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東京下町の長屋カフェ~おにぎりとぬいぐるみで癒しと思いを結ぶ~  作者: 武田花梨


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18.その考えはきっと素晴らしい

 やらないよりはやったほうがいい。

 その思いで、結心はSNSを本格的に稼働させることにした。父の与志光に一眼レフカメラを借りて、より美しいおにぎりの写真を撮る。チラシにも使えるかも、と思い気合を入れた。


「え、あんたお父さんにカメラ借りたの? よく貸してくれたね!」


 飲食店経営に反対している与志光が協力するなんて。驚きの顔で朋子が目を丸くした。


「……いや、花の写真撮りたいって言って借りた」


 説明するのはめんどくさいし……と、もごもごと言葉を付け加えると、朋子は「あれまぁ」と声をあげた。


「なに、文句ある?」


 テーブルの上に置いたおにぎりをいかにおいしそうに撮るか。客足が途切れたタイミングで写真撮影を開始した。重い一眼レフカメラを構えてブレないように撮るのは案外難しい。結心の隣に立って、朋子が興味深そうにのぞきこんでいた。腕には、シャルルを抱いている。


「文句なんてないわよ! 結心もずいぶん生きるのが上手になってきたのね!」


「……噓をつくことが、上手に生きるってことなの?」


 結心が思わず言い返すと、あはは、と朋子は笑った。


「馬鹿正直に言って良いときと悪いときがあるでしょって話よ。嘘も方便」


 うまくいけばいいけど、バレたらとんでもないダメージになるからあまり使いたくはない。それが馬鹿正直だと言われてしまうと、自分を否定されている気持ちになった。


「結心、オセロをひっくり返された顔をするな」


 朋子に抱かれていたシャルルが口を開く。また、自分のすべてを否定されてしまったように感じてしまったらしい。


「なに、オセロって」


「なんでもない」


 不思議そうな朋子を背に、結心はカメラを構える。

 自然光が降り注ぐ中で、炊き立てのお米がキラキラ輝くように撮影していく。SNSでおいしそうに見える写真を参考にしながら、角度を変えたり置き場所を変えたり。照明を当てるのも大事だが、自然光もおいしく見せられる……らしい。


 朋子は退屈そうに、空いている席についてその様子を見ていた。

 ピークタイム以外は、1時間だれも客が来ないなんてザラだ。売上的には正直厳しいものがある。結心が帳簿付けをするようになって、いかにギリギリで営業しているか可視化されたというのも、当事者意識を持つ理由になった。

 赤字が続いたら、長屋カフェを出ればいい。賃貸なのだから、損害は少ない。でも……楽しそうな朋子に、少しでも長くここでお店をしていてほしいとも思う。


「ねえお母さん。SNSは一応続けるけど、即効性があるとは思えないんだよね」


「ふぅん。そういうものなの?」


「場合によるけど。それに、この長屋カフェはずっと地元民に支えられてきたってシャルルに聞いて。今すぐ観光客を取りこんで儲けようっていうのも、なんか違うかなって思って。それだって簡単なことじゃないし」


 朋子は何も言わず、結心がなにを言うのかを待っていた。

 結心は、手にしていたカメラをあてもなくいじくりまわした。重いカメラをずっと持っているから、指先がしびれてくる。


「それで……。儲けじゃなくて、地元の人に還元したらどうかなって」


「還元? ポイント還元の、還元?」


 どんなリアクションをされるのか、聞くのが怖い。やっぱり余計な口出しはやめようかなと頭をよぎり、口を閉ざす。

 浮かれた様子のBGMが店内に流れる。


「結心、その考えはきっと素晴らしいから、口にしてみるんだ」


 朋子と同じテーブルについたシャルルが、結心をじっと見つめて言う。

 言わなければ傷つかないけれど、言わないと、最悪の場合お店がなくなってしまうかもしれない。それはイヤだ。

 うん、と小さく頷くと結心は朋子に視線を移した。


「観光客を取り入れるより、もっともっと地元のみなさんに愛されるお店にするために、格安で売るっていうのはどうかな」


 結心の言葉に、朋子は目を見張る。しかし、言葉は発さずにさらなる情報を求める。


「地元のみなさんに支えられて……とはいいつつ、長屋カフェのことを知らない地元の人もたくさんいると思うの。そういう人に存在を知ってもらって、味を知ってもらうためのキャンペーンっていうか……儲けのことはそのあとに考えるっていうか……三社祭にひっかけて、三謝祭(さんしゃまつり)……なんつって」


 どんどん声が小さくなる。朋子がこれといったリアクションをしてくれないから、反対しているのではないかと思ってしまったから。

 やっぱり、ただのお手伝いが出過ぎたマネをしてしまったか。言葉にしたことを後悔していると。


「いいんじゃないそれぇ!」


「びっくりした」


 急に大きな声で賛同され、結心は飛び上がるほど驚いた。

 朋子は目を輝かせ、椅子から立ち上がる。


「お母さんたち、目先のお金に目がくらんでいた! でも結心の言う通り。これまで支えてくれた地元の人をないがしろにして儲け儲けって言ってるの、オカシイわよね!? 危ない危ない、人としての仁義を忘れるところだった! そうよね、まずは地元から!」


 物凄い勢いでしゃべる。結心は言葉を挟む隙もなく、しゃべり続ける朋子を見続けた。


「『あの店なんだろう?』って気になるけどわざわざ入らないって人も多いだろうし、いいチャンスになるんじゃないかしら! ちょっと泉羽さんところに説明に行ってくるから、あんたは聡さんに話に行ってきて!」


 止める間もなく、朋子は店を出てしまった。

 ……ふたりで店をあけたらダメでしょうに。それに、聡としゃべるチャンスをわかりやすくくれたのもまた恩着せがましい。

 呆れていると、シャルルがふっと笑う。


「よかったな結心。たまには言ってみるものだろう」


「でも、みんなの意見はどうかな……」


 もしこの意見が採用されたらと思うと……少し怖くて、少しわくわくした。


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