嫌いになりきれない
もう使わなくなるであろう小屋の中を整理していた。
必要なものと不要な物に分け、不要な物は小屋に置いていくか焼却処分しようと考えている。
恐らく、ここを使う者は二度と現れないであろうが……。
「アオト………」
扉の外に彼女が立っていた。
うっかり鍵を閉め忘れていた、なんて──
「ね、ねぇ……アオト?
返事してよ………ねぇ………………」
「……………」
あとしないといけないことは、亜人の村へ念の為に報告しに行くこと。
外部に漏れてはいけない情報源を集め、不要な物は処分する。
それぐらいだろうか。
「…………もしかして、昨日のこと……怒ってる?」
淡々と片づけを進めていく。
「………ごめんなさい。
頭が混乱してて………でも、もっと早く言って欲しかった。
それは、本心」
「…………」
「もっと……早く言ってくれれば、親にもちゃんと説明してそのための準備もしておいて……………一緒に──」
一緒に、なんて。
不可能に限りなく近いのに。
「……………。
今日は、もう……帰るね。
また、明日」
彼女は次の日も訪れた。
その次の日も、またその次の日も。
俺は一度も言葉を交わすことなく、あっという間に国を出る1日前になっていた。
俺が焼却処分を終え、小屋に戻ろうとした時。
大勢の人が俺の目の前にいた。
それは、彼女の村の人たち全員だった。
全員、顔を覚えている。
あの時助けた、とかそういうのも全部。
そこには村長の姿も、彼女の姿もあった。
「な、何の用で──」
ふと、おばあさんが口を開いた。
「あなたが亜人であること、前から気づいていましたよ」
「───っ」
「だから、最後だけでもフードを外してちゃんと顔を見せてちょうだい?」
「……………」
外に出る時はいつもフードを被っていた。
それはもちろん今も。
軽く息を吐くと、ゆっくりとフードを外した。
「ワタシたち、あなたにたくさん助けられたわ。
小さいことから大きなことまで。
ちょっと不器用だけれど、あなたの優しさはちゃんと届いていたわ」
「お兄ちゃん、あの時は助けてくれてありがとう!」
「僕からもありがとうございます。
お兄ちゃんのおかげで妹はこうして生きているんですから」
「母である私からも」
村の人全員が俺の目を見ていた。
その目は蔑むものではなく、対等な存在として俺を見てくれている。
人間、なのに……俺は本当に……この人たちのために行動できて───
「我々の村を守っていただき、本当にありがとうございました」
「───っ」
村長が、彼女が、村の人全員が数秒間頭を下げた。
「………………」
少し黙った後、思っていることを拙くではあるが伝えようとする。
「ほ、本当に……役に立てたのなら…………嬉しいです。
誰かの役に……立てたのなら。
こちらこそ、お世話になりました」
同じく数秒間頭を下げた。
──だからこそ、本当の意味で人間のことを嫌いになりきれない。
村の人たちが去り、彼女だけが残った。
「…………」
「ねぇ………いい加減喋ってよ」
彼女とは目を逸らしたまま、口を開いた。
「………どうせ別れるんだから、話したって……辛くなるだけ、だろ」
「私別れる気は──」
「もうこれ以上!お前を巻き込みたくないんだよ……!
いい加減そっちこそ分かれよ!!いつもいつもわがまま言って勝手についてきて………」
「………アオト」
縋り付くような声。
「頼むから、黙って去ってくれ」
「…………でも!」
「いいから!!」
「───っ」
彼女ははっと驚いた後、悲しそうに俯きこの場を去っていく。
「………………」
その背中を最後まで見送ることなく小屋の中に入った。




