22. 不可解なランチタイム
交流会も終わり、生徒のお祭り気分もすっかり抜けた頃――。
「ねえ。この状況は何なの!?」
「えっと……。さあ?」
丸いテーブルに手をつき、前のめりに顔を近づけるブランシュ。女同士とはいえ、エリーゼは座ったまま上半身を後ろに反らす。
学校の食堂のテラス席では――。
エリーゼとブランシュとデール、いつもと変わらないメンツでのランチタイムのはずが、なぜかアルとラインハルトも加わっていた。
こんなに目立つメンバーが揃っていても、周囲が静かなのは、早々にエリーゼが認識阻害を発動させたからだ。はたから見たら、生徒が数人座っているな……程度の存在感。
エリーゼ本人だけではなく、エリーゼが意識して発動すれば周囲の者も対象になると、最近になってデールに教えてもらった。
(もうっ、この力の取説が欲しい! それにしても、ブランシュの意見に同感だわ)
「まあ、落ち着けよブランシュ」とデール。
「私は……少し話すべきことがあってだな」とラインハルト。
「気にするな」とアルは言った。
エリーゼを避けていた張本人は、しれっとした顔をしている。
(いや、一番違和感があるのはアルだけど……)
アルとエリーゼのわだかまりは解けたが、その間柄を知る者はデール以外いないのだから。
ブランシュは明らかに自分より身分の高い二人に反論できず、ヒクッと口の端を動かした。何事もなかったかのように笑顔をつくり、椅子に座り直すところは、さすが子爵令嬢だ。
「周囲に遮音結界を張った。これで、話ができるだろう」
アルはラインハルトに向かって言った。
エリーゼとブランシュは顔を見合わせる。ラインハルトの話が何だか分かった。
「感謝する」
ラインハルトはアルにお礼を言うと、今度はエリーゼに向き直り、「その節は、本当に申し訳なかった」と頭を下げてから話し出した。イングリッドとメレーヌに科された処罰について――。
「結論から言えば、二人とも退学になった」
「……そうですか」
学校行事の最中、あれだけ大勢の前で起こした騒ぎなのだから、学校の対応としては当然の結果だった。
「毒薬だったと知らなかったとはいえ、イングリッドがしたことは許されない。伯爵家としても責任をとり、両親の監視のもと、遠く離れた領地に送られ、数年はそこから出ることはできないだろう」
イングリッドが、ラインハルトの水筒に多めに入れた薬草は毒ではない。
アナフィラキシーを知らなかったとはいえ、具合が悪くても戦いをやめないラインハルトの性格を見越して飲ませたものだ。本来の戦いができずに、エリーゼの剣で傷つくようにした。
とはいえ――。
「従兄が少し苦手な薬草を多めに入れてしまっただけ。身体には害がないと思っていた」と言われたらそこまでだった。
その後ラインハルトに直接飲ませたのは、解毒薬の濃縮ポーションだと思っていたのだから、毒を仕込んだメレーヌの方が罪が重くなる。
メレーヌが剣に毒を塗らなかったことで、イングリッドは言い逃れができてしまうのだ。
そう考えれば、未成年の伯爵令嬢としては致命的な罰を受けたことになる。社交界デビューも絶望的だろう。
聖女になりたくて起こした騒ぎとして、この醜聞はずっとつきまとうだろう。
「だが、メレーヌは……」
ラインハルトは言葉を詰まらせ俯いた。
膝の上で握った拳に力を入れ、一呼吸おく。下げていた視線を上げ、エリーゼを見てしっかりとした口調で言った。
「メレーヌは自分で作った毒を隠し持ち、裁判の前に自害した」
「……え?」
「本当にすまない」
被害者であるラインハルトが謝る必要はないのだが、イングリッドが巻き込んだのだ。その懺悔なのだろう。ラインハルトには悲痛さが滲んでいた。
きっと、残されたメレーヌの家族にもラインハルトは謝罪に行ったのかもしれない。
「先輩が謝る必要はありません。どんな理由があったとしても、他人の命を奪おうと実行したのは、メレーヌ自身なのですから」
ユリウスのようにキッパリと言ったエリーゼに、ラインハルトは目を見開く。
(それと自害は別だけど……。ん? でもどうやって、毒を持ち込んだのかしら?)
毒殺を試みたメレーヌは、牢に入れられたはず。
当然、まだ毒を持っている可能性も考え、身体検査もしただろう。面会も限られるし、メレーヌはただの学生。プロの犯罪者ではないのだから、看守の目を掻い潜れるとは思えない。
ふとデールの視線が気になった。
『どうかした?』とデールに頭で呼びかける。
『メレーヌは死んでない』
『えっ!?』
『まあ、ある種の更生施設に入った……ってところだな』
『何それ?』
『とある村……ユリウスに何らかの能力を認められたんだろ』
『そう……。だから、死んだことに』
複雑な思いはあるが、メレーヌが生きていると知ってホッとした。
「おい。大丈夫か?」
唐突にアルが声を掛ける。
「え?」
手に温もりを感じ視線を落とした。テーブルの上でエリーゼの手はアルに握られている。
「なっ――!?」
「メレーヌの件は、エリーゼのせいでもないから気を落とすな」
一見、アルはエリーゼを心配して言ったかのようだが、鋭い視線をデールに向けていた。デールはそんなアルに挑発的な笑顔を見せる。
(ま、まさかっ……デールと会話していたのに気づいたの?)
「そうだ! エリーゼは何も悪くない!」とラインハルトまで手を乗せ励ましてくる。
「ねえ、王子様とどんな関係なのよ? もしかして三角関係? いや……四角?」
ブランシュは、エリーゼにそっと耳打ちする。
「たぶん……みんな友達?」
これからの学校生活がどうなっていくのか、エリーゼは乾いた笑いしか出てこなかった。




