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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第二章,星団
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矛盾

───夜、今日は明日に備え中立組織(エイレネ)本部に泊まることとなった。

与えられた部屋は1人一部屋で、雛菊本部の部屋よりも豪勢で広かった。

なんだか落ち着かないながらも、寝る準備をしようとした時、部屋をノックする音が聞こえた。


「……入っていいぞ」


開かれた扉から現れたのは、なんとノエルだった。


「──っ、なんでお前……」


「…………」


昼間と同じ服装──マントは外してある──のまま、じっとこちらを見つめ立っている。


「ここに来るなって言ったろ。

……何の用だよ」


「アオトの気持ち……どうしても確かめたくて」


「俺の気持ち?」


「うん。

……だって、アオト私と会っても嬉しくなさそうで」


「それは違げぇよ。信じられないぐらい嬉しい」


「じゃあ、なんで?

なんで……事情を話してくれないの?信用……されてない?」


「信用はしてるよ。

けど……これはなんていうか………とにかく言えない事なんだ。

だから、今のうちにさっさと───」


「そんなに出ていって欲しいの?」


悲しそうな目で見つめられ、思わず動揺してしまう。


「……そうじゃねぇよ」


「教えられないって……何?

命に関わるものなの?」


無駄に勘の鋭いノエルに一瞬表情に出てしまったことを悔やむ。


「そう……なの?」


「後で教えるからとにかく───」


「そうやって逃げないでよ!」


「………」


「意地でも言わないつもりなんだね」


「あぁ、そうだよ。

さっき、5年前の……小屋に居ろって言ってた時のことを言ってたよな?

俺から言わせてみれば、危ないから居ろって言ってたんだ。

実際それで何度か危険な目に遭った。

一緒に洞窟に行って幻獣と契約する羽目になったり、人間側の奴が来たり、一緒に……ムニンに行って………それで…………」


それ以上言葉が出てこなかった。

その先を言うのが怖くて……あまりにも恐ろしくて、認めたくなくて。

あれは俺が犯した誤ちだ。だからこそ───


「とにかく、ぜってぇ俺は言わねぇからな」


「……アオトの馬鹿!!

私がどれだけの想いでここまで頑張ってきたか……ちっとも伝わってない!」


「………」


「………もういいよ」


ノエルがそう言って去ろうとした時、何故か俺はノエルの手を掴んでいた。


「……出て行ってって言っときながらそうするの………ずるいよ」


「あぁ、そうだな……ずるい」


ノエルは軽くこちらに顔を向け、言葉を待っている。


「手が勝手に動いたっていうか………俺は…………俺だって、どんな気持ちでこの5年間過ごしていたかなんて想像もつかないだろ。

毎日お前の事、想ってたよ。夢だって何回……いや何十回と見た。

あの時だって離れたくなかった。けれど、仕方なかった!

国が決めたことだから。

それに……お前を連れていく事なんて………それは、今までよりももっと危険な目に遭わせてしまうから……だから俺は!」


「アオトが私の事心配してくれてるのは分かる。

けど、私はどんなに危険でも残酷な世界に飛び出すとしても……貴方とずっと一緒に居たかった」


「俺は……そうは思わない。

お前もここまで来たって事は、ある程度この世界の残酷さを知ってるはずだ。

でも俺は……そんなの知ってほしくなかった。

平和で安全な村で過ごして、お前の夢だった結婚……とかをして、そうやって平和で何気ない生活を送ってほしかった。

俺と……俺なんかと出会ってしまったせいで、ノエルはこんな危険な場所に……」


ノエルは完全に振り返り、俺の手を両手で握った。


「ちょっと待ってよ……そんな事言わないで。

私の気持ちを否定しないでよ。

アオトが心配してくれてるの分かった上で言うけど、それは違うよ。

これは私の意志で決めたことだよ。

確かにアオトと出会わなきゃ世界の残酷さなんて知らずに、のうのうと平和な生活を送ってたと思う。

けどね、アオトと出会わないなんて絶対に嫌。

出会って良かったんだよ……アオトはそうじゃないの?

本気で出会わない方が良ったって……思ってるの?」


「……………」


固く口を結び、依然として目を逸らしたままだ。


「アオト………」


「…………そうは、思ってねぇよ。

でも……やっぱりここに来るべきじゃなかった」


「………っ!」


ノエルは俺に近づくと、馬鹿と何度も言いながら俺の胸を叩く。

やがてそれも力が弱くなっていき、涙がぽつりぽつりと頬を伝う。


「………もう遅いから。な?」


「うぅ……アオト………」


ノエルはその場に座り込んでしまった。俺も同じく隣にしゃがみ背中をさする。



それから少しして、落ち着きを取り戻したノエルを俺のベッドに座らせた。

俺も少し間を空けて座っている。

ノエルはその間を見つめ、俺もふとそこに視線を落としてしまう。


「……最後に聞いてもいい?」


ノエルは視線を落としたまま、俺はノエルの方を見た。


「成長した私をどう思う?」


その言葉の意味を理解し、すぐには返答できなかった。


「……前よりも大人っぽくなったと思う。

強くも……なったんだろうし。

でも話してて思うよ、何も変わってねぇなって。

あの頃のままな所もあるんだって、ちょっと安心した」


「そっか。

……私は、アオト変わっちゃったかなって思ってたんだけど、今の言葉聞いて安心した。

何も変わってないんだね」


そう言ってお互いくすりと笑い合う。

けれど確かにあの頃とは違っていて、その証拠にノエルの笑顔はあの頃よりも大人びていて、可愛らしさよりも綺麗……だったから。


そんな事を思っていると、ノエルがもたれかかってきた。

突然の事に驚くが、同時に嬉しくもあった。

ノエルの温もりをまた感じられることが、こうして一緒に居られる事が何よりも嬉しくて。

思わず抱きしめたくなる衝動を抑える。


「……私、大人しく戻るね」


咄嗟だった。

また手を握ってしまった。

まるで行かないでと言うかのように。


「戻れって言った癖に」


「…………」


自分でも矛盾してる事は理解してる。

けれどどうしても行って欲しくなくて………もしかしたら、彼女を───ノエルを、永遠に(うしな)ってしまうかもしれないから。


そんな事は絶対にさせないと誓ってるけれど……どうしようもなくそれが怖くて。


「………また、明日な。

会いに行くから」


ゆっくりと手を離す。


「……約束だよ?」


「あぁ」

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