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挿話 デール 〜想起〜

お読みいただきありがとうございます。

『第一章 37.誤算』と『第二章 21.おかしなかデール』に繋がっている、デールのお話になります。

 デールがエリーゼから離れ、穴に飛び込むにはかなりの覚悟がいることだった。下手をしたら、また何百年も魔界から出られなくなるのだから。


 ――それでも、最悪な事態を避ける為には仕方なかったのだ。


 モワッとした空気の重さに、息をするたびに焼け付くような喉の痛み。悪魔に身を落としたデールでさえ感じるこの不快さ。

 普通の人間であれば拷問……いや、一瞬で身を焦がし消えてしまうだろう。


 デールは、人間界に起こった不可解な原因に心当たりがあった。それを確かめる為、目的の場所まで猛スピードで黒い霧の中を飛ぶ。


 そして辿り着くと、着地し静かにかかとを落とした。


(漸く……全てを思い出した)


 大きな岩山が並ぶ間に違和感なくある()

 周囲に吹き荒ぶ灼熱の風の中、デールは目の前の大きな塊を温度のない視線で睨んだ。


「厄災の器になった哀れな竜よ……」


 デールはその塊に向かって声を掛けた。


 煤のように真っ黒な岩の塊は、遥か昔に人間の手によって生贄にされた竜の屍。返事などある筈もない。

 それでもデールは語り続ける。

 

「――いや、竜人だったな」


 デールは、立ったまま屍となった竜の足元まで行く。


 近くからは、柱のように太く大きな足しか見ることは出来ないが、黒くザラついた表面に触れれば状況は明確だった。


 細かく小さなヒビ割れが、竜の全身に走っていて、その隙間から瘴気が漏れ出ている。

 草木が呼吸するくらい少量ではあるが……なにせ面積が広い。魔族や悪魔、魔物たちの力が強まっているのは、この瘴気の影響を受けたせいだろう。

 屍に魂が戻れば一時的に封印が解ける。魔物は本能でそれを求め、突き動かされたのだ。加えて、アルの血が魔物を刺激してしまった。


(まさか、エリーゼの代わりにしようと思った奴が……()()()の片割れとは。本当にどこまでもオレたちの邪魔をする)

 

 この厄災の器が解き放たれた時、魔界は人間界をのみ込むだろうとデールには簡単に想像がついた。

 赤い瞳の奥で、過去に見た光景と重なり眉根を寄せる。


(反対に、戻ったと同時に再度封印すれば、またより長く魔界を遠ざけることも可能なはず。だからこそ、彼女が……)


 同時期に目醒める可能性を信じ、デールは行動に移したのだ。


 ――が、しかし。


 悪魔が人間の召喚もなく魔界から出るのは困難だった。やはり、理に反するのにはリスクが大きい。

 どうにか人間界に繋げる陣は完成したが、力を奪われたせいで子供の姿になり、悪魔以前の記憶は消えていた。


 幸いなことに、追っ手を祓ったエリーゼと名乗った不思議な少女に拾われ、契約まですんなり運んだ。順調過ぎて引くくらいに。

 記憶が無くとも、悪魔として契約者を得るのは幸運であると分かっていた。

 だから、デールとしてエリーゼとの生活をそのまま受け入れたのだ。


 エリーゼに力を貸したおかけで、少しずつだが生き物の生命力を得て、魔力も記憶も戻ってきた。

 そして、見えて来た過去。デールは人探しに人間界へとやって来たのだ。

 しかも、探していた魂の持ち主はエリーゼ本人だった。


(オレはエリーゼの魂を喰らいたいわけじゃない。契約者をエリーゼから使えそうな人間(アル)に取り替えるつもりだったが。まさか、竜の(片割れ)だったとは――)


 デールは触れていた屍の鱗に、憎しみとも取れる表情でガリッと爪を立てる。


「人間ならば、きっと運命とでも言うかもしれないが。オレはお前を許さない……」


 またも返事をしない竜に向かって、デールは呟いた。


「まあ、いい。お前の使い道は別にある。……今は(あれ)を閉じることが先決だ」


 デールは竜から離れると空を見上げた。


 いくつもの赤黒い渦で出来た厚い雲。

 その中に、ポツンと明るく丸い光が差し込む穴があいている。デールは、そこから魔界へ戻って来たのだ。


 魔物たちは我れ先にと、穴に向かって手を伸ばす。魔物の群れで出来上がった山を、機敏な魔物が足場にして穴の中へと飛び込んで行く。


(今なら出ることは簡単だが、それではまた繰り返しだ)


 デールは竜に触れ、自分の魔力を屍全体に這わせるよう広げて行く。黒い魔力がヒビ割れの隙間を埋める。


「誤魔化し程度だが……しばらくは、これでいけるだろ」


 地上に出ては消えていく魔物の気配に、デールはガスパルの存在を感じ取っていた。

 そして、エリーゼとアルの気配も。


(そろそろか)


 竜からの瘴気の発生が収まると、穴が少しずつ小さくなっていく。

 デールは竜から離れると、自分の手にできる限りの力をためる。一気に魔物の山を崩す為に。


 エリーゼが穴を塞ぐタイミングと合わせなければならない。力を使えば、この世界の同族にデールの存在が気付かれ大きな邪魔が入る。

 もしも、取り残されれば人間界への道も閉ざされるのだ。

 魔界から逃げた者を待つのは、最も過酷な場所での幽閉だけだ。デールは、死ぬことさえ許されない存在なのだから。


 ――と、その時。


 赤黒い空がぐわんと波打った。


「クソッ! またアルかっ」


 竜の方は変化はないが、空に溜まった瘴気と集まった魔物が刺激された。デールは急いで穴へ向かい飛び出す。

 一番図体のデカい魔物が、魔物の山を踏み潰し穴に手をかけた。


『エリーゼ! その手を切り落とすんだ! ブレスレットを投げいれて、オレを呼べ!』


 エリーゼに呼びかけると同時に、魔力の塊を穴の真下の魔物にぶつける。

 投げ入れられたブレスレットの光魔法で穴周辺の瘴気が一掃された刹那、デールは光に向かって手を伸ばした。


「デールーーー……!!」


 絶妙なタイミングで、エリーゼの声がデールに届く。

 ブレスレットにデールの指先が触れ、そのままエリーゼの契約印の中に吸い込まれた――。




 ◇◇◇◇◇




 エリーゼの体温を感じながら、過去を思い出す。

 あの時みたいに自分を呼んでほしかった。


「今度から、絶対にオレを呼べよな」


 エリーゼの肩に顔を埋める。


 いずれ、エリーゼの為に必要になるアル。

 そんな、ずっと監視し続けていた相手にしてやられたのだ。腹立つ反面、エリーゼに危害を加えないことも分かっていたが――。


「はいはい」と、エリーゼは質問を投げかけながら、デールの背中をトントンと軽く叩く。

 フェレットの時とは違う懐かしい感覚に、デールの胸は震え、顔を上げられなかった。


(絶対に、今度はエリーゼを離さない……)


 デールはそっと、エリーゼの背に手を添えた。


 


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