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「ふうん。ナナちゃんですか」
やらしい目つきのシムラー。
「やっぱり、女って得ですよねえ。流石、チョーさんのお気に入りって感じですよ」
「君の考えているようなことはないよ」身に覚えがない。
「まあ、いいですよ」
シムラーがいった。
「会社で僕のポジションがあがったら、ナナコさんには辞めてもらうことになりますから。いや、その前に寿退社かな。どうせ長く続きませんよ。あんな、情弱女」
おい、と奴を掴み最後まではいわせなかった。振りむく。背後からナナコ女史が睨みを効かせていた。
よく、本人の前でここまで悪態をつけるものだ。
「だって、そうでしょ」
シムラーがいった。
「あれだけ、ちまたで騒がれてんのに、なんで、まだ、自動アップデートにしてんすか?」
振りむくとナナコ女史は薄っすらと涙をその瞳に浮かべていた。
俺はいった。「仕方ないだろ」
「仕方なくないっすよ」とシムラー。「自分なんか、手動アップデートにして、10にアップグレードさせないフリーソフトまで導入してんすから。リテラシーがあれば普通やりますよね」
今回のアップグレードには専門機関の人間ですら多数が引っかかっている。
お天気ニュースのアナウンサーや大学教授がお仕事中にアップグレードされてしまい赤っ恥をかかされた案件が多数報告されていた。
*
「いや、シムラー。お前ほど、みんな優秀でも暇人でもないんだよ」
「そういうと思いましたよ」
シムラーは言い捨て立ち去っていった。
残された、俺とナナコ女史。
いらん仕事を奴は増やしてくれるもんだ。
ナナコ女史の元へむかい、フォローを始めたその時、世界が突然反転した。