儀式
髪をお団子に結び、和風な儀式用の服に着替える。
刀を装備して、部屋を出た。
「準備できたぞ」
「わぁ、なんだかいつもと違う感じに見える。
……綺麗って言葉が似合うなぁ」
「……あんまり褒められるの好きじゃないんだけどな」
「嫌……だった?」
「……いいや」
俺はそう言って首を横に振る。
基本見た目を褒められると嫌悪感を抱くのだが、不思議とノエルに褒められてもそんな気持ちにはならなかった。
こんなの初めてだ。ノエルと出会ってから、初めての感情や経験ばかり……。
いいや……今から大事な儀式をするんだから集中しなきゃ、と思考を切り替えるようにノエルに話しかけた。
「ほら、行くぞ」
「え……う、うん」
元気が無いノエルを連れ、森がある方へ歩く。
奥へ進んでいくと小さな洞窟が現れた。
「………」
「何立ち止まってるんだよ」
「……………なんでもない。行こう」
ノエルは何かを言おうとしてやめ、俺はあえて声をかけずに中へ進んだ。
「──なんだかすごい所だね」
「そうか?」
洞窟の一番奥、小さな祠があるだけの空間。
「ね、ねぇ……私、ここについて来てよかったのかな……」
「らしくねぇな。一昨日の事、まだ引きずってるんだろ?
見てる分には問題ねぇから、そこで大人しく待ってろ」
俺は祠の前に立つと一礼した。
「我、汝に水無月護ることを誓わん。
雨が滴り地が潤い、人々の心が揺蕩う季節。
この身が例え魂諸共溶融したとて、全ての人々を愛し護りゆく覚悟はとうの昔に捧げたもの。
代々受け継がれしこの意志を継承し、今此処に新たなる意志を証明せん」
月──雛菊に入りたての頃頑張って覚えた文を読み上げると、鞘に収めたままの刀を両手で持ち、前に差し出す。
すると足元に魔法陣が現れ紫色に輝いた。
無事認められたことに安心しつつ、差し出した手を戻し、また一礼するとノエルの方へ歩いていく。
「案外簡単なものだろ?」
「途中言ってたあの難しい文章……覚えるの大変そう」
「あれは確かに苦労したな」
「ふふ……」
力無くだが微笑むノエル。
小屋に戻る途中、儀式について質問してきた。
どうやったら認めてもらえるのか、その資格は何なのか。
「あ、もちろん無理して答えなくても──」
「スカウトされた時、適正があるかも分からないのに雛菊のリーダー……リツは俺が認められるって自信満々だった。
あいつの言う通り俺に適正があり『六月』に認められ、この組織に正式に入る事になった。
さっき言った難しい文章、もとい誓いの言葉。あれを言う時は集中して、言葉は淡々と言いながら心は感情を込めなくちゃいけない」
「それって矛盾、してない?」
「だよな。俺もそう思う。
……読み上げてる時、本当に俺は感情を込められてるのかって不安になるんだ。
あの言葉通りなら、俺は……この身が溶けても人々を愛し、護らなくちゃならねぇ。
でも俺にそんな感情なんて……ある、はずねぇ。有り得ない。
なのに俺は認められた。それが今でも分からねぇ疑問だ」
「そう、かな。私はあると思うよ」
「……お前は俺のこと、そう見えてるんだな」
「見えてるっていうより実際そうだと思って言ったんだけどなぁ」
無言で森を歩く。
相変わらずノエルは元気が無いままで。
「……俺は、ノエルの信念すごく綺麗で羨ましいって………。
だから、たった10分ぐらい会っただけの奴の言葉なんて気にすんな」
「………」
驚いた様子で立ち止まるノエル。
「ど、どうしたんだよ……」
「アオトがそんな風に言ってくれるなんて思ってなかったから……ちょっと、びっくりしちゃって」
「……っ、悪いかよ」
「そんなことない。……嬉しいなって」
「そ、そうか……」
* * *
数日間何事も無く過ぎていく。
そう、何も起きてなどいない。
幻獣の調査みたいな事も無く、前みたいに見回りして報告書を書くだけの日々。
それなのに心はどこか落ち着かないでいた。
気がつけばノエルの事を考えている自分がいるのだ。村と小屋までの距離はそこまでないが無事に帰れてるかなとか、今頃何してるとか自然とそういうことが頭に浮かぶのだ。
分からない。ノエルのこと、別になんとも思ってないはず、なのに………。
「あぁ……!全然集中できねぇ……」
いったいどうしてしまったというのか。
こんな自分に呆れてしまう。
前までは……ノエルに会うまではこんな気持ちやこんな事、一度も無かったというのに。
「やっぱり原因はあいつか……」
小さくそう呟くと、報告書の続きを書き始めた。
* * *
幻獣の事が落ち着いて、また前のような日常が戻ってきた。
フェニックスと契約したものの、特に変わった様子も無い。
アオトの仕事を手伝って、隣に立てる。
こうなる前は学校に行って将来の事について考える日々だった。
親の仕事を継ぐ人、夢を叶えるために行動し始める人。
結婚する人。
周りのみんなはもう決まっているようで、私は焦りを感じていた。
将来どうするか迷っている時、アオトが迷わず子どもを助ける所を目にしてはっとした。
アオトの仕事に憧れを抱いていた気持ちと同じくらい、私にできるわけないって思っていた。
誰かを守るなんて強い人ができることで、弱い私なんて……ましてや戦ったことも無い私がって、自分に自信が無かった。
だからこそ、私とは正反対の彼に憧れた。
けど彼のあの姿を見て、できないって決めつけてる自分も、自信の無い弱い自分も変えたいって私に勇気を与えてくれた。
女の子を助けるために駆け出し、フードから一瞬だけ見えた彼の真剣な瞳。
あれは優しくて強い人にしかできない瞳だって、確信した。
私も、ああなりたいって。
憧れの人……だからかアオトの事が気になって仕方なかった。
アオトは今何してるのかな、とかこういうのアオトは好きかなって。
だけど、これは憧れ……とは違うような。自分でも何なのか分からなくてモヤモヤして、苦しいようで……そうじゃなくて。
──そんなモヤモヤを抱えながら2週間が過ぎた頃。
コンコンとノックされた音が部屋に響いた。
同じような事が前にもあったような……と考えていると、突然アオトが立ち上がり私の左腕を掴んだ。
「……こっち来い」
「え──」
ほとんど言葉にならないような声が出て、気づいた時には左腕を引っ張られ、入るなと言われていたアオトの部屋に連れられていた。
「なるべく気配を消して、静かにいるんだ。分かったな?」
「また、あの人……なの?」
「……いいや。
早く出ないと怪しまれるから、言った通りにここにいろよ」
それだけ言うと彼は部屋から出ていってしまった。
どこか嫌な予感がしつつも、私は部屋で待つことしかできない。




