暴走と半亜人
夜中、目が覚めた俺は部屋を出る。
ちなみにアオイは、予備の布団を俺の部屋に運びそこで眠ってもらっている。
洗面所に向かい、もう一度何度も何度も口をゆすいで洗う。
鏡に映る自分と目が合う。
本当は自分の容姿を嫌いになんてなりたくなかった。
母さん譲りの花紺青の髪と獣の耳、父さんと同じ紫色の瞳。
全てあいつらのせいで……。
「眠れないのですか?」
聞こえた声に振り返るとアオイが心配そうに立っていた。
「……部屋に戻るぞ」
手を引いて部屋に戻る。
アオイを他の仲間に見せたくなかった。
アオイは布団に座り、俺はベッドに座った。
「それで結局お前は何なんだ?」
「……いつからこの世界に居たのか分かりません。
気がつけば私は私として存在していました。
ただ違うのは途中までは貴方と全く同じ記憶を持っていても、途中からは貴方には存在しない記憶を私は持っている。
それが私の歩んだ人生……と言うべきなのでしょうね」
「やはりもしもの俺……って事か」
「そう、なりますね」
今は皆基本的に寝ているか、仕事で居ないかのどちらかが多い。
朝までにアオイをなんとかしなければ。
「私があの男の元に向かうのはダメ……ですか?」
「当たり前だ。
あんな奴の所になんて行かせたくねぇ。
お前は平気なのか?」
「……私はもう慣れましたから。
というよりそういう刺激が無い方が辛い、です」
「………この国に女性が多く住む島が存在する。
そこに知り合いがいるから、引き取ってもらって───」
「残念ながらそうなると私は脱出し、あの男の元へ向かうでしょう」
「……じゃあどうすれば」
「……少なくとも貴方の傍にいる間は逃げはしませんよ」
「なんでなんだ?」
「貴方が私を傍に置きたいのと同じ理由です。
私からすれば貴方はもしもの私。
自分を放っておけないのは当然でしょう?」
「………お前に必要な物は揃える。
部屋に鍵をかけて、俺と一緒の時以外はここで過ごしてもらう。
それじゃダメか?」
「……分かりません。
もう、私には選択などあって無いようなものですから」
「嫌だったり何かあったら言えよ?」
「はい、分かりました」
買い物を済ませるとそれからまた寝る。
起きて身支度をしているとコンコンとノックする音が。
昨日こっそり薬棚から取った気配を消す薬を飲ませているため、アオイの存在は部屋に入れない限りバレないはずだ。
扉を開けるとリツが部屋の前に立っていた。
「アオトちょっといい?」
「あぁ、いいけど」
部屋の鍵を閉め、リツについて行くと外に出た。
目的地にはノエルも居て、俺はただ事では無い何かを感じた。
「2人に集まってもらったのは、人間と亜人の事についてなんだけど」
「なんでまたそんな話を?」
「……実は“亜人が暴走した”って話があってね。
結構被害が大きいみたいで。
この際だから、言っておかないとって」
「何を言う必要があるんですか?」
ノエルが心配そうに問いかける。
「……キミ達の今後についてだよ。
不吉な予感がするから、言っておこうと思って。
ノエル、まず亜人の暴走については知ってる?」
「それが……その仲間にも教えてって聞いてみたり、色々調べたりしたんですけどちゃんとした回答が無くて」
「亜人の暴走は亜人にとってもあまり答えたくないものだからね。仕方ないよ。
暴走というのは誰にも備わっているものなんだ。
亜人が精神的に追い込まれたり、肉体的に大ダメージを追うと、暴走状態になるんだ。
暴走状態になった亜人は元々強いや弱いに限らず凄まじい力を持っていて制御がきかず、魔力や体力を使い切るまで暴れ続ける」
「………」
「……実はアオトが2年前暴走した事があって。
その時は精神的に追い込まれて暴走したのと、別世界の力の影響でアオト自身が暴れるって事は無かったんだけど、代わりに魔力が暴走して止めるのに苦戦した事があったんだ。
元々強い亜人は暴走した時普段よりも力や魔力が強い場合があってね。
アオトの場合、元々魔力が無限にあるようなものって事が分かったんだけど」
「アオトが……暴走?」
ノエルは驚いたように俺を見つめる。
「……あぁ、暴走してる時の事は……詳しくは覚えてねぇんだ。
ただ、意識がうっすらとあったとしか」
「その時と同じ流れを感じるんだ。
アオト最近何か無かった?」
内心ドキっとする。
昨日あった事は絶対に知られたくない。
だから、俺は平然と何も無かったと答える。
「それならいいんだけど。
言いにくかったらノエルやヨミに相談してくれて構わないから」
「あぁ、分かった」
「そして本題は『半亜人』の事について。
アオトは先日メオに会ったんだってね。
猫の半亜人の子」
中立組織本部を掃除している時に出会ったあの気の強い女性の事だろう。
「なんでその事知ってるんだ?」
「本人から直接聞いたんだよ。実は知り合いでね」
リツの顔の広さには驚かされるばかりだ。
色んな人と繋がりを持っている。
「あの半亜人ってなんですか?」
「……やっぱりノエルは知らなかったか。
アオトは知ってるよね。
半亜人っていうのはね、人間と亜人の間に生まれた人の事を言うんだよ。
亜人と人間の気配を持ってて、特徴は耳か尻尾のどちらかしか無いんだ」
「え、でも人間と亜人は結ばれちゃいけないんじゃ……」
「そう。
だから大抵の場合両親共々殺されるか、両親は死んで子供だけ生き残るか。
生き残ったとしても代償として、幸せとはかけ離れた人生が確定している。
人間側と亜人側にとっては禁忌の証として忌み嫌われている」
「その話と私達って関係あるん……ですか?」
おずおずとノエルが聞く。
「僕はキミ達がそうならないか危惧しているんだよ。
絶対に無い、とは聞いきれないだろ?
何を基準としているのか分からないけど、分かっている事は好意を持ってキス以上をしない事。
好き、とか好意を伝えるのもダメ。
それ以上は結ばれたとして許されない。
ちなみに人間や亜人を飼う事は許されている。
何故ならば一方的な暴力だから……」
「そんなのおかしいよ。
普通そっちの方が許されない事なのに」
「だからこの世界はおかしくて嫌いなんだ。
俺もリツもそう思ってる」
「今日は忠告と、その存在について知って欲しかっただけ。
ごめんねこんな話しちゃって。
僕はアオトとノエルを信頼しているからこそ、気をつけてほしくて。
大切な仲間なんだから」
リツはそう言うとこの場を離れていく。
「アオト……」
ノエルが俺の服の袖を掴む。
そう、俺とノエルが結ばれる事などあってはならない。
そして結ばれる事など一生無いのだ。
「……もしも想いを告げるなんて事したら、その瞬間に死が確定するだろうな」
「なんでこんな世界になっちゃったんだろうね……」
ノエルの声は震えていた。
俺はノエルの手を優しく、けれど強く握った。
「……アオトの事、教えてくれる?」
「暴走した時の事か?」
「……言いたくなければ言わなくていいから」
「………分かった」
俺は深呼吸すると話し始めた。




