第48話 薔薇の乙女
≪カズヤ≫
クリスさんとベネットさんが、マコトちゃんを不思議そうに凝視している。
「おい、カズヤ・・・。あいつ男だって知っていたか?」
マコトちゃんは肩まで湯に浸かり、頭の上にタオルを乗せて、幸せそうに旅の疲れを癒している。
「当たり前ですよ、見れば分かるでしょ」
だって、象さんが付いているんだから。
ふむ、クリスさんは前線基地にいる間、マコトちゃんと一緒に立ちションする機会が無かったのだな。
「そ、そうか?そういうものか?」
「クリスさん・・・、マコトちゃんはオトコノコです」
「・・・?いや・・・、男の子って歳でもないだろう」
「クリスさん、そういうんじゃ無いんです。マコトちゃんはオトコノコで、オトコノコは男の子とは違うんですよ」
口をぽっかり空けて『はぁ?』という表情をするクリスさん。
この異世界にとって『オトコノコ』という形而上的な概念は早過ぎたのであろう。
マコトちゃんの存在に説明を付けようとしても無駄というモノである。
我思う故に、我在り。
マコトちゃん思う故に、マコトちゃん在り。
習うより慣れろ、考えるより感じろ、である。
「ナニ言ってんだ?カズヤ、お前・・・、まさか・・・、両方いけるクチか?」
「クリスさんこそ、ナニ言ってんすか。そんなワケないでしょ」
ソフィの年上のお姉さん的な美しさ、アリスの妹的な可愛らしさ、サナエさんの社長室の情事的な妖しさ、薔薇の女子達の女子大生的な華やかさ。
俺は、女性が大好きだ。
俺の特殊スカウターによると、ソフィはリンゴ、アリスは急成長中のミカン、サナエさんはメロン、エリカはモモ。
俺は、おっぱいが大好きだ。
俺自身、いったい何の事を口走っているのか分からなくなる時があるが、女性を賛美するその思いに一片の曇りもない。
「そ、そうか・・・、それなら良いんだが・・・」
あのクリスさんが動揺している。
さすが、マコトちゃんである。
当の本人は、『ホニャラ~』とした表情で、『イ~チ、ニ~イ、サ~ン、・・・』と数を数え始めている。
律儀に温泉定番をこなすマコトちゃん。
つい、『お前さん、今、何時だい?』などとイタズラしたくなる。
何故、マコトちゃんの胸が絶壁なのか?
何故、マコトちゃんの股間にお母さん象がいるのか?
それは、何処にでもいて、何処にもいないナニかに問いかける様な、空しい疑問である。
しかし、この広い謎異世界。
謎理論による謎魔法によって作られた謎性転換薬が、何処かの謎迷宮の奥底に眠って、俺に発見されるのを待っているかも知れない。
そこで、ふと思う。
仮に、そんな都合の良い謎秘薬があったとして、安易に飛びついてしまっても良いものであろうか?
マコトちゃんは、マコトちゃん故に、マコトちゃんなのだ。
『オトコノコ属性』という希少価値を失い、心も体も女性になってしまったマコトちゃんは、ただの可愛い女の子だ。
はたして、それで良いのだろうか?
ただの可愛い女の子・・・、うん、それは、それでイイかもしんない。
ここは異世界の温泉郷。
戦いに明け暮れた戦士達が、ひと時の癒しを求めて身を寄せる場所。
ここで英気を養い、渡り鳥達は再び荒野へと旅立って行く。
神話の英雄のように、幾多の苦難を乗り越え、杖を突き、足を引き摺り、刀折れ矢尽きて、満身創痍になりながらも辿り着いた。
温泉旅行に行くと決意してから、ひょっとしたら十万字を越えてしまうんではなかろうかと思うような長い道のりだった。
ここは知る人ぞ知る神秘の隠れ湯・・・、では無く、賑やかな温泉街であった。
屋台から漂う香辛料と温泉特有の硫黄の匂い。
そこかしこから聞こえてくる客引きの声。
土産物屋の店先に並ぶ木刀ならぬ、西洋剣。
軒を連ねる西洋風の建物に違和感を覚える以外は、元いた世界の片田舎の温泉街と変わらない。
これで秘宝館があったら完璧だ。
温泉街の中央に、山の中腹から大量に湧き出るお湯を源泉とした流れの緩い川が流れている。
その川に背中をくっ付けるようにして、温泉宿が立ち並んでいる。
温泉宿に室内風呂は無く、宿の裏口から直接露天風呂へ出るのが、この街の一般的な造りであるそうだ。
女性陣が吟味した宿の受け付けで安くない前払いを済ませ、部屋を取る。
何故か薔薇組の分まで俺のサイフから出て行ったが、今は堪えてマラガに戻ったら、きっちり清算してくれる。
「手桶よし、タオルよし、ヘチマよし、アヒルよし、俺よし!」
お風呂セットの確認を済ませ、服を脱ぎ散らかし、宿の裏口から足音を鳴らして駆け出す。
川の上流が女湯、中ほどが混浴、下流が男湯。
境界線上に申し訳程度のロープが張られている。
「あれ?みんな一緒じゃないんだ」
「カズヤ、お前達のせいだからな」
俺の隣にクリスさんが一糸まとわぬ姿で立つ。
六つに割れた腹筋が憎らしい。
「へ?」
「転生してきたヤツ等がよ、男と女を分けろ、分けろって騒ぎ立ててなあ。余計な事言いやがるから、最近、こういうのが増えてきちまってるんだ」
なるほど、薔薇の女子の様な風情を解さぬ者共が、この異世界に悪影響を与えているのだな。
当然の如く、ソフィとアリスも我がままを言う薔薇の女子に引っ張られて上流の女湯ゾーンへ消えて行った。
薔薇のバカ女さえいなければ・・・。
アリスはニコニコしていたし、サナエさんは当然の様に俺の斜め後ろに控えていた。
ソフィもまんざらでも無さそうな雰囲気だったので、このまま自然な流れで混浴に突入できたはずだったのに。
まあ、この程度なら予測の範囲内だしな・・・。
そう思い、潔く隣の混浴ゾーンに腰を据え、入浴する天女達をのんびり眺め、目の保養に勤しもうとしたら、薔薇のバカ女達が狂ったように河原の石を投げつけてきた。
「痛っ!ちょっ、おい、やめろ!石を投げるな!お前等は小学生かっ!そもそも、俺が今立っているこの場所は、俺に許された約束の場所だ。ロープのこっち側は男も女も関係ない場所なんだからな!万歳、俺はココに居て良いんだ!おめでとう、僕はココに居て良いんだ!」
「いいワケないでしょっ!そこからだと全部見えちゃうじゃない!この馬鹿カズヤ!」
「痛っ、痛っ、こ、こらっ!エリカ、やめろっつーのに!だいたい、お前等、マナー違反の湯浴み用の浴衣を着てるじゃねーか、問題なかろーが!」
生地の薄いバスローブに似た形の浴衣を装備している。
だがそれは、手拭いの如く生地が薄い故に、水に浸かると所々肌に張り付き、程よくスケスケになるので、全裸よりもエロくなるのを俺は知っている。
「あるに決まってるじゃない、このスケベ!いい加減、前を隠しなさいよっ!」
「何を言うか、このたわけ!ここは風呂だ!マッパでナニが悪い!この異世界で唯一ドレスコードが全裸な場所だ!俺は逃げも隠しもしない!」
俺は腰に手を当て、堂々と仁王立ちして、薔薇の女子を睨みつける。
「キャーッ!ヘンタイ!馬鹿カズヤ!」
数を増やした石礫が雨あられと集中豪雨のように降り注ぐ
お約束通り手のひらの隙間からチラチラ見ながら、石を投げ続ける薔薇の女子。
「ま、待て!エリカ、話を聞け!」
「な、何よ?」
「周りを良く見てみろ。川を挟んでそびえる山、西に飛んで行く渡り鳥、そして色鮮やかな紅葉。世界は美しさに満ち溢れている!俺は美しい物を愛でたいだけだ。美しい物を美しいと言って何が悪い。そして薔薇の乙女よ、君達は美しい!」
「え、えっ、えっ!?」
「そうだ、頭からつま先までその体は美しさに輝いている!その輝きは俺のハートを鷲掴みにして激しく揺さぶっている。いけないボーダーラインをキュンキュン越えてしまいそうだ。隠す必要など何もない。咲き誇れ、薔薇の乙女達よ!」
「え?ほ、ホントにそう思うの?」
「そうだ、具体的にはおっぱいとかお尻だ!」
「・・・・・・」
「わかった、わかったから!冗談だから!股間を狙うな!岩を持ち上げるな!ユカリ、火魔法を発動させるんじゃないっ!」
急所目がけて飛んできた石礫をとっさに手桶でガードする。
俺の頭くらいありそうな岩が、至近距離に着弾し、大きな水しぶきを上げる。
このままでは、とち狂った薔薇組の流れ弾で、一般のお客さんと俺の股間に被害が出てしまう恐れがある。
俺は捲土重来を心に誓い下流の男湯ゾーンへと戦略的後退をした。
だが、これで良かったのだろう。
胸を隠しながら顔を真っ赤にして石を投げる薔薇の女子達の可愛らしい場面を目に焼き付ける事が出来た。
それに、完全混浴だったとしたら、クリスさんやベネットさん、ましてやコジロウまでもが、ソフィとアリスの艶姿を目にする事になってしまう。
それを阻止する為に、俺は全てを賭け、クリスさん相手に勝ち目のない勝負を挑まなければならない所であった。
「ななひゃくさんじゅうご~、ななひゃくさんじゅうろく~・・・」
マコトちゃんは、いったい、幾つまで数えるのであろうか?
川の流れの緩やかな場所に陣取り、それぞれ入浴を楽しんでいる。
混浴側を凝視しているコジロウに平泳ぎで近づく。
ソフィ達は大きな岩の向こう側に隠れてしまって、ここからは見えない。
もし、この位置から視認できる場所にソフィ達が移動してきたら、真っ先にコジロウの眼を潰すつもりだ。
「おい、コジロウ。例の話・・・、本当なんだろうな」
「もちろんだ、カズヤ、抜かりは無い。それに、今の俺達には強い味方がいる」
コジロウが顔を向けたその先に、二人して犬かきで近づく。
「旦那、旦那、クリスの旦那」
岩に背を預け、目を閉じているクリスさんに、揉み手をしながらコジロウが話しかける。
コジロウ、お前はいつから江戸時代の下っ端丁稚になったのだ。
その卑屈な腰の低さが似合いすぎるぞ。
「おう、どうした?」
「クリスの旦那、例の話です。旦那御用達、夜の社交場の件でごぜえますよ、へっへっへ」
マラガにも大人の秘密倶楽部はある。
だが、コジロウ情報によると、この温泉街の特殊居酒屋で働くお姉さん達の接客は濃厚でサービス精神に満ち溢れているらしい。
「ふっ、お前も好きだなあ。まあ、安心して任せておけ。俺の行きつけの店だからな、綺麗どころが揃ってるぞ。一応聞いておくか、コジロウはどんなのが好みだ?」
「あっしは、メガネをかけた巨乳のシスターを希望します」
こいつ、やはりシスターフェチか。
マラガに帰ったら、ロバート司教にチクっておかなければ。
「注文が細かいな・・・、カズヤは?」
「ネコ耳で語尾に『ニャ』を付けて話すヒト。イヌ耳で語尾に『ワン』を付けて話すヒト。キツネ耳で語尾に『コン』を付けて話すヒト」
「カズヤ・・・、ナニ言ってんだ?言っとくが、店には人間しかいないからな」
「普段はそっけなくて、もの静かに木陰で読書するのが好きなんだけれども、二人っきりになると、激しく求めてくるヒト。『あんたバカァ』とか言って激しく罵ってくるクセに二人っきりになるとデレデレになるヒト。それから・・・」
ここは、何でもアリの謎異世界だ。
きっと、いるに違いない。
「なんだそりゃ?わかった、もういい。それ以上聞いたら、俺の耳がおかしくなりそうだ。お前らイロイロ溜め込みすぎだ。まあ、楽しみにしておけ」
「うす!」
隙を見つけてはベタベタしてくるアリス。
ワリと気軽にチュッチュしてくるソフィ。
我がままボディをここぞとばかりに見せつけてくるサナエさん。
攻めても良いはずだ。
行っても良いはずだ。
だが、マラガの屋敷で一つ屋根の下、三人一緒。
旅のテントの中、三人一緒。
これでは、何処にも突撃できない。
他の二人の目の前で、誰か一人にちょっかい出せる程、俺の心臓は毛深くない。
正直、この寸止めのお預け状態は精神的にかなりキツイ。
ここらで何とかして心の安定を図りたい。
「なあ、カズヤ。もしお姉さんに『もう離れたくないの、一緒に連れて行って』って言われたらどうしよう?帰り道、一人増えても良いよな」
「好きにしろ」
どうせ、有り金全部むしり取られて終わりだと思うが。
≪エリカ≫
「まったくもう、ほんとにもう、どんだけスケベなのよ、アイツは!」
タオルを硬く絞ってゴシゴシ顔を拭く。
ソフィアさん達は離れた場所の岩場に腰かけて、ドロシーさんを交えて談笑している。
溜息を付いてお湯の中に肩まで沈み込む。
「カズヤだけなら良かったんじゃない?」
「何が?」
右腕にグッと力を入れれば、二の腕に筋肉が盛り上がる。
ここのところ、歩き旅と訓練の毎日で無駄な贅肉が落ちたのは良いけれど、筋肉ゴリゴリのアマゾネスになったら嫌だなあ。
お腹にも力を入れると筋肉がうっすら浮き上がってしまった。
腹筋でお腹が割れるようになったらどうしよう。
「一緒にお風呂」
夜中に甘い物をたくさん詰め込んで、脂肪で押し戻せば良いのかなあ。
そんな贅沢な悩みで何気なくナオミの言葉を聞き流していたら、とんでもない事を言い出している。
「ええっ?ナオミ、ちょっとナニ言い出すの?」
「あら、私はもう口付けを交わしておりますから、いっそのこと・・・」
「ユカリ、あ、あれは、じ、人工呼吸みたいなもんでしょ」
突然バカな事を言い出したナオミに詰め寄ろうとすれば、反対側からユカリの声がする。
日本人形みたいな真っ白な肌が上気して、ほんのり桜色になっている。
流れてきた落ち葉を手で掬っては逃がしながら、大変な事を何でも無さそうに口に出している。
「ふむ・・・、私もカズヤならこの身を任せても良いと思っている」
「ゆ、ゆ、ユキコまで・・・。ど、どど、どどど、どうしちゃったの?」
元から宝塚の男役の様だったが、最近めっきり名門の女騎士が板についてきたユキコ。
その口ぶりは、戦場に赴く騎士が誓いを立てるようだ。
いくらなんでも、温泉でのぼせるのが早くない?
「そろそろ、アタシ達も身の置き所を考えなくちゃいけないってコト」
「え、え、え?つ、つ、つまり、か、か、カズヤとけ、け、けけけけ・・・」
突然のカミングアウトに頭の処理が追いつかない。
「エリカ、動揺しすぎ。いきなりそこまで飛ぶつもりはありませんが、このままのパーティで良いのか、そろそろ答えを出さないと」
ユカリがそう言って、お湯をひと掬い浴びせてくる。
「なんだ、その話か・・・。脅かさないでよ」
女性だけのパーティは何かとトラブルが多い。
マコちゃんはいるけれども、見た目がアレだし・・・。
冒険者組合で掲示板を眺めていると、ひっきりなしに声を掛けられる。
ナンパされると言った方が正しいかもしれない。
合同パーティの申し出を受けて狩りに出れば、街から離れた途端に豹変して襲ってくる。
大抵、背伸びしたお嬢様パーティだと思って舐めて掛かって来るから、思いっきり暴れて返り討ちにしてきた。
でも、そんなのは、まだマシな方だ。
そういう目的で誘っているかも知れないと、最初から警戒しているから対処も容易い。
手におえないのは、『ボクが守ってあげる』などと勘違いしている似非紳士達。
魔物の集団を発見し、打ち合わせ段階で、狩場のずっと後ろに人形みたいに配置される。
役目を果たそうと前に進んだ所で、『危ないから下がっていて、見てるだけでいいから』そう言って押し留められる。
狩りに誘ったのはそっちのクセに、いざ現場に着くと邪魔者扱い。
いや、そうでは無く、マスコット扱い、お姫様扱いだ。
では、何の為に誘ったのか?
狩りを終えた後の宴会のコンパニオン要員であった。
苦労せずに分け前は貰えるんだから、笑顔でお酌をして廻れ、あわ良くばこれからもっと肉体的に仲良くなりたいという言葉が、バカ達の顔に張り付いていた。
クラン加入の誘いも星の数程あったが、当然、応じる事はなかった。
下心みえみえのしつこい勧誘を邪険に振り払っても騒ぎは起こる。
もう、うんざりだった。
余計なちょっかいを出されないように大きなクランの傘下に入るか、『純潔の薔薇』そのものを解散し、どこかのパーティに吸収してもらうかの選択をせまられていた。
悩みながら、なかなか答えの出せない状況で狩りを続け、戦いにも慣れ、このままで良いかもと思い始めていた矢先にユカリの負傷だった。
カズヤ達と行動を共にするようになってから、私達の狩りは驚く程安定した。
ソフィアさんの指導のおかげで、我流でしかなかった自分達の戦い方は大きく変わった。
今までとは違う自分自身の力の成長を確信できたし、何よりも仲間をより一層信頼できるようになった。
嫁入り前の花嫁修業的に、マラガの周辺で程々にやるならこのままでも良いだろう。
でも、出来る事ならこのまま同じ仲間で成長していきたい。
私達をそのまま受け入れてくれる場所が欲しい。
「カズヤなら、対等に接してくれるし、アタシ達をお姫様扱いしてこないし」
「正確にはソフィアさんとアリスに目が眩んでいて、私達の事は気にならないんでしょうね」
「ち、違うわよ!カズヤはちゃんと私達の事も見ているわよ!戦っている時だって、きちんとフォローしてくれるし!訓練の時だって・・・」
ナオミの言葉を現実寄りに下方修正してきたユカリに黙っていられずに、つい、大きな声が出てしまった。
「エリカ、エリカ、そのくらい皆分かっているってば」
「う、うう・・・」
失敗した。
これでは、私がカズヤに気が有るみたいだ。
実際そうなんだけれども、まだ隠しておきたい。
こんな事知られたら、盛大にからかわれて、面白がるに決まっている。
気づいてないよね?
大丈夫だよね?
皆はいつも通りの顔をしている。
口から飛び出しそうになる言葉を無理して飲み込む。
こんな話題を妙に落ち着いて話せる三人が恨めしい。
対照的にムキになっている自分がどうにもならなくて、タオルに顔を埋めて隠す。
「一番良いのは、カズヤにクランを設立してもらって、盟主として表に立ってもらえれば良いのですが」
「ああ、ソフィアさんもいるし、カズヤは教会にも顔が効くからな。私達に絡んでくる者も少なくなるだろう」
顔を上げないまま、ユカリとユキコに頷く。
カズヤが盟主、うん、それがいいなあ。
「でも、カズヤはそういうメンドウなのやる気無さそうよね」
「あいつはやれば出来るけど、お嫁さんに尻を叩かれなきゃ動かないタイプだよな。まあ、このままカズヤ達にくっついていても良いんだけどさ、もうちょっとはっきりさせたいよな」
「はぁ、四番目かぁ、しょうがないですねぇ」
「ユカリ、四番目って、何が?」
何の事だかホントに分からなくて、タオルを外し、素の表情で顔を上げた。
「ソフィアさん、アリス、サナエさん、私。ソフィアさんとアリス、どっちが優先なのか微妙ですが」
「え?」
「正室と側室の区別は無くても、先輩、後輩の序列はあるそうですよ」
そう言って、私を見るユカリ。
「えっ?」
「では、私は五番目か」
毅然と言い放つユキコ。
「ええっ?」
「しゃーない、アタシは六番目でガマンすっか」
川底の石を向こう側に一つ放り投げて苦笑するナオミ。
「ちょ、ちょっと、ちょっと」
「なあに?エリカ、ざ・たっちのマネ?一人でやっても面白くないわよ?」
「ち、ち、違うわよ!パーティの話から、どーして、そーなっちゃうのよ!」
「だって」
「ねぇ」
「それが、一番てっとり早いじゃん。正直、マコちゃんは、真面目だし、しっかりしているとは思うけれど、恋愛対象にはならないしさあ」
「てっとり早い、って、そ、そ、そんなのダメよ!そんな理由で・・・、そんなの、そんなのダメよ!」
平気な顔でそんな事言い始める三人が、急に知らない他人の様に見えてくる。
たまたま、食堂で相席になった他人が交わす私には関係の無い話題。
意味を咀嚼する間もなく頭の中を通り過ぎて行く。
「私はカズヤさんに恋心を抱いています」
「ゆ、ユカリは、その、その、ええと・・・、医療行為で、その・・・、キスされたから、雰囲気に流されて、なんとなく、そんな気分になってるだけじゃないの?」
「いいえ、私は命を助けてもらったんですよ?命の恩人なんだから、好きになったって、おかしくないでしょ?」
「命の恩人・・・、お、おかしくないけど・・・」
光沢のある長い黒髪に陶器のような白い肌。
このヒトいったい何処の誰だろう?
「私は、カズヤはああ見えて、強くて頼りがいが有ると思う。クリスさんやソフィアさんが間近にいるので霞んでしまうが、おそらく、その辺の凡百の戦士でカズヤに勝てる者はいないだろう」
「ユキコ・・・、そ、そうかもしれないけど・・・、でも、でも・・・。強いから好きだなんて・・・、ちょっと、その・・・、簡単過ぎない?」
「それがどうした?女の子が強い男の子を好きになる。最も分かり易くて明解だと思うが」
「そ、それはそうだけど、そうだけどっ!」
肩口でギリギリに切り揃えたボブカットに切れ長の眼。
高校時代は、宝塚のトップスターのように同性から数えきれない程の恋文を送られていた。
私の知っているユキコは、こんな事言い出したりしない。
いつの間に偽物とすり替わったのだろう?
「アタシはカズヤって良いと思うな。ひょうきんな所とか面白いし、肩ひじ張らずに自然に話ができるしさ」
「ナ、ナオミまでそんな事言うなんて・・・、わ、私だってそう思うけど、そう思うけどっ!」
無造作に束ねられた赤毛が揺れる。
拘らない性格とさばさばした物言いに良く似合っている。
まるで放課後の教室でおしゃべりするような軽い口調。
私とは別のグループで机を寄せ合う知らない誰か。
「あ、エリカは私達に付き合う必要はありませんから。三人もカズヤに付いていれば、ちょっかい出してくる愚か者はいないでしょう」
「そ、そんな・・・、そんなのって・・・。ね、ねぇ、みんなどうしちゃったの?ウソだよね?ふざけてるんだよね?本気じゃないよね?私の事からかっているんだよね?」
いつの間にか仲間外れにされていたのは私?
私一人だけ蚊帳の外?
どうしてそんな意地悪するの?
私が何かしたの?
どうして?
お湯の中に居るはずなのに、寒気に襲われどうしようもなく体が震える。
倒れてしまいそうだ。
「じゃあ、そういう事で」
「ですね」
「だな」
川の水面を流れて行く落ち葉。
山から吹き降ろす冷たい風。
空白の世界に突然現れた感情の嵐。
「ダメよっ!!わ、私だって、ずっと前からカズヤの事好きだったんだからっ!ずっと前からカズヤは強くて、カッコ良くて、頼りがいがあって、好き勝手に言い合えて、このまま一緒にいたいって思ってたんだからっ!私が一番カズヤを好きなんだからっ!私がっ、私がっ、わたし・・・、う、うっ、ううっ・・・、うわ~~~~~~~~~~~ん!」
もう、どうしようもなく言葉が溢れ出ていた。
私の胸の中で暴れ回る感情が涙腺を破壊した。
止めどなく流れ出す涙が、頬を伝いボロボロと川の中へ落ちて行く。
「「あ・・・、泣いちゃった・・・」」
「ご、ごめん、エリカ!ちょっとからかい過ぎた!なんだかエリカの姿が、いじらしくって、可愛くって、じれったくて、煽っただけなんだ。ごめん、エリカ」
「エリカ、本当にごめんなさい」
「ひ~~~~~ん、みんなひどいよ~。ひっ、ひっく、えっ、えっぐ。うわ~~~~~~~~ん!」
ユカリ、ユキコ、ナオミ、三人に腕を回され抱き込まれる。
三人に支えられなかったら、川の中に倒れて、何処までも、何処までも流されて行っただろう。
「あ~ぁ、ごめんな、エリカ。やりすぎちゃった」
「ほら、鼻水が垂れて、綺麗な顔が台無しですよ」
「ぐすっ、う~~~~っ。う~~~っ、くすん」
「からかって、すまない」
抱きしめるユキコの胸の谷間に顔を埋める。
柔らかくて暖かくて安心する。
女の子同士なのにヘンな感じ。
「ぐすっ・・・、ぼういい。あどさ、わだしっで、ぞんだにだいどにででだ?」
「エリカ、ナニ言ってるか分かりませんよ。ほら、鼻かんで」
「ううっ、び~~~~~っ!ひっく。あのさ、私って、そんなに態度に出てた?」
自分ではちゃんと隠していたつもりなのに・・・。
カズヤも気づいちゃってるのかな・・・。
どうしよう・・・。
「安心して、カズヤや他の人が気づくほどじゃありませんでした。でも、私達はずっと一緒だったじゃない。そのくらい分かります」
「カズヤにムキになって突っかかっているエリカの姿が愛らしくって、背中を押してやりたくなったのだ」
「そうなんだ・・・。分かってたんだ・・・」
「へっへ~ん、アタシ達に隠し事しようなんて、無駄、無駄ぁ~」
「うっ」
「こらっ、ナオミ!」
「あっ、ごめん。でもさあ、ソフィアさんとアリスの双璧はきっついよなあ」
「ううっ」
向こうの岩場で固まって話している二人の姿が目に入る。
そんな事とっくに分かっているけれども、改めて言われると、このままお湯に溶けて消えてしまいたくなる。
「エリカはもっと、サナエさんみたいにグイグイ攻めた方が良いんじゃないか?」
「そ、そうかな・・・」
「校舎の陰から、そっと見つめてるだけじゃ、カズヤは気づかないって。鈍感とかどうとか言う前にソフィアさんとアリスしか見てないんだから、強引に割って入らないと」
「気づいたら、いつの間にか、十番目くらいになってるかもしれませんね」
「うっ・・・、うわ~~~~~ん!」
「ああっ!ごめんなさい!」
大勢の女の子に囲まれて笑っているカズヤ。
遠くから肩を落として見ているだけの自分の姿が目に浮かんで、また涙が出た。
≪カズヤ≫
「ゴブリン討伐お疲れ様っしたっ!全員の無事とがんばった俺に乾杯!」
「「乾杯!」」
取った宿は俺とクリスさん、薔薇パーティだけで貸切になってしまうような小さな宿だった。
しかし、ソフィ率いる女性陣が選んだだけあって、部屋は綺麗だし食事も旨かった。
何より、他人がいないので気兼ねなく過ごせる。
風呂から上がり、ホカホカの体のまま食堂で宴会をする。
「カズヤ、お疲れ様」
湯上りでほんのり桜色の肌をしたソフィが注いでくれるお酒の味はいつもより二割増しで旨い。
そう、こういうイベントを俺は待っていた。
待っていたのだが、だがしかし、いやしかし、今日は酔いつぶれるワケにはいかない。
この後に十八歳未満立ち入り禁止のビッグイベントが控えているのだ。
いつも、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ、女の子の間を彷徨っているコジロウが、旅の僧のように落ち着いて席に座っている。
しかしながら、この状況からどうやって抜け出したらいいものだろうか?
いつも通り、俺の隣には足を組んだソフィが座り、向かい側には俺の為に甲斐々々しく料理を取り分けるサナエさん、そしてホロ酔いのアリスが俺の首に手を回して背中に張り付いている。
いつもなら、この異世界に来てヨカッタと喜びを噛みしめる至福の時間なのだが、今の俺にとっては、鉄鎖のトライアングル。
トイレに行くフリをして、そのまま消えるべきか?
はたまた、スマホ片手に仕事の緊急連絡のフリして、いかにも仕方なさそうに店の外に出て行き、そのままフェードアウトするべきか?
マコトちゃんはとっくに潰れて机に突っ伏して寝ている。
薔薇の女子達はさっきからずっと固まってヒソヒソ話している。
時々、彼女達から差すような視線を感じるのは気にし過ぎだろうか?
彼女達の様子がいつもと違うような気がする。
俺とコジロウは目だけをギョロギョロ動かして隙を伺っている。
クリスさんはいったいどうやって、この包囲網を突破するつもりなのだろうか?
俺はクリスさんに救援を求め、チラチラ見て必死にアイコンタクトを取る。
「ったく、しょうがねぇなあ。おう、俺とカズヤとコジロウで飲みに出てくる。後は勝手にやってくれ、行くぞ」
クリスさんが椅子を鳴らして立ち上がり、有無を言わせずに歩き出す。
ここで一悶着あるかと思ったが、ソフィに『行ってらっしゃい』と微笑みながら送り出された。
あまりの呆気なさに、若干の不安がよぎったが、クリスさんの後を慌てて追う。
「兄貴、兄貴っ!さすがです。惚れ直しましたっ!」
「ああいうのはなあ、堂々とやりゃあ良いんだよ。コソコソするからいけねぇんだ。カズヤ、びしっと言っとかねぇと一生尻に敷かれたまんまだぞ」
「流石ですっ!眩しいですっ!兄貴っ、キラキラしてます!」
星が瞬く夜空の下、三人の男が肩で風を切って歩く。
外観はクラッシクな洋館。
色鮮やかなネオンも無ければ、CGで修正された女の子の顔写真も張っていない。
館の大きな扉の前に、直立不動の黒スーツの男が一人いるだけだ。
近づいたクリスさんが一つ頷くと、四十五度の角度で一礼して無言で扉を開ける。
壁掛けのランタンが控えめに照らす玄関ホール。
奥の部屋へと続く扉は閉ざされており、ここからでは中の様子を知る事は出来ない。
落ち着いた色合いのドレスを着た妙齢の女性が出迎える。
「いらっしゃいませ、クリス様。いつもご贔屓にして頂いてありがとうございます」
「おう、こいつら、こういう店は初めてだから気の利く娘を付けてやってくれ」
「畏まりました。こちらへどうぞ」
高級感の溢れる接客に否がうえにも期待が高まる。
導かれるままドキドキしながら薄暗い廊下を歩き一室へ入る。
「只今、テーブルのご用意をしております。こちらでお待ちください」
続いて入って来た使用人がお茶の準備を済ませると、女主人らしき人物は滑るように部屋の外へ出て行った。
ソワソワと落ち着きなく辺りを見回すコジロウ。
革張りの高級ソファに腰を深く落とし肘掛けに両腕を乗せ、当たり前のように寛ぐクリスさん。
凄いぞクリスさん、こんな高級店に顔パスだなんて、さすがトップの冒険者だ。
「コジロウ、落ち着け。一応説明しておくが、先ずは大部屋で飲み食いする。その時、入れ替わり立ち代わり女の子が付いてくれるから、気に入ったのが居れば声を掛けろ。そうしたら、その娘が二階に連れて行ってくれるから、後は女の子に任せちまえばいい。おっと、乱暴はするんじゃねぇぞ、優しく可愛がってやれ」
「ク、クリスの旦那、粋です。男前です。あっし一生付いて行きます」
ゴマを擦る音が聞こえそうだ、『コジロウ』から『ハチベエ』に名前を変えろ。
「あのさ、クリスさん」
「何だ、カズヤ?」
「その・・・、今の女のヒトに相手してもらっても良いの?」
高級娼館の女主人、年齢不詳の妖しさ、全てを受け入れてくれそうな懐の深さ。
「カズヤぁ、お前、分かってるじゃねぇか。だが、彼女は難しいぞ。まあ、そう焦らんで中の女の子達も見てみろ、夜は長いからな。おい、ヨダレは拭いとけよ」
いけね、垂れてた。
砂時計の落ちる砂の一粒々々を数えるかのように、ジリジリと時を待つ。
長いな・・・。
いつまで待たせるのだろう。
さすがに限界だぞ。
「お待たせ致しました」
逸る心を押さえつけ、女主人の揺れるお尻の後に続く。
観音開きの扉をくぐる。
足元だけが照らされた大広間。
他の客が気にならない程の十分な距離を開けて、贅沢なソファセットがポツリ、ポツリと置かれている。
その間を、酒や料理を乗せたトレイを持った使用人が音も立てずに歩いている。
すでに数組の先客がいたが、大声ではしゃぐ者もおらず、ましてや下手クソなカラオケをがなり立てるハゲオヤジもいない。
飾り立てたお姉さん達の密やかな話し声と笑い声が音楽のように流れている。
地下の秘密高級クラブと言ったところであろうか。
素晴らしい。
クリスさん、ありがとう!
女主人に導かれるまま歩く。
途中で黒スーツの一人に、俺だけ腕を掴まれ止められた。
え?
驚き首を回す。
「お客様はこちらへどうぞ。特別なお席がご用意してあります」
耳に手を当てて囁かれた。
ク、クリスさん、なんて優しいヒトなんだ。
俺の為にこんなサプライズを用意してくれるなんて・・・。
俺一人だけ引き離され、案内されたソファセットの真ん中に腰を下ろす。
テーブルの上で飾り燭台の蝋燭の炎が揺れている。
胸のドキドキが止まらない。
いかん、もっとどっしりと構えないと。
これでも俺はサラリーマン時代、裏町の風俗街を気難しい職人達と練り歩いた男だ。
夜の経験値の高さには、それなりの自負がある。
何も臆する事は無い。
腕を組み、目を閉じ、明鏡止水の心で静かに待つ。
数人の足音が聞こえる。
焦ってはいけない、目は閉じたままグッとこらえる。
俺を囲むようにソファの軋む音が鳴った。
「お客様、本日はようこそいらっしゃいました。よろしくお願い致します」
今だっ!
くわっ、と目を開けて周囲を見渡す。
・。
・・。
・・・。
・・・・。
・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・。
沈黙の打点でピラミッドができそうだ。
俺の右側には、ソフィとアリスとサナエさんにビックリする程そっくりな夜の蝶がピタリと張り付いていた。
そして左側には、エリカ、ナオミ、ユキコ、ユカリにもの凄く良く似た四人の夜の華。
「あの・・・、ソフィ・・・」
「お客様、まずは一杯どうぞ」
ソフィに激似なソフィからグラスを手渡される。
「ま、待って・・・、どうして」
「イヤですわ、お客様ったら、さあ、遠慮なく召し上がってください」
殺気すら感じる言葉に、こめかみから汗が流れ落ちる。
「飲まないの?」
アリスに良く似たアリスが、ニコニコ催促してくる。
笑顔の破壊力が半端ない。
グラスを煽って、ナニかの液体を喉の奥に無理矢理流し込む。
「ど、どうぞ・・・」
左側のエリカに超そっくりなエリカが鬼気迫る表情で酒瓶を傾けてくる。
俺に決闘を挑むかのような目力が怖い。
緊張しているのかボトルの口が小刻みに震えている。
グラスを差し出した俺の腕も恐怖で震えている。
グラスに当たったボトルが、ガチガチと大きな音を立てる。
衝撃でグラスが割れてしまいそうだ。
「えっと、エ、エリカ・・・さん、ですよね・・・?」
「飲んで」
睨まれて、一息で飲み干す。
間をおかずに、交代で酒を注いでくる女性達。
俺は弁明の機会も与えられず、機械的にグラスの中の液体を処理し続ける。
もう、ムリ。
もう、耐えられない。
「すいませんでしたっ!」
テーブルをヒラリと飛び越え、床の絨毯の長い毛の中に埋まってしまうような、最大級の土下座を決行した。
「許してくださいっ!」
沈黙が床を這い、俺の精神を攻撃して削り取る。
「もう、カンベンしてくささいっ!」
「カズヤ、顔を上げて。怒ってなんかいないわ。ただ・・・、私達を置いてカズヤだけ遊びに行くなんてズルイじゃない。誘ってくれれば良かったのに」
ソフィが、どうでも良い口調で言ってくるが、どこをどう見ても怒っていらっしゃる。
そもそも、娼館にソフィ達と一緒に来てどうしようと言うのか?
理不尽なモノを感じつつも、ひたすら額を床にこすり続ける。
そもそも、何故、薔薇の女子達まで一緒になって怒っているのか。
二十九歳の大人の男であるこの俺が、夜の繁華街で夜のお姉さん達とナニをシタっていいじゃないか。
だが、薔薇の女子達のただならぬ雰囲気と全体的な空気を読み取り、ひたすら低姿勢を貫き通す。
「この店はね、以前ゴタゴタがあった時、ちょっと手伝ってあげた事があって、ここの女主人とは付き合いが長いの。まあいいわ、このくらいで許してあげる。皆も良いわね」
無言でうなずく女性達。
助かった。
「ありがとうございますっ!」
「カズヤ、注いでくれる?」
「はいっ、喜んで!」
ソフィの差し出したグラスに、両手でボトルを持ちお酌をする。
「私も」
「どうぞ、お嬢様」
ブスっとむくれているエリカに駆け寄る。
「ちょっと、そこのお兄さん。この店で一番高いお酒と料理を持ってきて」
「あ、フルーツ盛りも忘れないでね」
「盟主様、私にもお願いします」
「カズヤ、こっちも」
歌舞伎町のホストのように、手を叩き、合いの手を挟んで盛り上げ、酒と料理を運びまくった。
助けてっ、クリスさん!




