3-29 追憶
ピッキングで難なく鍵を開け、テーブルを引くと、中身が窓から漏れる月明りにその姿を黒光りさせた。
M1911のコルトガバメントだ。ドラマや映画でもよく見る、アメリカ製の自動拳銃。
俺は薄手のコットン手袋を身に着けた手で大きめのジップロックにその拳銃を放り込み、封をした。これで、井岡典史に対抗するネタは出来た。これ以上俺の家族に近づくなら、これを警察に突き出してやる。
本来はここで終わりのはずだが、もう一つ、俺には衣知佳の事が気がかりだった。それを調べたところでどうなるというわけでもなかったが、衣知佳は本来、俺のそもそもの人生では産まれ得なかった子だ。もしかしたら、その事とこの井岡典史の妹の事が関係あるのではないか、と気がかりだったのだ。
抜き足差し足で二階へと上がるとすぐ正面にふすま、右手に扉、左手には洗面所とトイレがある。右手はリビングで何もないことが分かっていたので、俺は正面のふすまをそっと開けた。対角線上の角にベッドがあり、井岡の母が静かに寝息を立てている。俺はベッドの足側に置かれた本棚にとりついた。
文庫本や単行本には目もくれず、単色の背である冊子を取り出しては中身を確認する。俺は、アルバムを探していた。その写真のいわゆる行間らしきものがあるのなら、それを読み取りたかった。父さんと、そして井岡家との、背景を目にしておきたかった。
本棚を調べ終え、その棚の上に乗せてあったブックエンドに手を伸ばす。
薄くびっしりとひしめきあったファイル群の間に挟まれるようにして、それはあった。緋色の表紙の真ん中をハート型にくりぬき、そこにIoka's Diary と見返しに記してある。
井岡の母が夫と結婚してからの思い出を写真としているもののようだった。ハネムーンらしき海外の景色を背景に取っている男女二人。赤子の写真。男女二人の幼子を囲んで団らんにいる家族の写真。この子供たちが、典史と衣知佳だろう。他人の家族だが、俺は自分の家族の事を思い出し、ページをめくるうちに少し涙ぐんでしまった。
子供が大きくなるにつれ、もう一人の男の子が現れた。俺はすぐに、それが父さんであることが分かった。二人は俺がおばあちゃん家で見た写真のように、大の仲良しぶりを純粋無垢な子供のころから見せつけている。
写真が中学時代と思しきものに変わる。俺のページをめくる手が止まった。
「母さん……?」
今よりも大分細く、固くまっすぐな印象の身体をした少女の顔は、間違いなく母さんの物だった。写真は母さんと衣知佳が仲良くピースしている写真群から、父さん、井岡典史、母さんそして衣知佳の四人が順に並び、手を繋いで楽しそうにして写っているものが増えていく。
なぜか典史の顔に違和感を覚えた。この男、どこかで見たことがある。だが、いつ、どこでだろう。
制服が変わり、高校時代と思しき時期に入る。四人の写真は相変わらず多いが、次第に父さんと衣知佳の写真のものも目立ち始めた。親公認の仲だったという事だろうか。二人は、とても仲よさそうに写っている。
数ページ後、衣知佳の姿が見当たらなくなった。その意味にすぐに思い当たり、俺のページをめくる手が重くなる。
大学生になってから、井岡典史の姿もほとんど見えなくなった。父さんと母さんだけの写真が多くなる。父さんの優しげな表情と、母さんの悲しげな表情。彼はどこに行ったのだろう。奇しくもそのアルバムの最後の写真は、俺がおばあちゃん家で見たときの写真になっている。嘉手島家と、井岡家。両家の付き合いの深さが計り知れた。
俺はアルバムを閉じ、それを元の位置に戻すと、静かにため息をつき、部屋を後にした。
そっと戸を閉じ、階段の方へ振り向く途中、何かが動いた気配がした。ハッとしてそちらを振り向くと、そこは洗面所で、動いていたものは鏡の中の自分の姿だという事に気づく。
俺の身体が、そのまま凍り付く。自分の姿を、その目を、じっと凝視する。
嘘だ。
こんなこと、ありえない。




