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青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
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儀式

髪をお団子に結び、和風な儀式用の服に着替える。

刀を装備して、部屋を出た。


「準備できたぞ」


「わぁ、なんだかいつもと違う感じに見える。

……綺麗って言葉が似合うなぁ」


「……あんまり褒められるの好きじゃないんだけどな」


「嫌……だった?」


「……いいや」


俺はそう言って首を横に振る。

基本見た目を褒められると嫌悪感を抱くのだが、不思議とノエルに褒められてもそんな気持ちにはならなかった。

こんなの初めてだ。ノエルと出会ってから、初めての感情や経験ばかり……。

いいや……今から大事な儀式をするんだから集中しなきゃ、と思考を切り替えるようにノエルに話しかけた。


「ほら、行くぞ」


「え……う、うん」


元気が無いノエルを連れ、森がある方へ歩く。

奥へ進んでいくと小さな洞窟が現れた。


「………」


「何立ち止まってるんだよ」


「……………なんでもない。行こう」


ノエルは何かを言おうとしてやめ、俺はあえて声をかけずに中へ進んだ。



「──なんだかすごい所だね」


「そうか?」


洞窟の一番奥、小さな祠があるだけの空間。


「ね、ねぇ……私、ここについて来てよかったのかな……」


「らしくねぇな。一昨日の事、まだ引きずってるんだろ?

見てる分には問題ねぇから、そこで大人しく待ってろ」


俺は祠の前に立つと一礼した。


「我、汝に水無月護ることを誓わん。

雨が滴り地が潤い、人々の心が揺蕩う季節。

この身が例え魂諸共溶融(ようゆう)したとて、全ての人々を愛し護りゆく覚悟はとうの昔に捧げたもの。

代々受け継がれしこの意志を継承し、今此処に新たなる意志を証明せん」


月──雛菊に入りたての頃頑張って覚えた文を読み上げると、鞘に収めたままの刀を両手で持ち、前に差し出す。

すると足元に魔法陣が現れ紫色に輝いた。

無事認められたことに安心しつつ、差し出した手を戻し、また一礼するとノエルの方へ歩いていく。


「案外簡単なものだろ?」


「途中言ってたあの難しい文章……覚えるの大変そう」


「あれは確かに苦労したな」


「ふふ……」


力無くだが微笑むノエル。

小屋に戻る途中、儀式について質問してきた。

どうやったら認めてもらえるのか、その資格は何なのか。


「あ、もちろん無理して答えなくても──」


「スカウトされた時、適正があるかも分からないのに雛菊のリーダー……リツは俺が認められるって自信満々だった。

あいつの言う通り俺に適正があり『六月』に認められ、この組織に正式に入る事になった。

さっき言った難しい文章、もとい誓いの言葉。あれを言う時は集中して、言葉は淡々と言いながら心は感情を込めなくちゃいけない」


「それって矛盾、してない?」


「だよな。俺もそう思う。

……読み上げてる時、本当に俺は感情を込められてるのかって不安になるんだ。

あの言葉通りなら、俺は……この身が溶けても人々を愛し、護らなくちゃならねぇ。

でも俺にそんな感情なんて……ある、はずねぇ。有り得ない。

なのに俺は認められた。それが今でも分からねぇ疑問だ」


「そう、かな。私はあると思うよ」


「……お前は俺のこと、そう見えてるんだな」


「見えてるっていうより実際そうだと思って言ったんだけどなぁ」


無言で森を歩く。

相変わらずノエルは元気が無いままで。


「……俺は、ノエルの信念すごく綺麗で羨ましいって………。

だから、たった10分ぐらい会っただけの奴の言葉なんて気にすんな」


「………」


驚いた様子で立ち止まるノエル。


「ど、どうしたんだよ……」


「アオトがそんな風に言ってくれるなんて思ってなかったから……ちょっと、びっくりしちゃって」


「……っ、悪いかよ」


「そんなことない。……嬉しいなって」


「そ、そうか……」


* * *


数日間何事も無く過ぎていく。

そう、何も起きてなどいない。

幻獣の調査みたいな事も無く、前みたいに見回りして報告書を書くだけの日々。

それなのに心はどこか落ち着かないでいた。

気がつけばノエルの事を考えている自分がいるのだ。村と小屋までの距離はそこまでないが無事に帰れてるかなとか、今頃何してるとか自然とそういうことが頭に浮かぶのだ。

分からない。ノエルのこと、別になんとも思ってないはず、なのに………。


「あぁ……!全然集中できねぇ……」


いったいどうしてしまったというのか。

こんな自分に呆れてしまう。

前までは……ノエルに会うまではこんな気持ちやこんな事、一度も無かったというのに。


「やっぱり原因はあいつか……」


小さくそう呟くと、報告書の続きを書き始めた。


* * *


幻獣の事が落ち着いて、また前のような日常が戻ってきた。

フェニックスと契約したものの、特に変わった様子も無い。

アオトの仕事を手伝って、隣に立てる。

こうなる前は学校に行って将来の事について考える日々だった。

親の仕事を継ぐ人、夢を叶えるために行動し始める人。

結婚する人。

周りのみんなはもう決まっているようで、私は焦りを感じていた。


将来どうするか迷っている時、アオトが迷わず子どもを助ける所を目にしてはっとした。

アオトの仕事に憧れを抱いていた気持ちと同じくらい、私にできるわけないって思っていた。

誰かを守るなんて強い人ができることで、弱い私なんて……ましてや戦ったことも無い私がって、自分に自信が無かった。

だからこそ、私とは正反対の彼に憧れた。

けど彼のあの姿を見て、できないって決めつけてる自分も、自信の無い弱い自分も変えたいって私に勇気を与えてくれた。


女の子を助けるために駆け出し、フードから一瞬だけ見えた彼の真剣な()


あれは優しくて強い人にしかできない瞳だって、確信した。

私も、ああなりたいって。


憧れの人……だからかアオトの事が気になって仕方なかった。

アオトは今何してるのかな、とかこういうのアオトは好きかなって。

だけど、これは憧れ……とは違うような。自分でも何なのか分からなくてモヤモヤして、苦しいようで……そうじゃなくて。


──そんなモヤモヤを抱えながら2週間が過ぎた頃。


コンコンとノックされた音が部屋に響いた。

同じような事が前にもあったような……と考えていると、突然アオトが立ち上がり私の左腕を掴んだ。


「……こっち来い」


「え──」


ほとんど言葉にならないような声が出て、気づいた時には左腕を引っ張られ、入るなと言われていたアオトの部屋に連れられていた。


「なるべく気配を消して、静かにいるんだ。分かったな?」


「また、あの人……なの?」


「……いいや。

早く出ないと怪しまれるから、言った通りにここにいろよ」


それだけ言うと彼は部屋から出ていってしまった。

どこか嫌な予感がしつつも、私は部屋で待つことしかできない。

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