あたしの事嫌いでしょ
「俺は遠慮しようかな」
「え?
せっかくここまで来ておいて断るとはどういう了見で?」
「そうだぜ。
まさかサボろうってんじゃねぇよな?」
明らかに空き地にしか見えない柵に囲まれた目的地を前に、俺はそう口にした。
モリンとエンゲにジトーっと見られながら、問い詰められる。
「他に仕事が出来た。
後で合流するから」
「でも……」
「まぁまぁ。
合流するっていうの忘れるなよ」
「あぁ」
クレノは大方俺のやる事を察してくれたらしい。
じゃ、と別れを告げ山を下りて行く。
周りは住宅が多く、ここの空は曇って白い雪をちらほら降らしていた。
さっき去って行った影が立ち止まっている。
「……何してるんだこんな所で」
「ひっ……!!
ななななななんで、ここに?」
「なんでって……話をしに。
で、お前こそここで立ち止まって何してたんだよ」
「う………あ、あた、あたしは……別に何もして、ないし。
……ていうか、ほっといてよ」
「そうだな、本当なら放っておくべきだ」
「な、ななならなんで……」
「さぁな。
気まぐれだよ気まぐれ」
そう言って近くの段差に腰をかける。
「…………」
どうしようかと迷いながらククが間を空けて座った。
「………そそそ、それで何の話?」
「お前……ククについて教えてくれないか?」
「あ、あた、あたしぃ?
な、なななんで?」
「だから気まぐれだっての。
別に……話したくないなら俺は戻るけど」
「……………」
俯き黙るクク。
「………昔は良かった、よ。確かに。
皆、あたし、なんかと仲良くしてくれて。
ま、毎日……楽しかった」
そう言うククは懐かしそうな、優しい微笑みを湛えている。
けれどそれもすぐに寂しそうな表情に変わる。
「こ、こここういうの物語では良くある話……なんだろうけどさ。
仲良かった人達も年老いて……皆死んじゃって。
私を知ってる人も……当然だんだん少なくなって。
仲良かった人達の子供とか、孫とかと仲良くしてたよ?
け、けど……それも時が経つにつれて関係が薄くなる……というか。
信仰が……薄れていって………こ、こんな性格なせいもあって、気がついたら1人になってた………」
「…………」
「は、はい、あたしの話おしまい!
あ、あんたは?」
「……俺の話はいいだろ」
「ひ、人に話させといて、自分だけ話さないの……卑怯」
「う……」
最もらしい事を言われ、どう話そうか悩む。
「俺は………そうだな、これもよくある話だろうな。
俺は………母さんと父さんとただ幸せに暮らしたかっただけだったんだ。
でも、それは悪い人間達のせいで叶わなかった。
普通に生きていく事もできず、火事から師匠に救われて。
後は……まぁ、色々あって今に至るって訳だな」
「い、色々が気になる……けど。
そっか……貴方も、あたしと似てる、感じなんだ」
すると、はっとしたように俺の目を見る。
「だから……なの?」
「何がだ?」
「だから……こうして、気にかけて……くれたの?」
「…………」
顔を逸らす。
もっと他に誤魔化す術があったのだろうが、今の俺にはそれが思い浮かばなかった。
「そっか………へへ、あり、がと」
「人と話すの、好きなんだな」
「へ!?」
「だって、すごく嬉しそうだったから」
「………」
人差し指と人差し指をツンツン合わせて、照れた様に目を逸らすクク。
「本当は誰かと話したいんだろ?」
「……っ。
で、ででででも……こんな話し方……だし、絶対……皆に嫌われる。
キモい、とか……絶対、皆思ってるし……」
「……そんなの聞いてみなきゃ分かんねぇだろ」
「わ、分かるよ。
皆の視線?とか、色々。
大体、あたしみたいな性格の奴が……な、仲良くなりたいなんてむ、無理なんだよ。
……コミュ障なのに、人と仲良くなりたいとか……矛盾の塊でしょ」
自嘲気味にそう笑う彼女に、少しムッとした表情を向ける。
「どういう性格だろうが、仲良くなりたいって思ってても変じゃないだろ」
「……へ、変だよ!
あ、あんたみたいに顔も良くて、ひ、人と問題無く話せるようなやつに、あ、あたしみたいな奴のこ、事なんか分かんないよ。
あたし……こんな顔、だし。しかも……こんなクソ陰キャな性格だし……捻くれてるし………はは、終わって───」
俺は思いっきりククのおでこに向かってデコピンをした。
「い、いっっっった!!!
な、何するの!!?」
「あのなぁ、お前みたいなの見てるとイライラすんだよ。
何が顔も良くて、人と問題無く話せるだぁ?
俺の事をなんにも知らないで、よくもまぁベラベラと勝手な事を言ってくれるよなぁ。
こっちだって好きでこうなった訳じゃねぇし、大体人とちゃんと話せるようになったのだって───」
そこまで言って、黙る。
ダメだ。
何ムキになって自分の弱い所を、今日見知った竜に話そうとしてる?
それだけは絶対にダメだ。
これだけは、誰にも絶対に見せないって決めただろ。
「~~~〜っ!!」
見れば、彼女は目に涙を溜めてこっちを睨みつけていた。
「あ、あんたなんか大っっ嫌い!!
ど、どどどんな悩みを持ってるか……知らない、けど。
あ、あたしだって………あぁ、もうまた自分の事ばっか………。
と、とにかくあんたみたいな“恵まれた奴”なんかにあたしの気持ちなんて分かんないよ!!」
「恵まれた奴って……俺は別に恵まれてなんて───」
「嘘だ!
なら……なら、一緒に居た人達はなんなの!?
仲間なんじゃないの!?」
「………それは、そうだけど。
特に親しいとかじゃ」
「…………っ!!」
彼女は地面にある雪をかき集め、雪玉を作ると俺の顔目掛けて投げつけてきた。
普段ならこんなの避けれるはずだった。
だが、避けた先に雪玉がカーブして顔面にぶち当たる。
「ざ、ざまぁみろ!
お、お前なんて………一生転び続ける人生になればいいんだ!!
ば、ばーか!!」
涙を流しながら、走り去っていくクク。
俺は顔についた雪を払いながらそれを見ていた。
「…………本当、恵まれてなんてねぇよ」
***
まただ。
また、やってしまった。
いつもこうだ。
人と……仲良くなりたい癖に誰かを傷つけてしまう。
最初は……あたしも、素直だったっけ。
こんなの人のせいにしてるだけって分かってる。
きっかけは昔。
確かにあたしは皆と仲良かった。
けど、全員が全員あたしを好きな訳じゃない。
人間より亜人よりも強い存在が居ることを恐れてる人が居た。
あたしの外見や性格が気に食わない人がどうこう言っていた。
あたしはなるべく嫌われないように、振舞っていた。
それでもどうやっても誰かには嫌われる。
これは仕方ない事だって分かってるんだ。
でも……どれだけ皆に励まされても、優しくされても言われた傷が癒える訳じゃない。
あたしの性格上……気にしないなんて無理だった。
最初は皆の言う通りに気にしないようにしてた。
でも、時が経ってあたしが竜と知らない人も増えてきた頃。
あたしの誰にでも媚びを売るような性格を気に入らないって、キモいって言われた。
メンタル雑魚なあたしは、それだけで今までの自分の在り方を否定されたような気がして。
おまけに誰も味方せず、冷たい目や可哀想にと思いながら助けない。
そんな人ばっかりだった。
だから、こうなったとは思わない。
だって、あたしがもっと心が強かったらこういう考えにならなかったんだ。
人に嫌われたくないとか、色々マイナスな事を気にするから良くないんだ。
大体……あたしみたいな奴が誰かと仲良くしたいなんて思ったのが間違いだったんだ。
………こんな風に思ってる時点で相当キモい自覚はある。
こんな気持ちを誰かに話してしまえば、自分を責めて可哀想に思ってもらいたいんだろうとか、暗い気持ちの自分可愛いとか、人のせいにしてばっかりとか、かまってちゃんとか……他にもたくさん、そう思われるに違いない。
これだけは確信して言える。
あたしの長い竜生の中で、そもそも違う種族が一緒に生きていくなんて絶対に無理だという事を。




