女騎士ヌィアール
大変お待たせしました。
バイトやら学校のあれやこれやでわちゃわちゃしてたので遅くなりました。
すんません。
前回までのお話。
家の前でタコが死んでた。
突然生き返って暴れ出したので、クロエに、この世界では警察的な役割である騎士を呼びに行ってもらう事になったのだが。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「だいぶ落ち着いてきたね……」
荒い息を上げながら、額の汗を拭くウィニス。
「うん……。
これなら騎士にも安全に預けられるよ……」
クロエが店を離れてどれくらい経っただろう。
あれからこのタコ人間は『ここから出せ』『ブッ◯してやる!』だの恐ろしい言葉の雨を浴びせながら暴れていたが、やがて暴れたところでどうにもならないことを理解したのか、諦めてあぐらをかいていた。
それにしても本当にこの結界はびっくりするほど強固だ。
魔力の使い方一つで、ここまで頑丈な結界を張れるとは思わなかっただけに、試して正解だったかもしれない。
というのも、普通の結界だと魔力を圧縮させて均一にした強固な壁──イメージ的には分厚いガラスの壁みたいなものか──で封じる。
この場合の強度は、例えば彼が本気で何度もタックルをするなり、或いは銃でも発砲すれば軽く突破されてしまうだろう。
しかしこの籠の目編みという方法で構築した結界は、それを遥かに上回る──実際、彼は何度も銃で発砲してきたが、それを防いでくれた──防御性能を見せた。
こうなってくると、この結界が街を魔物たちから守るために使われているという使用例にも納得がいくというものだ。
もっとも、そこまでの耐久性が無いなら、なぜそれが採用されているのか疑問視する必要もあったが。
個人的には、もう少しこの結界の性能を調べてさらに性能を改良したいけど……それはまた今度にしよう。
そんなことを考えていると、不意に部屋の扉を開けて入ってくる人がいた。
「ますたーただいまーっ!」
扉を開けるなり、真っ先にこちらに帰ってきたのは、言うべくもなくクロエだった。
「おかえりクロエ!
ちゃんと連れて来てくれたんだね、ありがとう」
「えへへ」
長い黒髪を撫でながら、照れた様に笑うオートマトンの少女をギュッと抱きしめる。
あぁ、かわいい。
めっちゃかわいい。
癒される。
頑張ってこの娘を作った甲斐があったよ、マジで。
「貴女、とってもエレガントね」
そうやって抱きしめていると、背後からそんな女声が聞こえてきた。
クロエを抱きつつも、首だけを回して背後を見てみれば、そこにはどこかで見た覚えのあるお姉さんと、知らない女の人が二人、部屋に入ってきたところだった。
短めの茶髪、優しそうな垂れ目、大きなおっぱい……。
上から順に眺めていれば、当然その特徴的な巨乳に視線が釘付けになる。
この形のおっぱいは、どこかで見たことがある。
というか、俺自身、この世界で生きてきてここまでのモノを見ることはそうそうなかった。
マリアのだって慎ましやかな方だったし──。
そこまで思い出して、ふと記憶が蘇る。
そう、このおっぱいは、つい最近間近で揺れるところを見たことがあるモノだったのだ!
「……あ、駅の!」
胸を見て思い出したことを目敏く見抜かれたのか、そばに立っていた上品そうな黒髪の少女が、チッと舌打ちをするのが聞こえた。
「……貴女、やっぱりエレガントじゃないわね」
そっぽを向きながら呟く少女に、巨乳のお姉さん──フラッペンが、あはは、と苦笑いを浮かべる。
どうやら胸のサイズを気にしているらしい。
……材料が揃って、あとはサイズさえわかればパッド作れるかな。
……そしてあわよくばあの女の子のパイ乙を拝見──
そんな様子の少女を見てから、思いついた構想とその先の妄想が顔に出ていたのだろう。
黒髪の少女は目敏くこちらに反応すると、キッ、とその鋭い紅の瞳でこちらを睨む仕草をして見せた。
瞬間、背中に何かゾクッと走るものがあった。
それが何か、今まで味わったことのない快感の様なものに感じたのか、お腹の奥の方が少しだけキュッと熱くなるような感覚を覚える。
……まさか、俺にこんな趣味があったとは。
いや、もしかしたら彼女だからこそなのかもしれない。
是非お近づきになりたいものだ。
「それで──」
油断して緩みかけていた結界を張り直して、軽装鎧のようなものの上から黒っぽいロングコートを着た、背の高い金髪の女騎士風の女性の方に目を向ける。
「えっと、貴女が騎士の人?」
怜悧そうな人に見えた。
鋭い剣と、重そうな装甲、重厚な盾を思わせる、毅然とした出で立ち。
綺麗な様相の中に鋭い鉄の剣のようなキレのようなものを持つ、そんな雰囲気があった。
身につけているのは胸当てと手甲だけなのに。
(ちなみに手甲はベルスリーブになったロングコートの裾から垣間見える程度。前腕だけを覆うフリューテッドガントレットだ)
「ヌィアール・ヌーヴォーだ。
手が空いていたのが私だけだったのでな」
「いえ。
取り敢えず協力を仰ぎたかったので、騎士の方なら一人でも十分です」
初めて話す相手に若干緊張しつつも、淑女の仮面を被って応答する。
本来、日常の風景であれば、俺もかなり黙ったりしていたかもしれない。
しかし、隣に狂気的な存在が──そう、文字通り狂気的な存在がいたので、なんとかその分冷静に対応することができたのである。
あとは、自分のペースさえ崩されなければ問題は無いだろう。
そう考えて、用意していた文句を話し出そうとした──のだが。
「k──」
「この結界を見れば、だいたい事情は察する。
彼は強盗か何かか?」
「うぇっ!?
あっ、いえ、ちがっ、違うのえっとぁの──!」
しかし、呼吸を整え、いざ事情を話そうとした瞬間、ヌィアールと名乗った女騎士が、そんなふうに指摘してきたものだから、一瞬で頭の中が真っ白に吹き飛んだ。
だって、その質問に対する答えを用意してなかったから。
「すみません、そうじゃ無いんです」
と、オロオロとし始めた俺に、なんとか助け舟を出そうと、ウィニスさんが代わりに口を開いた。
「む?ならばどうして彼は捕まっているのだ?」
「それはですね、かくかくしかじか」
事前に俺から聞いていた話を、簡易的にヌィアールへと伝えるウィニス。
ウィニスさん、マジかっこいい。
頼りになるぜ、マジで。
「……おい、待てよ」
と、そんな時だった。
彼が事情説明をするのを横で聞いていたタコ人間が、彼の話に待ったを挟む。
「それじゃあ何か?
お前らはあのクソ女とはなんの関係もないって事なのか?
それを俺は、ただ勘違いして──?」
話を聞いていてだんだんと恥ずかしくなってきたのか、元から赤い顔を更に赤くして頭を抱えてうめき出した。
「だから、最初からそう言ってたじゃないか」
ウィニスのトドメの一撃が効いたのか、タコ人間は盛大にため息をついて、こちらに視線を遣した。
「おいチビ」
「……あ、はい!」
呼ばれて、しばらく誰のことかわからなかった。
頭の中が真っ白で、思考が停止していたのだから仕方ない。
ようやく思い出したように返事をすると、彼は指を結界に突きつけて続けた。
「はいじゃねぇ。
もう暴れねぇから、この結界さっさと解け」
言われて、気がつく。
この結界は、暴れられると困るからという理由で張っていたものだ。
のら、もう暴れる必要がなくなったのであれば、これを解いてしまっても全く問題はなくなる。
俺は言われた通りに結界を維持するのに使っていた魔力を解いた。
さっきまでガラスのように粘性の高い液体のように構築されていた魔力が、やがて思い出したかのようにその粘性を失っていき、さらさらと流れる水や風の様に雲散霧消する。
「ふぅ。
これでやっと帰れる」
詰まっていた息を吐き出し、凝っていた筋肉を剥がす様に立ち上がる。
顔を構成していたタコの触手の様なところからなにやら粘液の様なものが数滴落ちるのを見て、ウィニスが『うぇ』と顔を顰める。
しかし、そんな彼をまだ帰すわけにはいかなかった。
というのもヌィアール・ヌーヴォーというこの金髪の人は騎士だ。
騎士というのはこの世界に於いて、街の治安を維持する、所謂警察的な組織である。
であるからして、なぜ彼が俺の家の前で血の池に突っ伏す羽目になったのか、その真相を知る義務があった。
そして一方で俺自身も、なぜこんなことに巻き込まれる羽目になったのか、知る権利があったのだ。
なので、さっそくそこの扉から店を抜けて帰ろうとする男を、ヌィアールは引き止めざるを得なかった。
「待ちたまえ。
君には、いくつか質問しなければならないことがある。
帰宅の前に署によってもらわねぼならん。
……そこのお嬢さんと店主殿も、共に来てくれるかね?
事情聴取をとらねばならないのでね」
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