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無事に冒険者登録を終えた俺はHランクの依頼票を確認する。


(討伐依頼は・・・・・・ないか。)


最弱魔物の筆頭であるゴブリンですらGランクだから予想はしていた。

そもそも、どうやらこの世界のゴブリンは一般の成人男性より強いらしい。

繁殖力が高く、人間よりも成長が早い。

大人になっても子供程度の背丈ではあるが、人とゴブリン以外の魔物の領域の間には必ずと言っていいほど生息しており、人間にとって一番身近な脅威だ。


それはともかく。

仕方なく俺は薬草採取の依頼を受け、買い取りカウンターへ向かった。


『これの買い取りをお願いします。』


取り出したのは様々な魔物の部位。

森で倒したのはゴブリンとフォレストベアだけではない。

随分と深い場所に落とされたので、森を抜けるまでに相当数狩っているのだ。

ランクHでは討伐依頼は受けられないが、こちらが勝手に討伐したものはこちらのランクがいくらだろうと素材の売却はできる。

依頼料や依頼達成の実績がつかないだけだ。


「!!・・・・・・はい。それでは査定いたしますので少々お待ちください。」


一瞬固まった買い取り担当さんだったが直ぐに持ち直した。

ギルドに入ってからのやり取りだとか、ギルドマスターからの異例の登録の承諾で悟りを開いたのかもしれない。

ランクを問わなければありふれた魔物しか出していないし。


査定はすぐに終わった。

ベテランさんらしくはたから見ていても手際がよかった。

当座の資金がほしかっただけなので適当にいくつかだけ出したからというのもある。

全放出なんてしたら待ち時間が長くなりそうだし。

資金を得たので今度は依頼をする方のカウンターに向かった。


「ご、ご用件をおうかがいいたします。」


若干緊張しているのだろうか?

どういう対応をすればいいのか迷っているのかもしれない。気持ちはわかる。俺が向こうの立場ならきっとあわあわしてると思う。


『二点依頼を頼みたいのです。ひとつはこの街の案内を。できれば顔の広い人がいいです。俺一人で出歩くと不気味がられて避けられるとか嫌ですし。』


「なるほど、わかりました。それでもうひとつは?」


『母乳を買い取りた・・・・・・』


「っ!!」


すべてを言い終える前に彼女は両腕でガードするようにして胸を隠した。

Eランク魔物の全力攻撃を見切る俺の目をもってしても残像しか見えなかったんだが。


『・・・・・・いえ、貴方のではなくて。誰か母乳の出る方を探してもらいたいんですよ。離乳食はまだ早いですし、母乳無しでは飢え死にしてしまいます。ほら、私赤ん坊ですから。できれば継続的に貰える方を募集したいです。』


驚きで一瞬動きが固まってしまったが、どうにか用件を告げる。


「な、なるほど、わかりました。報酬はどうされますか?」


『んー・・・・・・あいにく相場がわからないのでそのあたりも相談にのってもらえるとありがたいのですが。』


「そうですね・・・・・・街の案内は観光ガイドの料金を目安にすれば大まかなところは出せると思います。ぼ、母乳はさすがに前例がないので要相談という形で貼り出そうと思いますがよろしいですか?」


まあ、母乳の適正価格なんて普通は知らないよな。


『わかりました。それでお願いしま・・・・・・』


きゅるー


ん?今の音は?・・・・・・もしかして俺の腹の音か!?


「おやおや、おまえさんお腹すいたんじゃないかい?おばちゃんのおっぱいでよかったら飲むかい?」


そう言ってくれたのは隣の受付で何かの依頼をしていたお姉さんだ。

二十代後半といったところか?この世界ではどうやら結婚、出産は日本よりかなり早いようなのでそういう意味ではおばちゃんって言うのもわかる気がするが、俺的には全然余裕でお姉さんだ。

っていうかぶっちゃけ俺の前世の年齢より若いし。

お姉さんの厚意に甘えてギルドの奥の部屋で母乳をいただく。

さすがに人前ではできないからな。

幸いなことに性欲は働いていなかった。

胸フェチではなかったが男の子(31歳)だからな。性欲が仕事しちゃうと非常にマズイのだよ。

まあ、代わりに食欲が限界突破して、吸い尽くすぐらいの勢いで吸い付いてしまったが。


◇◇◇


(知らない天井だ。)


気が付くと俺はベッドに寝かされていた。

どうやら満腹になってそのまま眠ってしまったらしい。

ここはどうやら冒険者ギルドの一室らしい。というか多分さっきの部屋だ。

多分というのは食欲に頭を支配されて周りがよく見えていなかったためだ。俺っておちゃめさん♪


『・・・・・・。』


まだ若干眠たいが、ふよふよと起き上がって移動する。


「あっ、ヒロちゃん起きたんですね。・・・・・・あっ、すいません寝顔がかわいらしくてついちゃん付けに・・・・・・」


寝る前と百八十度変わったと言っていいぐらいに態度を軟化させた受付嬢に苦笑いをしながら、別にいいですよと言う。


『それよりも、先程のお姉さんはもう帰られましたか?』


「?ああ、マリアさんですね。ええ、帰られましたよ。あれから三時間ほど経っていますから。」


おお、もう三時間も経ってたのか。随分と長い昼寝をしてしまったものだ。赤ん坊的には普通か?


『そうですか。ところでそのマリアさんがされた依頼はどういったものでしょう?』


依頼書に目を通す受付嬢。


「・・・・・・この契約内容だと守秘義務には反しませんね。ポポロ草という解熱効果のある薬草の採取依頼ですね。庭で育てていたものが病気で全滅してしまったので、できれば株ごと持って帰ってほしいというご依頼です。」


『それはどのような草か確認する術はありますか?』


「こちらの薬草辞典で確認することはできますが、恐らくFランク魔物の生息区域にしか生えていないと思われます。依頼票もFランクで発行していますのでヒロさんの受注は不可能です。」


とか言いながら辞典の該当ページを開いて見せてくる受付嬢。

挿し絵と薬草についての細かい説明が書いてある。

辞典と名がつくのに納得できるだけの厚みはある。

それの中から一発で該当ページを開いたというのはなかなか凄いのではないだろうか?もしかしてそういうスキルを持っているのか?

おっと思考が逸れた。

話を本題に戻そう。


『こちらが勝手に採ってくるのは別にいいですよね?止められても行きますが。』


むしろ、そういう振りですよね?


「それは、そうですが・・・・・・」


『勝手に行くので報酬は要りません。ギルドの手数料だけ引いてマリアさんに返金してあげてください。』


喋っている間にも薬草辞典を確認して目的の薬草の情報を収集する。ついでにHランクで依頼の多い薬草もチェック。

危うく薬草採取の依頼を受注していたのを忘れるところだった。


『では行ってきます。』


そう言って俺は森に『転移』した。

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