24. お出かけです!
「変だな……」
デールは首を傾げた。
「何が変なのよ?」
「ん?」
「このケーキ、めちゃくちゃ美味しいと思うけど……」
エリーゼは、宝石のようにキラキラした飴細工が散りばめられた、一口サイズのケーキが乗ったお皿をジーっと見る。
あのパジャマを着るようになってから、それを喜んでくれたメイドのロザリーと仲良くなった。
この学校には女子が居ないせいか、やたらと甘やかされているようで……エリーゼに、可愛い物をせっせと用意してくれている。
そして、一年が終了したお祝いにと、たくさんケーキを買ってきてくれた。
お金の出どころは、ロザリーではないことだけは、品物の質から想像はつくが。それを言ったところで、この部屋と同様に、適当に言いくるめられるだろう。
だから、ありがたく受け取ることにした。
「日持ちするって言っていたし。デールの好みじゃないなら、私が食べるよ全部」
「は!? いや、ケーキはどれも美味い!」
「そ? ならいいけど」
アルが呼び出された一件を気にはしていたが、特段これと言った情報は入ってこなかった。
ベンジャミンも、たまたま教師から声をかけられたアルを見ただけで、詳しくは知らないのだと言った。
そして、他のクラスとの合同訓練や、学年末や座学の試験もあったりして、気付けば一学年が終わっていたのだ。
今は、新学期を迎えるための準備期間に入っている。
休みとはいえ、帰省するほどの日数ではない。二年の夏に、長期の休みが用意されているため、そこで帰省する者がほとんどだ。
気候が穏やかなことと、辞める生徒が減り、精神的にも安定する時期なのだとか。
エリーゼも、ガスパルとの手紙のやり取りで、その時期に帰省すると伝えてある。ガスパルからの返事の文字が、滲んでいたが……きっと、気のせいだとエリーゼは思うことにした。
「ねえ。明日、街へおりてみない?」
「ああ、ロザリーが言っていたやつか」
デールは、パクっとケーキを口へと放り込む。
この階専任メイドのロザリーとは、勿論デールに面識はないが、会話は筒抜けなので話は早い。
「小さなお祭りがやっているって。私、今世のお祭りって行ったことないのよ」
「祭りねぇ。ふーん……美味い物あるか?」
「たぶんね。出店みたいなのもあるんじゃないかしら?」
「行く!」
「じゃあ、決まりねっ! 外出届け出さなくちゃ」
エリーゼは急いで立ち上がると、職員室へ提出に向かった。
◇◇◇◇◇
学校から少し離れた開けた場所に、乗合馬車の停留所がある。
そこで、エリーゼとデールは、そろそろ来るであろう馬車を待っていた。
授業や生活に必要な物は、あらかた学校内で手に入るが、それ以外のものは街に買いに行くしかない。とはいえ、貴族のように贅沢をする者はいないので、大概は用足りる。
だから、停留所にはエリーゼとデール以外、人影は無かった。
――が。
「おぉーい!」
と聞き覚えのある元気な声が響いた。
デールは、ニヤリとする。
「えっ? あれ、ベンジャミンとアルじゃない?」
学校の方から、停留所へ向かって来る二人の姿が見えた。
「ああ。ちょうど、馬車の時間に間に合ったな」
驚くエリーゼに対して、デールはさも来るのが分かっていたかのような口ぶりだ。
「なんだよー、ここに居たのかよ! エリーとデールも街に行くのか?」
小走りで寄ってきたベンジャミンは、楽しそうにそう言った。
「そうだよ。ベンジャミン達も?」
「おうっ! だって、今日は祭りだろ? 美味いもんがいっぱい出るからなっ」
「あはは、デールと目的が一緒だ。でも、アルとベンジャミンの二人で出かけるって……意外だね」
確かにアルとベンジャミンは、入学当初から友人になってはいたが、連んで出かける程の仲だとは思わなかった。
「ま、おれらは仲良しだからなっ!」
「適当なこと言うな」
後からゆっくり歩いてきたアルは、なんだか不服そうな顔をしながらベンジャミンに言った。
そして、エリーゼの方を見る。
久しぶりに真っ向から会ったアルに、エリーゼは少し戸惑う。
(大丈夫……うん、自然に自然に……)
そう自分に言い聞かせた。
「なんだよー、偶然も縁のひとつだろ?」
「…………」
エリーゼの心配をよそに、ベンジャミンがアルに向かって、いつもの調子でおちゃらける。
どうやら、出掛けようとしていたアルを見つけて、街に行くと知ったベンジャミンが、無理矢理ついて来たらしい。
「さすがに一人じゃ、祭りに行ってもつまらないしな。デールとエリーを誘おうにも、見つからないし…… お前ら、誘ってくれてもいいじゃないかっ」
ガバッと、ベンジャミンはわざとらしくしゃがんで、膝を抱えた。
しょげた仔犬のように上目遣いで見られて、エリーゼは慌てて謝る。
「そうだったんだね! ごめん、ごめん。話の成り行きで、街に行くことになったからさっ」
「ねっ」とデールに視線を送り、助けを求めた。
(初めてのお祭りに浮かれていて、ベンジャミンの存在を忘れていた……とは言えないもの)
「ベンジャミンは、祭りのこと知っていたのか?」とデールは尋ねた。
「いや。たまたま今朝、ここらが地元のやつに聞いたんだ」
「たまたまね。で、アルも祭りに?」
デールは、意味深な言い方をしてアルにも尋ねる。
「俺は行きたい店があるだけで、祭りには興味はない」
「へぇ、そうなんだ。何の店に……」
とエリーゼが聞きかけた所で、ちょうど馬車がやって来た。




