4話 世界地図
――オーパーツ。
またの名をデタラメな工芸品。
その時代と似つかわしくないそれは、果たして何時のモノなのだろうか?
まこと、世界とは秘密の塊である。
闇は冷たく、身体の芯まで冷却する。
その度に、白い吐息が漏れた。
「――師匠、寒いです」
「奇遇だな?イツカ。私もそうだ」
「早く、このダンジョンを攻略しましょう」
このダンジョンは――もっと言えば、この施設は、何らかの研究所だったみたいだ。
『え?どうして分かったのか?』というと、英語の資料が何枚か散逸していたからである。
資料によると、どうやら、この施設は何らかの――『人体実験』を行っていた施設ということになる。
「師匠。また資料ですよ」
全く、これだけ読むとなると、頭が痛くなるね。
ただでさえ、英語力は皆無に等しいのに、何を言っているか、さっぱり分からない。
「また、“えいご”とやらか。
イツカ、構わん。
総て回収してベースキャンプに戻るぞ。
その後に資料はまとめるとしよう」
「かしこまりました」
とは言いつつも、僕たちは諦めていなかった。
ここが人体実験を施された施設であるのならば、この施設の何処かに必ず研究データやその痕跡が残されているはずだ。
間違いなく、何かある。
この資料の多さからも、それが伺える。
「――師匠?コンセントは見つかりましたか?」
「こう、二つの穴が空いていて、差し込める奴だろ?」
「そうです。もっともこの施設に電源が残されているとは想えませんが……」
「あぁ……、それなら――これか?」
「えぇ、そうそう――ッて、ええ!?」
紛うことなき――コンセントがそこにあった。
「あるなら、早く言ってくださいよ!」
「いやぁ……、貴様が熱心にその資料とやらと睨めっこしていたからな。
話しかけづらかった」
そりゃ、僕に落ち度があるけどさ!
そういう肝心なことは、早く言うべきじゃないかな!?
僕は込み上げる悲しみを何とか飲み込んだ。
「師匠。ちょっと退いてくださいね」
「う、うむ」
僕は差し込みプラグをコンセントにぶっ差すと、携帯端末にもう一度電源を入れてみた。
あらまぁ、何と不思議!
電源が点いたじゃ、ありませんか!
どうやら、まだ電源は残されていたらしい。
こんな奇跡が一体、どこにあるのだろうか?
「師匠!やりました!やりましたよ!」
「何だと!?やったのか!」
僕と彼女は嬉しそうに手を繋ぐと、その場でランランランルー。
……やったぜ。
僕たちはWelcomeと表示された文字を横目に踊り続けた。
「――って!私たちは何をやっているのだ!?」
「ダンスですよ!喜びの舞ですよ!」
「何だか、アホらしくなってきた……」
「もう、つれないですね。」
彼女の頬は自然と蒸気が上がっていた。
「――それよりも、こんなことをしている場合じゃないですよ!」
「確か地図だったな?」
「そうです!この施設内もそうですが、世界地図――。」
確かに、それは世界地図であった。
しかし、現在の世界地図と照らし合わせてみると、かなり大陸が歪んでいた。
僕が住む日本は未だ健在だったはずだ。
けど、可笑しいな?
日本がどこにも存在しない。
「――あり?おかしいな?」
「おかしい?」
「ええ、確かにこれは世界地図です。
でも、僕が知っている大陸よりも遥かに歪んでしまっているようです」
「――つまり?」
「この世界地図は――偽物か、この惑星の地図ではありません。
でなければ、僕の知識と些か相違が生じます」
彼女が息を呑む。
それは、世界の秘密の一端に触れられた罵倒か、それとも感嘆か?
まぁ、どれでもよい。
ただ、何かを考えていることだけは分かったつもりだ。
「――イツカ?」
「何です?」
「なぁ、元々『この惑星の形がそうではない』のか?」
僕は分からなくなった。
彼女が言っている意味が、てんで理解できなかったからである。
「これは、旧文明の地図ではなく、現在の世界地図だと言っているのだ」
「――現在?」
「そうだ。このオーパーツは旧文明を表示する地図ではない。
私たち新文明の地図だ」
その話しが本当なら、僕は一体、どこ来たの?
遥か遠くの日本から訪れたのではないのか?
ますます、僕は分からなくなった。
「仮定にそうだとしましょう?
ですが、人工衛星のない現在に、果たして高密度な地図を表示することが可能でしょうか?
僕は不可能だと思います」
「では、どうして?このダンジョン内の地図も表示されているのだ?
そもそも問題、じんこうえいせいとは何だ?」
「人工衛星とは、空に浮かぶ人工の天体です。
この携帯端末はその情報を元に僕らの位置情報を教えてくれているのです」
「なるほど、分からん」
オオ……、ジーザス。
まぁ、いいや。
「とにかく、人工衛星がこの新文明にあるとは思えません」
「だが、動いているのであろう?」
そうなんだよなぁ。
そこが問題なんだよなぁ。
まさか、旧文明の遺産が未だ、宇宙へと浮いているのか?
「そうなのですよ。
動いていること自体が問題なのですよ」
「私は貴様の言っている意味がてんで理解できない」
「僕も分からなくなってきましたよ」
僕と彼女は顔を見合わせると、互いに微笑んだ。
幾ら知識を披露したとしても無駄だ。
行動しなければ、仮設は立証されない。
であるとすれば、僕たちに残された選択肢は……。
「――イツカ!行動あるのみだ」
「ですよねぇ~」
「まず、このダンジョン内の地図を把握する。
だから、私に教えてくれ!
絶対に秘密の通路があるはずだ」
「かしこまりました!」
僕は地図を拡大させると、施設内を詳しく調べ直した。
すると、そのダンジョンの地下らしき場所に歪な空間があることが見受けられた。
「師匠~、この謎空間は何だと思います?」
「確かに歪だな」
「僕はここに隠し通路、遺産があると思います」
すると、彼女はニコッ――。
口角を持ち上げた。
「――私もそう想っていた所だ」
僕と彼女は互いに目視すると頷き合った。
この先にこそ、僕たちの望むモノが存在する。
そんな気がしていた。
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