20. これは偶然……それとも
お読み下さり、ありがとうございます!
念のため、残酷描写のタグを追加いたしました。
「ちょ、ちょっと! ここどこよ?」
「さあ?」
エリーゼは、ピラピラとしたワンピースのような、パジャマ姿のまま宙に浮いていた。
アルの訓練を覗きに行く時は、万が一を考えて訓練着のズボン姿だったのだが……。
最近は、見に行かないようにしていたので、エリーゼだけに用意された、女の子用のパジャマを着ていた。
学校長が言っていた、エリーゼの部屋を整えてくれるメイドが置いてくれる物。袖を通さなくても、毎日とり替えられ、丁寧に畳まれいた。
だから、なんとなく着ないと悪い気がしたのだ。
そんな軽装とも呼べない格好だったが、デールの力なのかエリーゼは全く寒くなかった。
そもそも、エリーゼとデールが浮いていたのは――。
校外訓練場の更に先。どうにか月明かりが入る程度の……枯れ木の森だった。木々は雪帽子を被っているが、今は降っていないことが救いだ。
「なっ!? さあ……じゃないわよ! 完全に学校の外じゃない! どうして――」
「ほら、アルがいるぞ」
デールは、問い質そうとする声など聞こえていないかのように、エリーゼの言葉を遮って指を差す。
「――え?」
エリーゼがそこに神経を集中させると、小さく揺れる松明をもった人影が、ギュッギュッと音を鳴らしながら歩いている。
どう見ても、木剣ではない剣を下げた――アルの姿だった。
見覚えのあるそれは……訓練場の、教師用の備品を勝手に持ってきたのだろうと理解する。
エリーゼは嫌な予感に襲われた。
「もしかして……アルは、魔物を?」
「だろうな。ここら辺なら、小物が居るだろうからな」
白々しく肩を竦めたデール。
「……このために、昼間の訓練であんなこと言ったわけ?」
「まあな。アルは行き詰まっていたし、いつもこの森を見ていたからな。それに、手っ取り早く魔物を倒した方が経験値が上がるだろ? せっかく、魔力もあるんだからな」
「それは、そうかもしれないけどっ」
デールは、強くなることに貪欲なアルの背中を押したのだ。
平民の学校では魔力は使えない。その上、アルが本気で打ち合える相手もいないのだから。焦る気持ちも分からなくはない。
エリーゼが相手になればいいが……それはそれで困る。アルのあの感じでは、お互い関わるとろくなことにならない気がした。
(でも……)
アルは本気で強くなりたがっている。エリーゼも強くはなりたいが、この学校は騎士学校へ行くための過程。国籍を偽り身元を隠しているのだから、王族とは関わらない方がいい。
(デールは、本当に親切心で?)
未だにエリーゼは納得ができなかった。
だが、確かにエリーゼ自身も、魔獣を倒しながら力をつけたのは事実。
けれど、それはデールという悪魔の助けがあってこそ。北部の魔物は未経験だ。
「いくら、アルには強い魔力があるといっても、魔物は危険だわ!」
「だ、か、ら、オレたちが今居るだろ〜」
赤い瞳がエリーゼを見詰め、パッとデールはエリーゼの手を掴む。
「近付くぞ」とデールはエリーゼの手を握ったまま、木々を避けつつ低空飛行し始めた。
ある程度近付くと、スッと地面に降り立つ。アルの姿がよく見える位置だ。
アルはかなり神経を尖らせ、周囲を警戒している様だった。
『ちょっと、近過ぎじゃない?』
『大丈夫だって。オレたちの存在自体消してあるから。まぁ、結界みたいなものだ』
『は?』
そんな便利なのがあるなら、毎回使ってくれたらいいのに……そう思ったが。願い事じゃないのにちょこちょこ悪魔の力を使うのは、デールの意思だからなのかもしれない。
少しデールに甘え過ぎているかもと、エリーゼは反省した。
そして、それ以上は言わずエリーゼは前を見た。
アルの視線の先には、暗がりから紫に光る、小さな目のような物がいくつも見える。アルは、手にしていた松明を雪の中に差し込んだ。
(確かに……この気配だと、小動物系の魔物だわ)
剣を構えたアルに向かって、勢いよく小さな魔物が飛び出す。
アルは素早く躱すと、剣を振った。
切られた魔物は消滅し、コロンと魔石が転がる。
魔獣は瘴気に当てられた魔獣化した動物だが、魔物は動物ではない。魔力の核から生まれた、本来は人間界に存在しないもの。
エリーゼ自身も何度か遭遇しているが、北部とは違い大した魔物はいなかった。
理由はわからないが、北部には魔物が生まれてしまう場所があるのかもしれない。
だから、魔物の討伐は、国をあげて必死で行っても終わりが見えないのだ。
(まあ、この程度の魔物なら大丈夫かしら)
次々に飛んでくる魔物に、アルはひたすら剣を振るう。
――が。
魔物も馬鹿じゃないのか、だんだん剣に当たらないようになっていた。
『アルは、魔力は使わない気みたいだな』
『剣術だけで対応するつもりってこと?』
さすがにそれは無いだろうと、エリーゼは思ったが……。
そんな矢先、一匹の鋭い爪がアルの腕を掠めた。スパッと切れた服の間から、ポタリとアルの血が流れる。
すると、森の空気が震えた――。
『――えっ!?』
『マズイな』
グル……グルルルル……ッ
低い唸り声と共に、紫の目をした大きな角のある狼のような魔物が、ダラダラと涎を垂らしながらアルに向かって姿勢を低くしていた。
(いけない!)
エリーゼはアルの魔力の大きさを知らない。魔法の発動が遅れれば、間に合わないだろう。
そう思った瞬間――。
エリーゼは、デールの結界の中から飛び出していた。
『デール! 剣を!』
手首の中から現れた剣を持ち、エリーゼは魔物の前に立ちすくんでいたアルの前に立った。




