↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】婚約破棄された令嬢は、毎朝パンを買いに来る無口な騎士が自分を好きだとは知らない  作者: 夏灯みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/12

2.「私、何がしたいんだろう」

「ふざけるな! そもそも、先に婚約を申し込んできたのは向こうだろう!」


 婚約解消について話すと、父は顔を真っ赤にして怒った。


「うちとの取引を増やしたい、息子と娘も年が近いからぜひにと、何度も頭を下げてきたのはレインズ子爵の方だ。それを今さら、商人の娘だからだと?」


「あなた、少し落ち着いて」


「これが落ち着いていられるか!」


 母になだめられても、父の怒りは収まらない。

 その様子を見て、セシリアは少しだけほっとした。

 両親は、自分を責めないのだ。


「お父様。もう、いいんです」


「よくない! セシリア、お前は何も悪くないんだぞ」


「でも……」


 セシリアは俯いた。


「私が、貴族の妻に相応しくなかったのは本当ですから」


「そんなこと――」


「あなた」


 母が父を制した。


「今日はもう休ませましょう」


 母に促され、セシリアは自室へ戻った。

 一人になって、ぼんやりと部屋を見回す。

 棚には礼儀作法についての本が並んでいる。

 オスカーの婚約者になってから買い集めたものだ。

 その横には、刺繍道具。

 刺繍はオスカーの母に勧められて始めた。

 それからピアノ。

 上流階級の娘なら弾けた方がいいと、父が誕生日に買ってくれたものだ。


「……あれ?」


 セシリアは気づいた。

 この部屋には、こんなにたくさんのものがあるのに。

 自分が好きで選んだものが、ほとんどない。


『オスカー様のお好きなように』


 いつもそう答えてきた。

 では、オスカーがいなくなった今、自分はどうしたいのだろう。


「私……何がしたいんだろう」


 考えても、何も浮かばなかった。

 

 ――翌朝。

 食事の席でぼんやりしているセシリアに、母が言った。


「ねえ、セシリア。家にいても気が晴れないでしょうから、マーサのところへ行ってきたら?」


「叔母様のところへ?」


「ええ。しばらくマーサのところで過ごしてみたらどうかしら」

 

 マーサは母の妹だ。

 商家に生まれながら家業には加わらず、今は王都の庶民街で小さなパン屋を営んでいる。    

 幼い頃はよく母と店に遊びに行っていた。

 けれど、オスカーと婚約してからは足が遠のいていた。彼が以前、『婚約者が下街にいるところを見られたくない』と言っていたからだ。


「……賑やかな下町にいた方が、気が紛れると思うわ」


「でも、急に行ったらご迷惑では……」


「マーサなら、『部屋なら空いてるから来れば?』って言うわよ」


 母はくすりと笑った。


「今すぐ次のことを決めなくてもいいの。少し休んで、自分が何をしたいのか考えてきなさい」


「自分が、何をしたいのか……」


 セシリアは小さく呟いた。

 今はまだ、何も思い浮かばない。

 それでも、ここではない場所へ行ってみるのは、少しだけいいことのように思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。