視てしまった
数日後、分かれて工場地帯へ潜入していた。
時間帯は夜、俺はノエルとペアを組む事になった。
「作戦は頭に入ってるな」
「うん。
私たちは潜入して、亜人達を倒して人質を解放すればいいんだよね」
「あぁ」
辺りは暗く、静まり返っている。
警戒しながら周囲を見回し、人が居ない事の確認と明かりに照らされた道を避けながら工場へと迫っていく。
「上から入るぞ」
「うん、分かった」
梯子を登り、屋根にある窓を慎重に開ける。
木箱の上に降りた俺は、ノエルに大丈夫だと合図する。
話し声が聞こえるが、ここは死角となって俺達の姿は見えていない。
木箱の間をそっと歩いていき、奥へと進む。
薄暗い廊下を小走りで行き、敵を即座に気絶させていく。
事前に複製してあった鍵で檻を開け、人質を解放する。
「人質の護衛と避難は任せたぞ」
「アオトはどうするの?」
「さっき奥から声が聞こえたんだ。
そっち見てからすぐ戻るから」
「分かった。
……気をつけてね」
「あぁ」
走って奥に進むとジュイと合流した。
「ジュイも聞こえたのか」
「うん。女の子の声……だったよね?」
「あぁ。さっさと行って助けるぞ」
「りょーかい!」
探してすぐにその少女は見つかった。
───が。
「ぇ………んで……ちゃ……が………」
ジュイの様子がおかしい。
まるで死人を見たかのような顔をしている。
「しっかりしろ!
あの子を知ってるのか」
ジュイの両肩を掴み揺さぶる。
「あ……うん。ごめん。
あ、あれ……私のお姉ちゃんなの。
で、でも生きてるから当然私よりも年上で………なんで」
「見つけた」
少女───ジュイの姉らしき者が指をさしながら言った。
「見つ、けた。みつ、けた。ミツ、ケタ」
一点を見つめながら歩いてこちらに向かってくる様は普通では無い事を示していた。
「いいか。
酷な事言うがあいつはお前の姉じゃねぇ。
だから───」
「お姉ちゃんが死んでるって可能性は?
そしたら化けて出てきてもおかしくな───」
「あいつは霊じゃねぇ。
得体の知れない何かだ」
「………お姉ちゃん」
ジュイはダメだ。
多分過去に関係するトラウマを思い出してしまったのだろう。
そう、トラウマこそ俺達の最大の、唯一の弱点。
「俺が片付ける。
だからジュイは先に外に出てろ」
「いや……ちょっと待って。
違う……違うの!」
必死で止めようとするジュイ。
これでは刀が抜けない。
少女は止まらず徐々に近づいてきている。
もし爆弾など仕掛けられていれば無事では済まない。
「ジュイ、いいから落ち着けって───」
───────
「……っ、なんだ今の………」
頭にノイズのようなものが走り、何かが聞こえたような。
その隙にジュイは少女の元に行ってしまった。
「うぐ……待てって」
ジュイに向かって手を伸ばし、手首を掴む。
その時。
「───っ!?」
───昔。
私にはお姉ちゃんがいた。
両親は私が幼い頃に亜人達の争いに巻き込まれ亡くなった。
だからお姉ちゃんが私の親代わりとして育ててくれた。
私はお姉ちゃんが大好きだった。
だから寂しくなんてちっともなかったんだ。
それくらい私を愛してくれたから。
でも。
その幸せは唐突に終わりを告げる。
ある日突然お姉ちゃんは私の前から姿を消したのだ。
最初は事件に巻き込まれたんじゃないかと疑った。
けれど、いくら聞き込みをしてもそんな話は聞かなかった。
思い当たる事なんて一つも無かった。
出て行ってしまうにしても前触れなんて、様子の変わった所なんて微塵も無かったのだから。
まだ戦いも知らずに平和に生きていたあの頃……といっても子供でも大人でも無い中途半端な年齢だったが。
だからいつしか私は“お姉ちゃんになる事を選んだ”。
いつも大人っぽくて何でもお見通しなお姉ちゃん。
失った半身を補うかのように。
それは直ぐに馴染んで上手くいった。
そして、本当の意味で私の一部になったんだ───
「───っ!
はぁ……はぁ…………今、のって」
「…………」
気がつくと俺は尻もちをついており、ジュイは近くに横たわっていた。
一瞬で違和感に気づいた。
2人共衣装が別世界の力を借りてる時の姿になっているからだ。
「なんで………それに俺が見たのは………」
無意識のうちに手を伸ばし、ジュイの“心”に触れてしまった俺は覗き見てしまったのだ。
ジュイがどんな過去を経て、どんな想いを持って生きているのか。
その一部を。
絶対に知られたくない秘密を。
「…………謝って済むような事じゃない、よな」
自分が逆の立場なら激昂じゃ済まない、取り返しがつかないくらいになるのは想像に難くなかった。
どうしても人に見られたくない過去は、誰だってあるのだから。
「……あれ、ここは」
「ジュイその……大丈夫か?」
「あれ……私何してたっけ……確か───そうだお姉ちゃ………」
その先に見つめる人物はおらず、諦めたように目を伏せるジュイ。
「アオト君はその……視たんだよね、私の過去」
「…………本当にすまないと思ってる。
そんな言葉じゃ到底足りないとも───」
「責めたいんじゃなくてね、ただ聞いてみただけ。
そっか……視ちゃったか。
……お姉ちゃんに対する執着半端ないでしょ。
私はアオト君が抱えてるほど重い過去なんて持ってないし、知られても───」
「そういう過去とか出来事って、比べる物じゃないと思う」
その声に振り向くと、遅くなった俺達を心配したのかノエルがやってきた。
「アオトにはアオトの辛さがあって、貴方には貴方の辛さがある。
比べるのは2人共に失礼だよ。
だって、辛いって気持ちは比べるものじゃないと思うから」
「………そう、だね。
ごめん。ノエルちゃんの言う通りだね」
やっぱり綺麗だ。
こんな真っ直ぐな目をして、そんな主人公みたいな事を、本当にその人の事を想って言えるなんて。
俺には到底敵わない輝き。
「みんな無事に救出したし敵はやっつけちゃったから、早く行こ」
ノエルの後に続き、ジュイと共に工場を後にした。




