越後路の風に吹かれて――山と川と、日々の記憶
日常のふとした歩みのなかで、景色がふわりと色づく瞬間があります。今回は、私が散歩道で出会った秋の気配と、胸の奥にある故郷の情景を、いくつかの俳句とともに二つの物語に仕立てました。パレットから取り出したような青空から、足元の小さな虫たちの知恵まで。深まりゆく秋の空気感を、どうぞご一緒に歩くようにお楽しみください。
越後路の風に吹かれて――山と川と、日々の記憶
日々の喧騒から少し離れ、足の向くままに歩を進めると、そこにはいつも変わらない越後の山河が広がっている。特別な旅でなくとも、五感を澄ませて歩けば、行く先々で自然が様々な表情を見せてくれる。
ある日の夕暮れ、ふらりと立ち寄った港の桟橋。沈みゆく夕日の光が、水面だけでなく、岸辺の木々をもあざやかに染め上げていた。まるで自然そのものが、こちらに向かって微笑みかけているかのような温かさがある。
桟橋で 桜も紅く 笑み返す
そんな静かな情景から一転して、日中の川沿いからは、どっしりと構える地元の名峰が仰ぎ見られた。青空に向かってそびえるその山頂には、勢いよく湧き立つ白い雲がダイナミックに巻き付いている。その力強くもどこかユーモラスな姿に、思わず笑みがこぼれた。
秋風や 雲のふんどし 飯豊山
季節は確実に歩みを進め、肌に触れる風も一段と冷たさを増してきた。そんな秋寒の朝でも、我が家の相棒は元気いっぱいだ。「散歩に行くぞ」とばかりにぐいぐいとリードを引っ張るポチに連れられて、きらきらと光る川沿いの道を歩く。寒さもいつしか心地よい刺激へと変わっていく。
秋寒の ポチに引かれて 川歩き
ふと視線を遠くへ巡らせれば、越後平野の向こうにそびえる弥彦山が目に留まる。ふもとの紅葉とは裏腹に、その山頂はうっすらと白く染まっていた。まるで、お洒落な白い帽子をかぶって、これからどこかへ出かけようとしているかのようだ。冬の足音が、すぐそこまで来ていることを教えてくれる。
弥彦山 白帽かぶり お出かけや
川沿いの道をさらに進むと、水面にひとつの流木が流れていた。よく見れば、その上には一羽の白鷺がすました顔で佇んでいる。羽ばたくでもなく、流れる水に身を任せて進むその姿は、まるで優雅に川下りを楽しんでいる旅人のようであった。
白鷺や 流木に乗り 川下り
山を仰ぎ、川を歩き、小さな相棒や鳥たちの営みに目を細める。そんな何気ない日常のひとコマひとコマが、越後の豊かな自然の中で、かけがえのない記憶の1ページとして刻まれていく。
ご一読いただきありがとうございました。日々の歩みのなかで紡いだ言葉たちが、どなたかの心に届き、小さな道標となれば幸いです。




