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第50話 Sランク

『純潔の薔薇』。

男女五人の混成パーティ。


 弓職のマコト。

パーティ内における唯一の男性であるが、外見は夏の太陽とヒマワリが良く似合うボーイッシュな女の子。初見で彼の性別を判断できる者は少ない。揉まずにはいられないプリプリッとしたお尻が、七分丈のカーゴパンツを押し上げている。


 盾職のエリカ。

 セミロングのゆるふわカールが良く似合う美少女。大盾を構え凛々しく最前線に立つ姿は古代ギリシャの戦女神の如くである。何か思う所でもあるのか、ソフィア先生に師事し強さを求めて修行中だ。何故だか最近、妙に俺へと突っかかってくる。


 片手剣のユキコ。

 宝塚歌劇団の男役トップスターのような堂々たる振る舞い。肩口ぎりぎりで切り揃えたボブカット。落ち着いた物言いは家名を背負った誇り高い女騎士のようである。攻め寄せる魔物を切り捨てる高火力アタッカー。


 槍職のナオミ。

 揺れる赤毛のポニーテールが特徴的な槍使い。長槍を肩に掛け、明るく快活にしゃべる彼女はパーティのムードメーカー。人当たりが良く、気さくな口調で屋敷の子供達に懐かれている。


 魔法職のユカリ。

 長い黒髪がさらりと肩から腰にかけて波打つ。日本人形のような真っ白い肌。豊かなまつ毛の下から送り出される流し目にハートを打ち抜かれた男は数えきれない。うっかりすると、鈴の音が聞こえてきそうな涼やかな立ち居振る舞いに目が吸い寄せられている。


「カズヤは廊下の雑巾がけ。ナオミ、フィオナさんから、もう一本ほうき借りて来て」


「おい・・・、エリカ」


 ラモア高地からマラガの屋敷へ帰り着いて翌日。

 昨夜は積もり積もった旅の疲れに襲われ、夕食も早々に眠りについてしまった。


「あいよー。あーもうっ!ホコリとクモの巣だらけ。髪の毛に付きそうでヤダなあ」


「あのな・・・、ナオミ」


 フィオが子供達と住んでいる家とは別の建物。

 使い道が無く、そのまま放置していた別館。


「カズヤ、そんな所にボケっと立ってるとジャマだぞ」


「あ、ごめん。イヤ、そうじゃなくてだな・・・、ユキコ」


 窓の外で鳥が鳴き始めたばかりの早朝、俺を起こしに来たアリスをベッドの中へ引き摺り込み、二度寝を決め込もうとしていたところに、薔薇組が押しかけてきた。


「ねえ、このカーテン、色が地味過ぎない?やっぱり買ってきた方が良いかしら?」


「カーテンの色はそのくらい落ち着いていた方が・・・、色はどーでも良いんだ。ユカリ」


 体温と同化したぬくい掛布団から引き剥がされ、半覚醒状態の朦朧としたまま急き立てられ、気が付けば、寝間着のまま別館の扉の鍵を開けさせられていた。


「カズヤ、テキパキ動かないと晩御飯までに終わらないわよ」


「だーーーっ!俺のハナシを聞け!」


 壁を殴りつけ、意図的にハナシをすり替え続ける薔薇のバカ女を振り向かせる。


「ナニよ?」


 ため息交じりに両手を腰に当て居丈高に俺を睨みつけるエリカ。

 どこまでもふてぶてしい態度。


「コレは、どういう事だ?」


「どういう事って?」


「ナゼ、俺の屋敷の別館に荷物を運びこんでいる」


 俺の周りに集まって来た薔薇の四人からの威圧感がハンパない。

 路上で女ヤンキーに絡まれるマジメな中学生のよう。

 だが、勝手気ままに振る舞うバカ女に、ここらでガツンと言ってやらねば。

 怖くなんか無いゾ、ま、負けるもんか。


「ソフィアさんとアリスに、ハナシは通してあるから」


「そ、そうか、ソフィとアリスが了解してるなら・・・って、そうじゃないだろ。ここは俺の所有する屋敷なんだから、ハナシは俺に通せよ。もう一度言うぞ、これはどういう事だ?」


 ソフィとアリスの名前が出てきた途端に腰が砕けそうになる。

 最近、ソフィとアリスの二人に俺の魂の根っこを鷲掴みにされてるような気がする。


「ふぅ、ごちゃごちゃうるさいわね、分かったわよ。カズヤ、今日から私達、ここで暮らす事にしたから。ヨロシクオネガイシマス。ハイ、通したわよ。これで良いわね」


 その開き直った態度には、さすがにカチンと来るモノがあるぞ。


「ご、ごめん、カズヤ君、ボクも知らない間に、こんな事になってて・・・」


 俺と薔薇の女子の間に挟まれたマコトちゃんが、小動物のようにオロオロしている。


「マコトちゃんは良いんだ。マコトちゃんはむしろ本館の方へ・・・。いや、違くて、このバカ女達が・・・」


「何か問題でもあるの?家賃も食費も払うって言ってるんだから、イイじゃない。家は住まないと、どんどん痛んでいくわよ。ほら、口より手を動かす!」


「あのなあっ!」


 今、沸点を越えた。


「どうしたの?ケンカなんかして、道の向こうまで声が届いているわよ?」


「ソフィアさん!」


「ソフィ・・・、こいつらがさあ・・・」


 風の様に現れたソフィに、事の経緯を話す。


「エリカ、『私達は良いけれどカズヤに理由を話して許可を貰いなさい』って、ちゃんと言ったわよね」


 いいぞ、さすがソフィだ。

 いかに魂を支配されているとはいえ、なんでもかんでも俺の頭越しに決めてしまうのは如何なものかと思っていたが、ちゃんと俺を立てているではないか。

 ガツンと言ったれ。


「ご、ごめんなさい。その・・・、なんていうか、言いだし辛くなっちゃって、このまま勢いで押し切っちゃえって感じになっちゃって・・・」


「とにかく、このままここで立ち話もなんだから、向こうの食堂で話しましょう」


 ソフィに怒られてシュンと肩を落としている薔薇の女子とゾロゾロ移動する。


「そのぅ、昨日、カズヤ達と別れた後、下宿に帰ったら。歳は私達のちょっと上くらいの知らない男のヒトが待ち構えていて」


 おとなしく食堂の椅子に座ったエリカが話を切り出す。


「その男は下宿で私達がお世話になっていたお婆さんのお孫さんで、その孫が言うには、おばあさんの具合が悪くなって、自分の家に引き取り、母が・・・つまり、お婆さんの娘が面倒を見る事になった。そして、お婆さんの代わりに、その男が下宿の管理をすると言いだしたのだ」


 次いでユキコが言う。


「ところがさあ、そいつ、アタシ達に向かって『家賃を上げさせてもらう。最近、稼いでいるようだから、このくらい問題無いだろ』なんて一方的に言いだしてさあ」


 不満げに口を尖らせ、赤毛のポニーテールを揺らすナオミ。


「おまけに、嫌らしい目つきで舐めまわす様に見て、『嫁の貰い手が無いなら、俺がまとめて引き取ってやってもいいぞ』そう言って、私のお尻を撫でてきたんです」


 その時の事を思い出したのか、ユカリが不快な顔で背後を振り向く。

 ふむ、ゲスいな。


「結局、四人でそいつをボコボコにのし上げて、出て来ちゃったの」


 四人揃って、上目使いで俺の様子をチラチラ見てくる。

 ふむ、ボコっちゃったか。


「そんならそうと言えば良いじゃんか。そういう理由があるなら、俺だって良いって言うさ。どうして普通に話せないんだよ」


「なんか、むしゃくしゃしちゃって、気づいたらいつの間にか、カズヤ相手にケンカ腰になっちゃっていて、どうしようもなくなって・・・、その・・・、カズヤ・・・、ごめんなさい」


 うっ、突然そんな神妙な顔つきで謝ってくるなんて、ズルイぞ。

 お母さんに怒られて小さくなっているような薔薇の女子。

 なんか、俺が悪いみたいじゃないか。


「フィオ!今日からご飯の量が五人分増えるから、よろしく!」


「はい、かしこまりました旦那様」


 厨房の奥の方で心配そうに成り行きを見守っていたフィオが、ほっとした様子で答えた。


「じゃあ、さっさとやって片付けようぜ。今夜の晩メシは引っ越し祝いだ」


「ありがとう、カズヤ!」


「引っ越しソバか菓子折り、せめて挨拶のタオルくらい用意して来いよな」


「ばかカズヤ・・・、ありがと」


 そんな訳で、屋敷の別館に薔薇組が住み着いた。

 もとからメシをたかりに来ていたし、食卓の席が賑やかになるのは良い事だ。

 ジョシュとドナは、遊んでくれるお姉さんが増えたので単純に喜んでいる。

 あれこれと姦しく騒ぎ立てる薔薇の女子を酒の肴にしながら、酒杯をゆっくり傾けるのも悪くない。








 マラガ冒険者組合。

 マラガの大通り、その中央広場に面した大きな石造りの建物。

 食堂兼、居酒屋兼、組合業務の受け付けを兼ねた大広間は、本格的な冬を前に魔境、狩場から引き揚げてきた冒険者達で、いつも以上に込み合っている。

 旅先での活動報告とゴブリン討伐報酬を受け取る為に組合へ足を運ぶ。


「よう」


「ちーっす」


「おう」


「どもども」


 マラガに住み着いて半年、ぼちぼち挨拶を交わす程度の顔見知りも増えてきた。

 髭面の筋肉ダルマ達をすり抜け受付へ顔を出す。


「冒険者のカズヤさんですね。ゴブリンの討伐報酬が届いております。こちらへサインしてください」


「ふむふむ、『私ことカズヤは、サナエを妻とし、朝、昼、晩と日に最低三回、その容姿を褒め称え、いかなる我がままも嫌な顔一つせずに受け入れ、心からの愛をささやき続ける事をここに誓います』ナルホド・・・」


 意味不明な怪文書をグシャグシャに丸めて、広間の隅に置いてあるゴミ箱に投げ入れる。


「あら、書類を間違えましたワ。オホホホ」


 カズヤパーティの一員となった今でも、サナエさんは組合の受け付け嬢をやっている。

 都合の良い時だけ出勤する超非常勤のパートタイマー。

 そんなんでいいのか?

 そんなに組合は人手が足りないのか?


「余計な事せんで、さっさとソレを渡せ」


「失礼致しました。ところで、先程から盟主様を待っている方がいらっしゃいますよ」


「俺に?」


「はい。あそこのテーブルに座っているヒトです」


「何の用だろ?」








「最近、この辺りで噂になってるよ、腕を上げてるパーティだってね。どうだい?同じ転生者同士、俺のクランに入って一緒にやらないか?」


 組合のテーブルを挟んで俺の正面に座っている男は、見た事も会った事も無い転生者。

 二十台後半から三十台前半くらいの歳恰好、これといった特徴の無い顔つき。

 強いて言うなら、訪問販売の営業マンか。

 その左隣には、パーティメンバーらしき男が二人並んで座っている。


「いやいや、近場でウロウロするのがやっとの初心者パーティなんで、御期待には応えられないかと」


 なんだろうなあ?

 見ず知らずのクランから勧誘されるほど、大した活躍はしていないが。

 サナエさんが用意してくれたお茶をズルズルと啜りながら、考えを巡らせる。


「今まで地道に経験を重ねてきて、冒険者として手応えを感じられるようになった。もっと大きな狩場を攻略する為に、クランメンバーを増強することにしたんだ。俺達のクランに加入したいって言ってくるパーティもいくつか有るんだが、俺は、特別君に目をかけていてね」


「いや~、そう言われましてもですねぇ。どこかのクランとかに入る気は無いんですよ」


 こいつ、しつこいぞ。

 初対面の相手だから、一応気を使って、やんわり断っているのに。


「これでも俺達のクランはSランクだ。来年は魔境の攻略も視野に入れている」


「は?Sランク?」


「そう、Sランクだ」


「Sランク・・・、そうですか・・・、Sランクねぇ・・・、ちょっと失礼」


 いつも通り、俺の斜め後ろに控えていたサナエさんの腕を取り、広間の隅の方へ引っ張って行く。

 ちょっと待て、受付の仕事はどうした?

 自由すぎるぞ。


「あん♡、盟主様ったら強引なんだからぁ♡」


「やかましい」


「サナエ、いつでも、どこでも、覚悟はできております」


 壁際で顔を赤くして俯くサナエさん。

 客観的に見ると俺が壁ドンしてるみたい。

 メンドクサイから、いちいち付き合わないぞ。


「どういう事だ?ランキング制度なんか聞いて無いぞ。冒険者カード作ってポイント貯める必要があるのか?それはお店で買い物するときに提示するとポイント貯まるのか?Tポイントか?Pポイントか?それともマイレージか?」


「落ち着いてください、盟主様。あれは自称Sランクです。いえ・・・、半自称ランキング制度なんです」


「自称?」


 ちょっと想定外過ぎる言葉が飛び出してきたので、目を丸くした。


「はい、転生者達が独自基準でランキング制度を作って、勝手に該当ランクを自称してるんです。ゴブリンを倒せたらタンポポランク、オークを倒せたらヒマワリランク、魔境に行けたらアジサイランクとか、そんな感じです」


「頭痛くなってきた・・・。どうしてそんなアホな事始めたんだ?」


 あまりのバカバカしさに、顎が外れそうになる。

 自分でランキング作っちゃったりとか、中二病の感染者が多すぎる。

 しかも末期症状。


「こっちの世界に転生して、頭の中でシステムメニューが使えるようになったんですけれど、その中には向こうの世界と違っているモノがあるのを御存知ですか?」


「ずっと前にマコトちゃんから聞いたような気がするけど、とっくに忘れた」


 そう言えば、そんな話をしたような気がする。

 俺にとってはどうでも良い事なので、すっかり忘れていた。


「そうですか・・・、はぁ・・・、もっともシステムメニューそのものが使えない盟主様には、関係ありませんから、興味が持てないのも分かりますが・・・。細かく説明すると長くなりますので、とりあえず要点だけお話しさせていただきます。どういう訳か、ステータス画面から一切の数値表示が無くなりました。腕力や知力、敏捷性などの数字が消え、ステータスバー、数値とセットになっている横棒ですね、それだけになってしまいました。そして、レベル表示は獲得経験値も含め、ステータス画面から消えました」


「ふむ・・・、だけど、今の話と自称ランキングが、どう関係するんだ?」


「推測ですけれども、みんな自分の立ち位置をはっきりさせたいんじゃないでしょうか。ゲームの時は、この位のレベルなら、あの場所に行ける、あのモンスターが倒せる。って目安が有ったじゃないですか。そして、レベル七十の私はレベル六十のこの人より強くて、レベル八十のあの人より弱いっていう明確な物差しが有ったんですが、こっちに来て、それが無くなってしまったんです。人間って学歴とか職業とか、本能的に社会階層の中で自分の位置を求めますから、何かそういったモノを作って安心したかったんでしょうね。あるいは単純に今、自分がどの位強いのか分かり易い形で知りたいだけなのかも知れません」


 ソフィやクリスさんは、冒険者としての強さを表現するとき、『中の上』とか『ベテラン』、『ぼちぼち』『まあまあ』などのざっくりした言い方しかしてないな。

 こっちのヒト達は冒険者同士の序列はあまり気にしてないようだ。

 いや、強者故の余裕か。


「望んでヒエラルキーを作りたがるって・・・、向こうの世界から引き摺って来た闇が深すぎないか?うーん、それって、転生者の間でどのくらい認知されてるの?マコトちゃん達からそういう話を聞いた事は無いけれど」


「どうでしょう?毎年、冬になると転生者が集まって、連絡会というか、寄合というか、そういう集まりが有るんですよ。たぶんそこで話しているんだと思います。おそらく薔薇の皆さんは、そういった集まりに進んで出るようなタイプではありませんから、噂に聞いた事はあっても、詳しくは知らないでしょうね。私も一度参加した事があるんですが、基本的に忘年会のようなものでした。実のある話は無かったので、それっきり出席していません。今年は盟主様が出席してみたらどうですか?内容はともかく、この辺を拠点にしている転生者達が集まってきますから、情報交換くらいは出来ますよ?」


 転生者のエゴがぶつかり合う忘年会。

 笑顔で世間話して、テーブルの下で足を蹴り合う絵面が思い浮かんでゾッとする。

 若しくは、中二病的な二つ名、必殺技の自慢大会。

 『やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは、魑魅魍魎蔓延る闇より生まれし者、深淵の支配者、無双黒炎龍の使い手、麻羅牙守カズヤなり。天を仰ぎ地に伏し、子子孫孫まで我の偉業を語り継ぐが良い!』

 む!

 なかなかカッコイイセリフが出来たぞ。

 俺もこの熱い想いを、誰でも良いからぶつけたくなってきた。

 ふと気づいたら、『深淵の支配者』と『麻羅牙守』が被ってる。

 お前は、いったい何処を守っているのだ?

 推敲の必要アリ。

 屋敷に持ち帰って、もうちょっとカッコ良くしよう。


「俺もそんなトコ行きたくないよ・・・で、あいつ、Sランクって言ってたけど、そんなに強いのか?そうは見えないけれど・・・」


「盟主様、誤解してらっしゃいます」


「何を?」


「彼等の基準で、Sランクは下から二番目でございます」


「は?」


「一番下がAランク、次がSランク、そのまた次がSSランク、SSS、SSSR、SSSS、そして・・・」


「分かった、もういい、それ以上聞きたくない」


 ランキングの大安売り、ハイパーインフレが起こっているじゃないか。


「盟主様、ここからが面白くなるところでございますよ。さらにその上が、ファイブスター、そして・・・」


「サナエさん、その先の落ちは読めた。セブンスターって言うんだろ?」


「さすが盟主様、ご名答でございます」


 椅子の上で自慢げにふんぞり返っている男をチラリと見やる。

 説得材料として口に出した『下から二番目のSランク』の価値を微塵も疑っていないようだ。


「その滅茶苦茶な名称はなんだ?ソシャゲのカードガチャか?ちっとも進まない大河漫画か?タバコの銘柄か?本気でそんな事言ってんのか?よくも下から二番目のランクを恥ずかしげもなく、あんな大威張りで口にできるな」


「さあ?『俺達は魔境に行けるかもしれない。すごいでしょ、褒めて、褒めて』って言いたいんじゃないですか?行くだけなら、誰だって行けますよ。帰って来れるかどうかは別として、ですが」


「それにしたって、一番下がAで、下から二番目がS?豆腐の角に頭ぶつけたとしか思えん」


 そのうち、アンドロメダ級とかマゼラン級とか出てきそうで怖い。


「CとかDとか付けると、弱そうに聞こえるからじゃないでしょうか?」


「ダメだ、眩暈がしてきた。倒れそう」


 聞けば聞くほどアホらしい。

 もはや笑いを通り越して、背筋に悪寒すら走る。

 このまま組合の外に逃げてしまいたかったが、そういうワケにもいかないので、急に重くなった足を交互に動かしイヤイヤ席へ戻る。


「すいませんでした。席を外してしまって。やっぱりお断りします。俺はこのマラガで畑耕してゆるゆると生きて行くつもりなので」


「そんな事言わないで、もっと考えてみたらどうだ?せっかく、この俺が一番最初に声をかけてやったんだから」


 なぬ?『声をかけてやった』だと?

 おっとっと、『Sランク』のクセにずいぶん上から目線ですね、化けの皮が剥がれてきたぞ。

 この程度の腹芸が出来ないようじゃ、いつまで経っても『Sランク』止まりだな。

 思い通りに行かなくて、噛みしめた奥歯から歯ぎしりの音が聞こえてますよ。


「お言葉はありがたく頂戴いたしますが、重ねてご遠慮申し上げます。今日は風呂当番なんです。遅れるとこっぴどく叱られますので、これにて失礼をば」


「おい、待てよ。エルフと教会の女を連れてるからって、いい気になるな」


 俺の腕を掴もうとして伸ばしてきた手をするりと躱し、空振りした腕を掴んでそのまま手前に引っ張る。

 テーブルの上に乗っていたコップや食器、あれこれを派手にまき散らし、支えを失った男が、前のめりに突っ伏す。

 飲みかけのお茶がひっくり返ったが、俺の分のコップだけヒョイと持ち上げ、残りを飲み干してからテーブルに戻す。

 やっぱり、動作が遅いし雑だなあ。

 こいつよりは俺の方が強そうだ。

 つまり、俺はSランク以上ってコトか?

 Sランク以上・・・、ふむ、なんだか自分が強くなった気がしてきた。

 案外、気持ち良いカモ。


 なるほど、何で俺なんかを誘ってくるのかと思ったら、ソフィとアリスがお目当てだったか。

 仮に『Sランク』クランに合流したとしても、好みのうるさい彼女達が、こいつと仲良くするとは到底思えないが。


「一つ言っておく。俺はいい気になどなってはいない。あんたに俺の日頃の気苦労は分かるまい」


 ホントだぞ、精神的な重圧に押し潰されそうなんだから。

 続けて俺に飛び掛かってきた取り巻き二人の足を引っ掛け、肩を押して、お茶まみれのテーブルから体を起こそうとしている『Sランク』の男の上に重ねる。


「カズヤ、用は済んだ?」


 外で待っていたソフィとアリスが、組合の入口から顔を覗かせる。


「ああ、ちょうど今終わった。そんじゃ、そういう事で悪しからず」







 教会の裏庭に面したロバート司教の執務室。

 深いワインレッドの大きな机の後ろには、壁いっぱいに本棚が作り付けられている。

 古い本の匂いと、炒った黒豆のお茶から漂う香りが混ざり合う。

 あちらこちらに出しっぱなしの本が積まれているが、不思議と散らかっている感じはしない。

 妙に居心地が良い。


「ほう、クリス達と会ったのか」


「ロバート司教はクリスさんを御存知なんですか?」


 むぅ、ロバート司教も顔が広い村の住人か。

 余計な悪口言ったら、司教の忍びに報告されそうだ。


「ああ、初めて会ったのは、私がまだ教会の騎士団で現役だった頃だな。当時は、まだ頭角を現し始めたばかりで、その辺のガキ大将と変わらなかったが。元気でやっていたかね」


「はい。ガキ大将ってのは、今も変わってませんね」


「はっはっはっ、そうか、変わってなかったか。カズヤも無事に狩りの季節を乗り越える事ができて良かった。冒険者は実入りも良いが、最初の季節で約半数が消えていくと言われている。先ず一年、そしてまた一年、何度季節が変わっても、常に最初の一年だと思い、決して気を抜かないことだ。この孤児院からも多くの者が冒険者や兵士として旅立って行ったが、帰って来る者は年を追う毎に少なくなっていく。私は、子供達をこの国の盾として使い捨てにする為に送り出しているのではない。だが、ツテもコネも無い彼らには、それ以外に身の立てようが無いのも事実だ。少しだけでも、悲しい結末を先送りにできればと思って、ボリスやソフィ、子供達に先を示せる技術を持っている者を招いてはいるが・・・、いくら言っても、詮無い事だ。すまない、カズヤ相手に愚痴ってしまったな」


 窓から差し込む陽射しが、司教の顔に深く刻み込まれた皺を浮き立たせる。


「俺はソフィの言う事聞いて、右に左に行くだけなんで、大丈夫っすよ」


「カズヤ、ソフィの尻に敷かれすぎるのも、考えモノだぞ」


「ソフィの尻は敷かれ心地が良いんで問題無しです。そんな事よりお願いがあるんですが・・・」






「あの、あの、あの、わたしは歌が歌えます。その、その、う、歌いますっ!」


「炊事、洗濯、掃除、家事は一通りこなせます。水桶も二ついっぺんに運べますっ!」


「あんた、この間、洗濯失敗して、一つ上着を駄目にしてたじゃない!」


「あ、あれは、元からボロになっていて・・・、ちょっと、割り込んで来ないでよ!」


「わ、わたしはご飯さえ食べさせてもらえれば、贅沢なんか言いません!」


「ら~ら~らら~♪お、踊りだってできますっ!」


 カオスだ・・・。

 薔薇パーティが屋敷の別館に住み着き、農場でブル一家も働き出した。

 メシの支度、洗濯、掃除、フィオだけでは手が回らなくなってきた。

 屋敷で相談した際に、『掃除くらい自分達でやれば良いんじゃないの?』と発言したら、ソフィに諭された。

 金銭的に余裕のある者は、積極的に人を雇う必要がある。

 飲む、打つ、買うで無駄遣いするのは良くないが、手の届く範囲で、農地を造り、商いを興し、適度に消費し、雇用の機会を作るのが義務だそうだ。

 俺の予定では、春に兵役を終えて帰ってきた孤児院卒業生達から何人か雇って、ぼちぼち農地を耕していけば良いと思っていたのだが、そんなワケで、急遽、孤児院から下働きの女の子を雇う事になった。


 シスターマリサに希望者を連れて来てもらったのだが、小さいのから大きいのまでゾロゾロ出てきた。

 ひょっとして、女の子全員と違うか?

 あの子はこの間までオネショして泣いていたぞ?

 みんなの後にくっついて来ただけで、なんで俺の前に並んで立っているのか分かって無い子もいるぞ?

 大丈夫か?

 シスターマリサ・・・、俺の意を汲んでちょっとくらいは、ふるいにかけてきてくれよ。

 ロバート司教の話を聞いた後では、全員引き取ってやりたいのだが、それをすると、単に孤児達の住む場所が教会からカズヤ屋敷に移っただけになってしまう。

 ここは、ぐっとこらえて歳の順に三人だけ選ぶ。

 名前は、アン、ベティ、クララ。

 A、B、C・・・、覚えやすくてたいへんよろしい。

 歳は十五から十六.

 年齢が上がるにつれて、孤児院には居づらくなる。

 決して、司教やシスターは出て行けとは言わないが、自分達が出て行かないと次の子供が入れないのも自覚している。

 田舎の豪農、大店の商家にもぐり込みたくても、優良物件は親類縁者で抑えられてしまっている。

 いっその事、女子ではあるが、自治領軍に身を任せてしまおうかと思い悩んでいた。

 そんな折、降って沸いた就職先。

 雇用主は、孤児院で見知った顔。

 これ幸いに、蜘蛛の糸にでもすがる思いで飛びついた。


 別館に住まわせようかと思ったが、そういえば薔薇パーティに占拠されたのだった。

 土地なら有る。

 カネなら有る。

 新たに使用人用の住居を建てる事を即決し、建設業者は司教に手配してもらう事にした。

 しばらくは、孤児院から通いで働いてもらう事と相成った。


「よろしくお願いしますっ!」


 がんばって稼がにゃいかんな。


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