第27話 全俺様が泣いたっ!
イチジク トイチさんを正式に仲間にして三日後、俺達はヌコの故郷ケッツィオの隣の村、アッチラまでやって来た。一応、俺達の身分は最近結婚したばかりの若夫婦の商人と護衛に雇われた冒険者という体である。流石に夫婦としては俺もヌコも若すぎやしないかな? と思っていたが、この世界では結構普通にあることだとか。商人として独立するとしても、若いことは若いが、決して珍しいとまでは言えないレベルであるようだ。
「むしろ、単に仕事仲間というよりは、家族の方が説得力はあるのでゴザルよ。拙者のことは、まあ、初対面では認識すらされないレベルでゴザルし、むしろ、それこそ忍者の本懐。ぐすっ、な、泣いてなんかござらん!」
そんな感じで寂しい思い出を思い出してしまったのか、滂沱の涙を流すトイチさんであった。
旅の方は、ケッツィオに近づくにつれて、剣呑な噂話が飛び交うようになってきた。曰く、
「時々東の方の空に青白い光の柱が出来ているんだよ。何か不吉な事をケッツィオの連中がたくらんでいるんじゃないのかねぇ?」
と、いうのが一昨日立寄った村の人の話。
それが昨日の晩に泊まった村では、
「何やら、魔王様の軍と戦う為の新兵器を隠し持っているとの噂だよ」
と、ケッツィオの方から来た商人から聞かされた。
そして今日、ようやく辿り着いたアッチラの村では、
「何でも、ケッツィオの連中が村長の所に恭順を求める手紙を出してきたらしいぜ。年に10万ドロップの税を納めれば『ケッツィオ共和国』の国民にしてやるとか何とか。まあ、正気の沙汰じゃねーわな」
と、いう話を村に入るやいきなり聞かされた。まあ、女子供だけで今のケッツィオに行くなよ、というフリだよなぁ、コレ。
「いや、いくらなんでもおかしいでしょ? コレ。辺境の開拓村にそんな軍事力を持とうなんて余裕が持てるわけがない!」
「うちらが居た頃から食べ物は不足ぎみだったのにゃ! そんな兵器に金なんか出せる余裕なんか絶対無いのにゃ!」
「仮にそんな話が本当なら背後に何らかの組織が居る筈でゴザルよ。普通に考えるなら神聖帝国のエージェントだとか、そんな物騒な話でゴザルな。本当にそうならこのまま帰って援軍を頼むしか無いでゴザル」
「いやいや、それをしたくないから魔王様は俺達に依頼したんだから」
「どっちにしろ、行って調べる必要があるのにゃ!」
「いや、しかし……」
と、まあ、俺達自身も態度を決めかねる事態になっている。
ラダーは、というと、早々に考えるのを止めて脚立に戻ってしまった。仕方ないのでそこの壁に立て掛けてある。
「ともかく、一度ケッツィオに入る前に強行偵察した方がいいでゴザルよ。ちょっと行ってくるので、みんなはもう一日ここで逗留してて欲しいでゴザル」
年長者にそう言われれば否定もできない。ここはトイチさんを立てて言う通りにする事となった。
そうなってくると暇である。遊ぶにしても娯楽の無い田舎のこと。仕方ないので露店を広げて持って来ていた古着を販売する。だが、そも、現金の持ち合わせの無い村人たちがおいそれと現金持って来て買うことも出来ず、結局は、村の名産品である馬鈴薯と交換するしか無い訳で……
「結局50キロ近く貰ってしまったなぁ」
「当分芋料理にゃ! 魚が食べたいのにゃ!」
「とはいえ、川も沼も近くには無いって話だしなぁ」
地下水脈は豊からしいので水不足にはならないらしいが、物資は常に不足ぎみらしく、塩も不足していて、俺達が使う為に用意していたものまで分けてあげた位である。
「あと一週間もすれば首都からの商隊が来るから我慢すればいいんだけどね。まあ、繋ぎが無いと厳しい所だったから助かったよ」
との事である。幸い俺達はタザンさんから餞別に調味料を多数貰ってたので塩なんかも十数キロ持っていたのが幸いした。
「おとんの慧眼に感謝なのにゃ。普通位の物資だったらここらで詰んでたのにゃ」
「まったくだ。流石は地頭の息子。田舎の人の心を良く知ってる」
俺の頭ではそこまで気が回らなかった。
「おーい! 都の商人! 遊ぼうぜぇ!」
と、言いながら近寄ってきたのは近所の子供連中だ。
「丁度取引が終わったとこだよ。何して遊ぶ?」
「「「人狼ゲーム!」」」
あるんかい!
結局二ラウンド丸々付き合って、俺とヌコがそれぞれ人狼役をやってしまった。俺の時は最後まで気づかれなかったが、意外にも、ヌコの時も俺は全く気が付かなかった。最後にドヤ顔でヌコに
「だ~まされたのにゃ♡ ケンジはチョロイのにゃ!」
と、言われた時には余りのショックに
「くやちぃー!」
噛んでしまった。そして、丁度その頃相でトイチさんが戻ってきたのでお開きにする。暗くなってきたし、五時になろうかという時間だったしな。
「じゃーなー、都の商人、またなー!」
と言って最後の一人が帰って行った後、宿代わりの村長さんちの納戸で作戦会議である。
「村の様子はやはり異様な感じがしたでゴザルよ。女子供が昼間なのに全く歩いてないし、男衆は武器を担いで闊歩しながら酒を飲んでいる状態でござった。戦争をやろうとしている村というよりは、盗賊に支配されている村といった風情でござったな」
「村長の所はどんな様子だった?」
ぴくっ! とヌコがなったが一瞬の事。直ぐに正体を取り戻して話に前のめりだったので、ここはスルーしておく。
「庭に男衆を集めて訓練ごっこをしているようでござったが、まあ、雑兵ですな。拙者でなくとも都で冒険者をやっていたお二方なら二人だけで鎮圧できるのでは? ただ、得体の知れない女が二人、村長自ら酌をして酒を飲んでいたでゴザルよ」
「その二人の風体は?」
一瞬、松崎さんの事を思い出してもしやと思ってしまった。
「二人とも三十路がらみの熟女でゴザル。一人は金髪、一人は白髪の恐らくは聖王国出身の者たちでござろう。金髪は騎士装備、白髪の方は両手が義手のようでござったから、もしかすると戦闘力は高いかも知れないでゴザルな。
ライダ○マンのような感じだろうか? いずれにしても、松崎さんやサチコではなさそうだ。
「村長の家にうちと同じ位の女の子居なかったかにゃ?」
「いや、拙者は遭遇してござらん」
「そうにゃ……」
明らかに落胆したようなヌコの様子に聞いてもいいのか迷っていると、ヌコの方から語り出した。
「村長んちの孫娘のタマちゃんはあの村で唯一のうちの友達にゃ。三毛模様の耳と尻尾をもったかわいらしい女の子にゃ。うちの憧れだったのにゃ」
幼馴染か。
「村長は黒猫のうちがタマちゃんに近づくのを快く思っていなかったにゃ。体の弱かったタマちゃんは床に臥せることが多かったから、うちが病気を運んで来てると信じていたにゃ」
「それは……辛かったでござろうな」
「地頭だったじいじは、それでも都に行く度に薬を買ってきてはタマちゃんに渡していたのにゃ。村長もそれは感謝していたのにゃ。でも……」
地頭というのも、結局は公務員である。ある程度の年になるとやはり定年というのがあるそうで、ヌコのじいじも、三年前にその時を迎えたそうな。その際、息子などが跡目を引き継いで継承することもできるのが、この国の融通が利く処ではあるのだが、ここで問題が発生した。
「おとんは、公務員試験にパスできなかったのにゃ。元々料理屋になりたかったおとんは、それほど真剣に勉強していた訳じゃないけれど、現役地頭の家族は普通なら試験に下駄を履かせて評価されることが当然だったのにゃ。でも、その時にケッツィオの地頭の座を狙っていたある貴族の子弟がうちらの家から跡継ぎを出したくなくて試験官に賄賂を渡しておとんを不合格にしてしまったのにゃ」
「確かに、資料に当時のいきさつが書かれていたでゴザルな。現役の地頭は今もその貴族家であったと記憶しているでゴザルが、確か」
「この反乱の最初に首を斬られて王都に送られている、か」
元々、辺境伯の座を狙ってケッツィオから東の国境までを領地にしようと画策していたんだっけか?
そして、ゆくゆくは聖王国を侵略する橋頭堡にするつもりだったとか。魔王様は絶対そんなことさせないと言ってはいたけどな。
「いずれにしても、そんな理由で地頭の座を追われたおとんは、村長からすっごいなじられたのにゃ。最後には鎌でおとんを殺そうとしたところをじいじが庇って……」
そうして着の身着のまま村を出て王都まで逃げ延びたということか……
「やるせないでゴザルなぁ」
「まったくだ」
「そんな、悲しい過去があったなんて!」
いつの間にか話に加わっていたラダーが滂沱の涙を流す。美少女の涙は絵になるなあ。
「俺様も漢泣きに泣いた! かくなるうえは、ヌコとそのタマって子が再会出来るように協力するぜ!
俺様、男前!」
いやいや、どっから見ても慈愛の女神さま(ロリバージョン)だよ。
この作品は、内容に危険な要素が多数含まれます。
精神的疾患をお持ちの方、心身喪失状態の方、心の弱い方、特に、いじめの経験をお持ちの方にはおすすめいたしません。
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