ!!な…にす…」


一瞬抵抗するも次の瞬間にガクリと全身の力が抜け

全ての体重をこちらに預けた。


そして紫苑の体を受け止めながら彼の耳元でそっと囁く。


「スコーピオン、命令だ。オリオンを、殺しなさい」



-3-


次の日の朝、教室に入るとまず一人静かに小説を読んでいる紫苑を見つけ

挨拶した。


「よ、紫苑。」


すると突然目を見開きこちらを勢いよく睨みつけてきて驚いた。


てっきりいつものようなあどけない笑顔を返されるかと思っていたのに。


「な…こえーな…。何睨んでんだよ!」


そういいながら軽く頭を小突いてみせた、と次の瞬間

いきなり紫苑が立ち上がったかと思うと

突然俺の腹を思い切り蹴り上げた。


「うぐっ!!」


みぞおちに激痛が走ると同時に

勢い良く後ろに蹴飛ばされ、机にぶつかり倒れる。


「キャー!!」


驚いて女子生徒の誰かが悲鳴を上げた。


と次の瞬間、倒れた俺の上に紫苑が馬乗りになり

両手を首にかけ思い切り力を入れてきたのだ。


「!!」


驚いて紫苑の手を振りほどこうとするが

こいつ…!!


なんて馬鹿力…


「やめろよ!!紫苑!!」


クラスメイトたちが俺から紫苑を離そうとするが

なかなか紫苑は俺の首にこめた力を緩めようとしない。


や…ば…


いし…き…が…


「やめなさい!!」


突如誰かが叫んだ。


女の声だって事は分ったが…


頭がくらくらして…


と、同時にすっと俺の首に加わる力が引いた。


「チッ!」


え?


誰だ?

今…舌打ちしたの…。


紫苑?!


紫苑なのか?!


腹の上に掛かっていた圧力もなくなり

ぼやけた視界がだんだんと鮮明になってくる。



「日向君!!大丈夫!?」


誰かが俺の顔を覗きこんでいる。


だ…れ…


「日向君!!」


頬をぺちぺちと叩かれやっとの事ではっと我にかえる。


「…み…づき?」


「ああ…日向君…!!」


今にも泣き出しそうな潤った瞳で俺の顔を見つめていた。


ゆっくりと体を起こす。


「おい…大丈夫か?」

福嶋だ。


「…べつに…それよりも…」

紫苑をみると少し目を細めじっと俺の事を静かに見つめていた。

そこにはいつものような明るい笑顔は一切ない。


「紫苑君!乱暴はやめて?!」

美月が紫苑に言うと

紫苑は自分の席に無言のまま着き

何事もなかったように小説の続きを読み出した。


が、

「てめ!!紫苑!!

どういうつもりなんだよ!!」


紫苑の肩をつかんだ。


しかし紫苑はこちらをみようともしない。


「日向君もやめて!!おねがい…」

美月が俺の腕をそっとつかんだ。


「けどよー!!冗談じゃ済まされねーよ!!

おい!!聞いてのかよ?!紫苑っ!!」


「何騒いでるの?」

そこへ野田がやって来て俺らの前に立った。


「どうした?紫苑…機嫌悪そうだな…ん?」


と、次の瞬間野田の顔色が変わったかと思うと

突然教室の外に飛び出していった。


「……なんだ?あいつ…」

しかし俺の言葉に美月も紫苑もなんの反応も示さない。


「…ごめんなさい…」

俺の隣で美月がそう小さく呟いた。


「え?…なんで美月が謝るわけ?」

訳が分らず聞き返すが美月も無言のまま自分の席へと戻っていってしまった。


紫苑は相変らず黙って小説を読み続けている。


一体なんだっていうんだ…。


野田も戻ってこないし…。

訳が分らない。


紫苑をもう一度鋭く睨むと

ふん!と鼻を鳴らし自分の席に着いた。


昨日の話はどこへ行っちまったんだよ?!


紫苑とスコーピオンは仲直りしたんだろ?


…?


…ちょ…まてよ…。


紫苑はスコーピオンを自分の中に取り込んだ…。

ということは…

一見和解したように見えたが…

紫苑の中にはスコーピオンがいる…

つまり…


結局話しが最初に戻っただけなんじゃ?


じゃあ…今のは紫苑がやったんじゃなくて…スコーピオン?


…だよな…?


紫苑があんなことするわけねぇ…。


思わず紫苑のほうを見るがこちらを気にする素振りも見せず

黙って小説のページを静かにめくった。


くそっ!!


そういうことかよ!!


結局何も解決してねーって事じゃねーかよ!!


ああ!!そうか!!

だからさっき美月が謝ったんだ!!

そうか!!そう言う事か!!


美月がいると月の力でスコーピオンの力が強まってしまう…。


だからか…。


ん?

じゃあ野田は一体何処へ行ったんだ?



入間先輩のところだろうか?


よくは分らないが…。


それよりも…紫苑の問題…どうしたらいいのだろうか…。


と、朝のホームルーム開始のチャイムが校内に鳴り響いた。


なんとなく教室内を見渡したところでそれに気が付く。


あれ?


射川は?


射川がいないのだ。


全く…一体どうなってるんだ!!


美月といい射川といい…

肝心なときに誰かしらが休みやがる…。


と、教室の後ろの入り口から野田が戻ってきたのだが…


あれ?


めがねをしてない…。


手元をみると野田がいつも掛けているめがね…。



それになんだかむすっとした表情で、まるで怒っているみたいだ。


黙って野田を目で追っていると

野田は静かに紫苑の前の自分の席に着き

手にしためがねをじっと見つめいてた。


あれ?


めがねのつるが片方取れていることに気が付く。


野田はめがねをたたみ、取れたつると一緒にハンカチにくるむと

それをそっと机の中にしまった。


一体どうしたんだ?


と、教室前のドアが開いて担任が入ってきたので

日直が号令を掛けた。



-4-


「紫苑君が?」


3年生の教室の前。


入間先輩を呼び出し先ほどあった出来事を全て話した。


「…そう…。まぁ…確かに紫苑君がスコーピオンを封じることなく

そのまま取り込んでしまったからね…。

少し様子を見た方がいいかもしれない。

射川も昨日帰ってきたばかりだし」


「え?」


帰って来た?



「あ、いや…こっちの話。

うーん…それにしても…参ったねぇ…。」


入間先輩はそのあと口の中で何かぶつぶつと呟いていたのだが

なんと言ったのかは聞き取れなかった。


「どうしてスコーピオンは俺を狙ってくるんですかね」


「え?君…自覚ないの?」


「へ?」


「なんでスコーピオンがオリオンを殺したか、

まさかその理由を知らない…?」


「あ…そうですね…確かに知らないかも。

…そういえば…確か昨日紫苑が変なこと言ってたような…

紫苑の代わりのほかの誰かが俺を殺しにくるって…。

あと、アポロンがどうとかって…」


すると入間先輩が大きくため息をついた。


「驚いたね。なんでこんな事になっているのか、

当の君が気づいていなかったなんて…。

周りの皆は知っているのに…」


「え?みんなって?」


「僕も射川も紫苑君も、あと…野田君だっけ?

全員どうしてスコーピオンが君を狙うのか理由を知っている…

本当に君心当たりがないとでも?」


「…うーん…なんですね。」


「困った問題だね、それ。

じゃあ、教えてあげるよ。

アルテミスって覚えてる?」


「え?ああ、うちのクラスにいますよ。そいつ」


「ええ?!」

突然入間先輩が大声を上げたので

こちらまで驚いてしまった。


「な…なんでそんなに驚くんですか?」


「なんでって!!…ちょ…それ本当?!」


「はい…佐藤三月って名前でうちのクラスに…」


「おいおいおいおい…どういうことだよ…それ…。

ちょ…待って?!ってことは…!!」


唐突に鳴り響くチャイム。


「あー!もう!!」と入間先輩は一人不満そうに

こぶしを作ってきつく握って見せた。


「昼休みゆっくり話そう!え…っと、満点ホールがいい!

じゃあ後でそこで!!」

そう言って入間先輩は慌てて自分の教室に入って行った。


何をそんなに焦っているのだろう?

訳が分らなかったがとりあえず自分も急いで教室へと戻った。


-5-


昼休み、早めに昼食を済ませると満天星ホールへと向かったのだが

途中でぴたりと足を止めた。

満天星ホールに続く螺旋階段の入り口に立ち入り禁止のテープが張られていたのだ。


え?!なんで…?!


一体何があったんだろう…


「ガラスが割れたんで修理するんだってさ」

俺の肩にポンと手が乗ったので後ろを振り向くと

入間先輩がため息をつきながら螺旋階段の方を見ていた。


「ガラス?……ああ…」


そういえば…昨日紫苑がガラスを割ったんだ…。


「食堂行こうか?今なら大分空いてきてると思うし」


「あ、はい。」


入間先輩の提案で食堂へと足を運んだ。


先輩が言うとおり昼休み開始時刻から少し時間がたったおかげで

大分生徒の数が減っている。

みな食事を終えて教室やグラウンドでそれぞれ楽しく昼休みを過ごしているところだ。


なるべく他の生徒たちが回りにいない空いているところを選んで座る。


「はい、お茶」


そう言って入間先輩は給茶機でお茶を淹れて俺の分と自分の分をテーブルに置いた。


「あ、すみません」

一瞥して一口頂く。


あったかい…。


「あまり時間がないから早速本題に入りたいんだけど…

まず、日向君…オリオンが命を狙われてる理由、本当に心当たりないの?」


「…ないですね…。そもそもなんで紫苑に恨まれなきゃいけないのか…

皆目検討もつかないってところです…」


「はぁ…」

入間先輩はそこで大きなため息をついた。


「まずそこから誤解してるんだね?」

「え?」

「キク=カ本人が直接オリオンに恨みがあって殺意を抱いたっていうのは

全くの誤解だよ。

それよりも君…、いやオリオンはアルテミスに何かしなかったかい?」


「何か?何かって…え?…さぁ…」


全く思い当たる節が見つからくて困惑する。


「はぁ…」

また入間先輩のため息。


「じゃあ、アルテミスに双子の兄がいる事は知ってるよね?さすがに…」


「え?…双子の…兄?…」


すると入間先輩は呆れたように手のひらをおでこに当てて見せた。


「本当に何も知らないんだね…」


「…すみません…」


「いや、謝らなくていいよ。じゃあ教えてあげる。

アルテミスにはアポロンと言う名の双子の兄がいるんだ。」


「あ!その、アポロンって名前は聞いたことあります。

この前紫苑が言ってましたよね」


「うん。…うん?あ、いや…この前の話じゃなくて…

オリオンはアポロンの名前…知ってたの?」


「ええと~…どうだったかな…よく覚えていません。

夢に出てくるのはいつも紫苑かアルテミスばかりでしたから…」


「そう…。ま、いいか。

でね、アルテミスが月の女神だっていうのは知っていると思うけど

アポロンは太陽の神なんだ。

黄道12星座守護神とも深い関係がある。

で、アポロンはアルテミスをとても溺愛していて凄く大切に思っていたんだ。

けれど、そのアルテミスにオリオンがどうやらちょっかいをだしたらしくてね、

それがアポロンの逆鱗に触れたってわけ。

でアポロンがスコーピオンを利用して君を殺そうとしているんだよ。

分ってくれたかな?」


「…え?」

思わず言葉を失う。


そして、まさに“寝耳に水”だ。



「アルテミスの…兄が…俺を?!」


「そうだよ。

それとね、キク=カが病気だった事は知ってると思うけど、

詳しく話すと、キク=カの中にはスコーピオンというもう一人の人格が存在していたんだ。

蠍の一族の本来の性質を持った性格っていうのかな?

キク=カみたいな穏やかな性格は一族の中ではかなり珍しいみたいだよ。

むしろ、スコーピオンの方が本体でキク=カはなんらかの原因で現れ出た

人間らしい新しい人格なのかもしれない。

アポロンは凶暴なスコーピオンの性格を利用して君を殺そうと仕向けて、

そしてオリオンを殺してしまった…。

というのが僕が知っている情報だけど…」


どう?と確認するように俺を見たので俺はただ黙って

俯いてみせた。


知らなかった…。


俺の知らないところでそんなやり取りがあっただなんて…。


じゃあ…俺が知っている蠍座守護神キク=カは本当の姿じゃないのか?

スコーピオンが本体?


「ああ!!だからか!!

だから昨日紫苑は蠍座の本体であるスコーピオンを殺さずに

自分の中に取り込んだんだ?!」


「そうかもしれないね」


そうか…そういう事だったんだ。


なんであそこでやっつけないんだ?って凄く疑問に思っていたんだけど…。


そうだったんだ…。

謎が一つ解けた。


「それと、僕が気になるのは朝君が言っていた話。

アルテミスが君のクラスにいるって言っただろ?

もし僕の勘が正しかったら…その人は

アルテミス本人の可能性が高いよ。」


「え?」


言っている意味がよくわからない。


「つまりね、僕や君はかつてアキレスやオリオンだったって話だけど

その…佐藤さんだっけ?

佐藤さんっていうのは仮の名前で実はアルテミスその人だってことだよ。

僕ら星座守護神たちはあくまで封印を解く為の駒として指輪を与えられただけであるけど

月の女神や太陽神はその話とは無関係のはずだからね…。」


入間先輩の話が全く理解できなくなってきた。


何を言っているのかよくわからない。


「封印を解く為の駒って…どういう意味ですか?」


「あれ?あ…そうか…ごめんごめん。君にはあまり関係ない話だったね。

失礼。

とにかくその、佐藤さんはアルテミス本人である可能性が高いって話だよ。

となるともしかしたら近くにアポロンも人間の姿に変えて僕らの近くに

いる可能性が高いね。

あくまで僕の推論だけど、紫苑君がまたスコーピオンとして目覚めてしまったのには

アポロンが一枚かんでいるような気がしてならない…。

だからね、どうしても君に思い出してほしいんだよ。

アルテミスに何か失礼にあたるようなことしなかった?」


「え…失礼…って」


そこで思い出したのは先日駅前で彼女の頬にキスをしたこと。

あれは“失礼”にあたるのだろうか?


「それはオリオンのときの話ですか?それとも今の?」


「さぁ…ただ…アキレスの記憶の中のオリオンも結構積極的に

アルテミスに近づいてたよね?ため口で話したりかなり慣れ慣れしい

態度で接してたようだったけど…」


「ああ…そうですね…。そういえばアキレスに怒られたこともありましたね。

星座守護神相手に態度がでかすぎるって…」


「うん、そんな事もあったね。」


「でも…アルテミスに特別失礼なことって…

キク=カたちと同じように接していただけだと思うんですけど。

たしかにオリオンはアルテミスに特別な好意を抱いていたっぽかったけど

だからってむりやり押し倒したりとかっていうのはなかったし…

だからどうして殺意を覚えるほどまで憎まれなきゃいけないのか

正直俺にはよく分らないです」


「…そう。まぁ…そうだね、本当の理由はアポロンに聞けば分ることなんだろうけど…。

でも…なんでこんな所に二人揃っているんだろうなぁ…。

それも不思議でならないよ」


「あの…本当に美月がアルテミス本人なんですか?」


「え?みづき?」


「佐藤美月です。俺、小学校の頃から一緒だったけど

全然普通に接してたし他の女子たちと大して変わらないし

それに、この前俺がアルテミスじゃないかって指摘しても

なんかごまかしてるような感じだったし、正直よく分らないっていうか…」



「…うーん…。

アポロンを探して話し合った方がよさそうだね。

これ以上紫苑君に負担をかけるのもよくないし…。

紫苑君だって本意じゃないだろうからね…。

それに朝の話を聞いてると

向こうの世界ならまだしもこっちの世界では君が訴えれば殺人未遂か傷害罪だよ。

紫苑君の人生がアポロンの勝手によって台無しになってしまう。

やめさせないとね。君や紫苑君のためにも。」


「…そうですね」


たしかに…

正直アポロンが何を考えているのか俺には良く分らないが

紫苑があんまりだ。

別に訴えるなんてつもりは毛頭ないが

もしあの時俺が死んでいたら間違いなく殺人罪で少年院行きだ。

紫苑にはその意思が全くないのだし、あまりにもかわいそうすぎる。


「そういいえば…」


ふと一学期の出来事を思い出す。


「俺、もしかしたらこっちの世界でアポロンに会ってるかもしれません」


「え?」


「いつだったかなぁ…一学期の話なんですけど

保健室で寝ていたら美月そっくりなんだけど男子の制服をきた奴がきて…。

アポロンってアルテミスの双子なんですよね?

だったら顔が同じって話も辻褄が合うし。

正直今まであれは夢だったんじゃないかって思ってたけど

今思い返すともしかしたら…そうなんじゃないかって…」


「うーん…彼に何か言われた?」


「ええ…っと…なんだったけかなぁ…?

首を絞められたんですよ。

と言っても手を使わないで…。

なんていったらいいのか、急に首を絞められたような感じになって

息ができないほど苦しくなって…

で、なんか一言言ったんですけど…

ええと…ええっと…

許さないとかなんとか、なんかそんな感じのことだったと思います。

うろ覚えですいません。」


「いやいや…でももしそれが事実だったのなら…

この学園の中に彼がいるって事だよね?

学校中探し回ったら見つけられるんじゃないかな?」


「かもしれませんね」



「よし!じゃあ探そう!

あ、でも君はじっとしていてね。

君とアポロンが直接顔を合わせると話しがややこしくなりそうだしね。

あ、紫苑君ともあまり関わらない方がいい。

僕がなんとかするから。

君は普通にしててね?いい?」


「あ…はい…」


そう返事をしたところで丁度昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。


入間先輩は話す事は全部話し合えたといわんばかり満足そうに

頷いて見せた。


何かが終わったはずなのに、

また新たな何かが始まってしまった?


なんとなく落ち着かない。


胸の中は不穏な空気で暗く濁っていた。



-6-


日が傾いていく。


窓の外に夕日とともにひっそりと沈み行く古都の町。


「今日も相変らずの平和だね。こう平和な日が続くと

何かがなまってしまいそうだよ」


窓辺にたった翼の肩にそっと両手を置き

静かに彼の耳元で囁く。


「何を考えているんだい?」


「いえ、何も。」

翼は即答するとそっと男の手を両肩から外し

にこりと微笑んで見せた。


「上等なワインが手に入ったんだ。付き合ってくれるよね?」


ソファーテーブルの上には銀製のトレイ。

ワインのボトルとワイングラスが二つ。それから上品な白い皿にチーズの盛り合わせが乗っている。


「まぁ、座りなさい。ゆっくりしていくといい。」


男はソファに浅く腰掛けると

ボトルを開けグラスにワインを上品に注いだ。

「あ…」

思わず声を漏らしたが

男は構うこともなく言葉を続ける。

「こうすると香りが一層引き立つ。

さぁ、かけなさい。」


言われて男の向かいのソファにそっと腰を下ろした。


「あの…私は今日車で…」

「泊まっていけばいい。明日はここから直接大学へ行けばいいだろう」

「ですが…」

「君は私の言う事を黙って聞いていればいい。

悪いようにはさせない、と前にも言ったはずだろ?

まぁ、一口飲んでみなさい」


促されるまま仕方がなしにグラスに口をつけ一口飲んだ。

その瞬間にふわりとぶどうの甘い香りと渋みが口の中に広がる。


「よしよし。いい子だね。

それにしても君も立派に成長してくれて嬉しいよ。

もうすぐで記念日だね。何かプレゼントをしたいのだが

ほしいものはないかね?」


「いえ…今のままで十分に満足です。むしろ

これ以上は申し訳ないくらいで…」


「謙虚だね。だが君は私の子ども同然。

もっと子どもらしくおねだりしてくれた方が私は嬉しいのだがね?」


「…ええ…ありがとうございます。」


そういいながらもう一口ワインに口をつけた様子をみて

男は満足げに目じりに皺を作って笑って見せた。


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