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13. 地下牢の痕跡

またも、だいぶ期間があいてしまいました。

申し訳ありません。゜(゜´Д`゜)゜。

(どうやら、あそこみたいね……)


 華やかな王宮からは想像できない北の塔。存在は知っていたが、足を運ぶのは初めてだ。前回の潜入時に、ひととおり建物の場所はリサーチしてある。

 各宮の構造については北の塔も含め、ざっとだが王太子妃教育の資料の中に載っていた。王族専用の隠し通路については、当然まだ知るべきではないので触れられてはいない。婚姻が成立したら、口頭で伝えられるのだろう。


 北の塔の最上階は、罪を犯した王族が入れられる部屋になっている。名目上は牢ではなく隔離施設的なものだ。それなりに立派な部屋ではあるが、窓や扉には鉄格子があり、自分から外に出ることは不可能な造りになっている。


 その地下が、王族以外の犯罪者が入れられる牢屋だ。刑を待つ勾留(こうりゅう)がほとんどで、入れられる者は限られているが。戦時下で使われた特別な牢獄もあるらしいが、現在ではそこが使用されることはないそうだ。


 同じ塔であっても、上階と地下牢の者が交わることは一切ない。

 側室といえどソフィアは王族直系の血筋ではないため、この地下牢の方に入っている。とはいえ、一時的に収容される入り口付近の牢屋とは、だいぶ離されているらしいが。


 エリーゼは木陰から様子を探る。

 鎧を身につけた二人の騎士が立つ扉の先に、その地下牢へ繋がる階段があるはずだ。


 食事の搬入時に合わせ、扉が開く隙を狙ってエリーゼは一瞬で中へと入り込む。外へ戻るタイミングも合わせないといけないので、時間はあまりない。

 だが、ここに着く前に騎士団の資料管理室で調書も確認してあるため、どの番号の牢かは分かっている。なので、そう時間はかからないだろう。


 ワゴンを押す配膳担当が中の看守に軽く会釈し、薄暗く長い廊下の奥に消えた。

 あの先にソフィアは居るのだろう。アルはどんな気持ちでここへと足を運んだのか。割り切ってはいても、きっと複雑な気持ちだったはずだ。


 エリーゼはそんな考えを振り払うように首を左右に振ると、看守に見つからないよう音を立てずに移動した。


(ここだわ)


 誰も入っていない牢は、鍵がかかっていなかった。二重扉を開き、鉄格子の中へと入る。寒々しいのにじとりとしていて、カビ臭さが鼻につく。

 罪人が消えた時点で、牢屋内は徹底的に調べられている。へたな小細工がしてあれば、とっくにアル達が気づいただろう。


 ただ、デールだけが何かを感じたのであれば、その痕跡は残っているかもしれない。

 何らかの異変があれば、多少なりとも感じ取れるのではないか――エリーゼは自分の直感を信じることにした。

 ぐるりと見渡すが、がらんどうとしていて目につくものはない。


(やはり何もないわね。だったら……)


 チラリと薄くなった手首の印を見てから、デールの魔力でもある黒い(もや)を牢屋内に充満させる。

 すると、壁の一部だけ靄が弾かれるように消えた。


(なるほど……だからデールは気づいたのね)


 靄を自分の中に戻し、靄が避けた場所にエリーゼは手を置いた。今度は、癒しを行うように神聖力のようなものを流す。微かではあるか、淡く光り反応があった。


(え……魔術ではなくて神聖力ってこと? 意味がわからないわ)


 魔術以外に転移ができるなんて聞いたこともない。神官が魔道具を使ったとしても、残るなら神聖力ではないはず。


(神様じゃあるまいし、こんな芸当ができる人が居るなんて……ん? 神……)


 鉄格子の中から見える景色に既視感があった。イングリットに入れられた牢ではない。もっと広くて何もない空間―― そこまで考えて、ぐわんと視界が歪む。

 夢の一部を思い出すと、頭の中で警鐘が鳴った。


(……今は、これ以上思い出したらダメだ!)


 エリーゼはギュッと自分の手首を掴む。

 本当はもっと真実を知りたい。けれど、それをすることによって、デールとの繋がりが消えてしまう可能性がある。せめて、思い出すならデールが帰ってきてからにしたい。


 どうしてデールとの契約に、自分はこだわっているのか。契約者になったのはたまたまなのに。


(確かに、もうこれ以上転生はしたくない。だけど)


 本当にそれだけでいいのだろうか。


 エリーゼは自問自答する。

 デールやアルと出会い、転生者であると打ち明けたせいかもしれない。レイも転生している事実を知って、ほんの少しだがエリーゼの深いところで何かが変わりだしている。

 鮮明になりつつある過去の夢にしてもそうだ。


(願って転生を終わりにするだけでいいの?)


 今は、寂寥感より真実を知りたくなっている。

 葛藤するエリーゼの耳に、遠くでガチャガチャと鍵をかける音が響くのが聞こえてきた。


(もう、戻らなきゃだわ)


 エリーゼは来た時と同様に、強めに認識阻害を発動し、配膳の終わった看守について北の塔から出ていった。




 エリーとして滞在している宮に戻ると、身体強化し木を登り、高くジャンプしバルコニーへと飛び移った。

 自分の部屋に入ると、エリーの姿になって何事もなかったように、ソファに座って本を開くが……内容なんて頭に入ってこない。


(デールがあの神聖力を感じて神殿に潜入したのなら、絶対何かに確信をもっているはずよ)


 全ての鍵となる存在は、白髪の大神官しか考えられないが――。


(早く、クラウス殿下から連絡が来てくれるといいのだけど……)


 そんな風に思った矢先、コツコツと窓をつつく白く可愛い鳥と目が合った。どう見ても野鳥なのに、伝書鳩のようにエリーゼを目的としているようだ。

 レイの獣人としての能力を思い出し、エリーゼは慌てて窓を開ける。小鳥はさも当然のように部屋に入って旋回すると、エリーゼの肩へとまった。


「お利口ね」


 エリーゼは鳥に声をかけ、足にくくりつけられていた小さな筒を外して、中のメモを読む。

 やはりクラウスからだった。


 そこには――。


 視察で神殿内をほぼ全て見て回ったが、デールの存在は確認できなかったと書かれていた。

 


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