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3-45 最後の謎

 その週末、俺は飯倉と公園にデートに来ていた。

 夏に命を燃やした緑はその主から栄養を与えられ、成熟と老いを感じさせるがごとく赤々と染まっている。それらが優しく地面に舞い落ちていく姿は満たされた人の一生のようだった。小さな命たちが大地に散り敷く中を人の群れが行きかう情景に、俺は歴史という言葉が頭に浮かんだ。街には冬の足音が密やかに近づいてきていた。

「寒くないか?」

「大丈夫です」

 飯倉が静かにほほ笑む。が、その頬の淡い赤みがやせ我慢だという事を示していた。俺は、自分のマフラーを首からほどくと、それを優しく飯倉の首にまいた。かつて彼女を殺したこの手が、今は彼女を守っている。

 これでいい。俺は、飯倉あいりを守りたい。

「無理しなくていい。俺は平気だから」

 見上げる飯倉の顔に、俺は口元を微かに緩めて答える。

 遊具のそばにあったベンチに腰を下ろし、俺たちは一息ついた。飯倉が持ってきた鞄を膝の上に載せ、中から上品なハンカチで包んだお弁当を取り出す。

「わざわざ作ってくれてありがとうな」

「はい。おみおつけも作ってきているので、良かったらどうぞ」

「おー、気が利くねぇ」

 そう言って飯倉がスープジャーを取り出して俺に渡す。俺はご飯を一つまみ口の中に放り込み、味噌汁を含む。濃厚なシナモンの香りが、口と鼻いっぱいに広がる。

 シナモン?

 俺は悲鳴を上げて口の中の物を吐き出していた。

「か、嘉手島さん! 大丈夫ですか?」

「飯倉、これ味見したか?」

「いいえ!」

「ほい」

 スープジャーを飯倉の顔の前に差し出す。飯倉は一瞬きょとんとしたが、素直にそれを受け取って自分も口に含んだ。

 その顔が急激に逼迫さを増し、口元が膨らんでいく。

「飲める?」

 首を横に振り、公園の端にあったトイレに駆け込む。そりゃそうだ。味噌汁にシナモンなんて合わない。その上、入れ過ぎている。なかなか溶けないし、匂いが強烈だ。

 嫌な予感がして弁当の方を見る。見栄えは悪くない。ご飯が少し水気が多い気がするだけで、あとは普通に見える。俺はためしに定番の卵焼きをつまんだ。

 うむ。甘い。

 甘すぎる。ていうか、甘い卵焼きの甘さじゃない。

「飯倉。この卵焼き、何を入れた?」

 トイレから帰ってきた飯倉にそう問う。

「はい。バニラビーンズとメープルシロップです」

「これからは砂糖とみりんに変えよう」

「それじゃありきたりです! 私、創作料理に挑戦してるんです!」

 小説のプロットかよ。

 ここで、俺の頭にひらめきが起こった。

「分かったぞ」

「どうかしましたか?」

「最初の謎、お前は80%は解けて、15%は俺のだと言っていたな。残りの5%が分かったんだ」

「事が起こった理由、ですね。ホワイダニットです! どうしてあれは起こったのですか」

「飯倉。お前がメシマズだったからだ。先輩はお前の弁当を一度口にしたが、とても食べられるものじゃなかった。でも、お前に付き合ってくれといった手前、せっかく作ってくれた弁当を断るわけにもいかない。それで、自分の友達に飯倉が弁当を持ってこさせないようにするために、あの嫌がらせを手配したんだ」

 飯倉の好奇心に満ちていた顔が、目を見開いたまま、硬直する。

「しかし、お前は嫌がらせの犯人を看破してしまい、その友達はこれ以上飯倉に何をすることも出来なくなった。それでやむなく、次に駐輪場で会ったときに、また嫌がらせが来るかもしれないから、もう作らなくていいよ、とだけ言ったんだ。自分の好きな人が弁当を作ってくれる、普通の男子なら嬉しくて、絶対食べたいに決まってるはずだ。別に学校に持ってこなくても、休日のデートの時にでも持って来てくれると嬉しいな、とか、他に言いようはあったはずだ。それが全くなかったという事は、そのリスクを極力減らすためだ。自然消滅を図ったのも、そのせいだ」

 飯倉あいり像を前に、俺は腕組みをして二度頷く。

「これで全ての謎は解けた。一件落着だな」

「嘉手島さん!」

「はい!」

 飯倉の剣幕に俺はベンチに腰かけたまま姿勢を正す。飯倉の両の拳が震えている。

「まだです。私のメシマズの謎が残っています」

 いやそれは謎じゃなくてお前のスキルと考え方の問題だ。

「嘉手島さんには、私のサポートとして、この難問に付き合う義務があると思います!」

「思うだけなら自由と思います」

 出来るだけ飯倉の口調を真似て言ったつもりだったが、本人は気づいていない。

「こうしてはいられません、嘉手島さんの家に行きましょう。皆さんと一緒にお料理教室です!」

 飯倉は俺の手を取ると走り出す。俺もおたおたと後を追う。

 この冬は、笑顔で越せそうだ。


                                =了=

ご愛読いただきありがとうございました!

初長編ということで温めておいたお話を何度も書き直し、こちらに掲載するときに

「自分が普段馴染みのないライトノベル風に書いてみよう!」と思い立ち、この形となりました。

初掲載の日に思いがけぬ高評価を頂き、日間ランキング5位を獲得したことは大変な名誉であり、

今の私の励みになっております(*- -)(*_ _)

コメディタッチとシリアスタッチの明暗の差が激しくて戸惑いを覚えられた方もいると思います。

私自身、どのようにして調和を取っていけばよいか悩みに悩み、力及ばずこの結果になりました。

ミステリーと銘打ったのに、ノワール小説としての要素も強く、戸惑われた方もいると思います、反省しきりであります orz

次からは、もう少し作風における全体のバランス、テーマの統一感、キャラクターの立たせ方などを意識して自己研鑽に励みたいと思います。

次回作に関しましては出来るだけ早く皆様のもとにお届けできるように頑張りたいと思います=)

最後になりましたが、私のような一素人の拙作に長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございます。

もしご縁がありましたら、次の作品でもお会いできることを心待ちにしております。

改めて、お礼を申し上げます。

ありがとうございました。

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