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3-28 少年泥棒

 その後、井岡典史の母とよもやま話をかわしたが、俺の頭にそれが入ることはなかった。

 井岡衣知佳は典史と二歳違いの妹で、高校時代の夏休みに父さんと海に行った後、離岸流に巻き込まれて死んだ。そのフレーズが、俺の頭の中を埋め尽くしていた。

 家に一旦帰った俺を衣知佳が出迎える。が、俺は衣知佳と顔をあわせづらかった。

 何故俺の妹が井岡の妹と同じ名前であるのか。どちらかがつけるとしたら父さんである可能性が高いが、はっきりとしたことは何も言えないし、何しろそれだといやらしいと思う。二人きりで海に行くような仲だった女の子の名前を、別の女性と結婚した後でその子供につけるなんて不潔な裏切りだと思った。しかし、あの父さんがそんなことをするなんて考えにくい……。


 その日の夜。俺は井岡典史の実家に忍び込むつもりだった。

 勿論、井岡典史にこれ以上うちの家族に近づくのをやめさせるためだ。だが、井岡衣知佳の件を聞き家族に対する不信に裏打ちされた俺の好奇心は、今夜のノビにもう一つの目的を与えていた。

 機械警備が設置されていないことは昼の下見ではっきりしている。闇に紛れる服装をして、夜の20時。俺は遠目に井岡家の窓の明かりを見つめていた。

 最後の明かりが消えたのは22時。二階のリビングとは逆側の窓。一階の窓という窓は明かりが点くことがなかった。

 彼女の居住スペースは二階だ。侵入経路第一候補は一階、納戸の小窓。

 真夜中。お昼にお邪魔したときにあらかじめ開け、内カーテンで伏せておいた小窓から頭と片腕を先頭に細い身体を中に滑り込ませる。閉じておいた片目を開き、暗闇になれた視界で音を立てずにそこから物色する。めぼしいものは何もない。扉を開けたまま、廊下をはさんで向かいのもう一つの納戸を調べたが、そこも同じことだった。

 突き当りの部屋へ進むことにした。男物の部屋と一目でわかる。種々雑多なものがきちんと整理されてあり、以前の部屋の宿主であったものの生活感を感じさせなかった。きっと、井岡典史がいなくなった後で母親が整理整頓したのだろう。

 一つ一つ家具を調べていくうちに、ナイトテーブルの引き出しに鍵がかかっていることに気づいた。部屋中くまなく調べたが、合鍵らしきものが見当たらなかったので、きっと誰かの手の内にあるのだろうと思い当たった。当の家に住んでいる人間がわざわざ肌身離さず持っているとは思えない。鍵は、井岡典史の手にある。

 ここには、何かある。俺はそう確信した。

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