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35話 帰還

今回は何も進展しませんでした!




 リシュルさんは僕を親の仇のような眼差しで見つめた。

 それだけで、彼女の雰囲気が一変する。


 どうやら、リシュルという謎の幼女。

 その気配からも感じ取れる。

 ただ者ではないらしい。

 いや、S.I.O.に所属している時点で僕の憶測は最初から外れか。


 僕はリシュルさんの緋の師玉を静かに見つめ返した。


「――階級は桜ちゃんや綾乃ちゃん、佐々木さんと同じ警視なんだから!」


 そんなリシュルさんに対して、僕はあっけらかんとした態度をとる。


「あっそ」


「何か反応が私だけ薄くない!?」


「だって――合法ロリでしょう?合法ロリに掛ける言葉は見当たりませんよ?」


 補足だが、合法ロリとは年齢にそぐわない外見や声色を持った人物を指し示す。

 まこと、彼女こそが、この合法ロリという言葉に当て嵌まっているではないか、と想った次第である。


 これは、大層驚きだ。

 まさか、合法ロリがこの現実世界に存在しているとは……。

 しかも、アルビノという特異体質。

 これ以上に掛ける言葉は不要だろう。


「だ、誰が!合法ロリだよ!?」


 彼女は惜しみなく叫んだ。

 僕はそんな恥ずかしがる彼女に恍惚こうこつ感を覚えた。


 これはよい。

 まるで、透き通るようで儚いような、とにかく、イジリ甲斐がある。


 僕は新しい玩具でも見つけたかのように頬の糸筋を釣り上げた。


「うー!イツカ君から、ただならぬ悪意を感じる!」


「おっと、心情が駄々漏れでしたか」


「君!ぜったい!性格悪いでしょう!」


「百歩譲って性格が悪いことは認めましょう。だがね?君にそこまでとがめられる必要はないのだよ?」


 リシュルさんはまたもや顔を「むぅー!」と風船のように膨らませた。


「――イツカ!もう止めてやれ!腹がよじれて痛いッ!」


 佐々木さんは喜劇でも観ているかのように腹を抱え出した。

 桜さんも綾乃さんも堪えきれないと言った具合にお腹を抱えている。


 なぜか、彼ら彼女らのツボに嵌ってしまったらしい。

 まったく……、どこに笑いの落としどころがあったのか、僕には理解ができないよ。


「うー!うー!私はオカシクないよ!」


「オカシイでしょう……。どうして成長が止まっているんですか?」


「そ、それは遺伝子的な問題だよ!」


「はぇ~遺伝子の問題ですか?それは深刻ですね?」


「そうなんだよ!私も好き好んでこんな身体になった覚えはないんだよ!」


 リシュルさんは「ゼェッ……、ハァッ……」と両肩で息をしていた。

 僕は堪忍したかのように、瞳をつむった。


「はい、はい。分かりましたから……、とりあえず落ち着きましょう?ね?」


「ヒートアップさせたのは誰のせいかな!?」


「はて、何のことでしょうか?僕は知りませんよ?」


「うー!やっぱり、イツカ君は性格が悪い!」


 リシュルさんの顔はタコのように茹で上がっていた。

 どうやら、彼女をまた怒らせてしまったらしい。


「反対に訊きますが、性格の悪い人間なんてゴミのようにいますよ?むしろ善人の方が統計学的には少ないのでは?」


「そ、そう言われると――」


「人は獣性という性悪を秘めています。性善説なんぞ信じている方がどうかしている。

 僕たちは暴力的な衝動の粒子を生まれつき持っている。だから、やたらに事件が起きるのでしょう?

 今回もそうです。人の獣性の衝動に任せて殺人事件は起きた。違いますか?」


「――イ、イツカ君はやはり性格が悪いよ!」


「僕はこれが普通だと想いますけど?何か?」


 以降、リシュルさんはシュンッ。と押し黙ってしまった。

 言い過ぎてしまったらしい。

 ここは彼女に素直に謝ることにしよう。


「リシュルさん?僕は否を認めるつもりはありませんが、イジって申し訳ありませんでした」


「それって、謝っているのかな!?」


「僕の精一杯の誠意です」


「うー!うー!」とリシュルさんは唸っていた。

 そんなリシュルさんを差し置いて、僕は焼けた天空へと視線を戻した。


 焼けた天空は咲いた雛罌粟ひなげしのように美しかった。

 近くの丘から顔を覗かせる太陽はまるでダイダラボッチのようである。

 そんな情景に僕は秘かに恋をしていた。


「どうしたの?イツカ君?」


 桜さんが僕の顔を隣から覗いた。


「いや、陽が昇る光景も案外悪くないなと想いまして……」


「そっか。現在いまじゃ、あまり太陽が昇る瞬間なんて余り見ないもんね?」


「だからでしょうか?この情景が悪夢の終焉しゅうえんを示唆しているように想えてならないのですよ?」


「悪夢ね?案外、正鵠せいこくを得た言葉を使うじゃない?」


 綾乃さんの美麗な髪に陽が降り注ぐ。

 それだけで、彼女の唐紅からくれないの髪は発光していた。


 僕は話題を転換するようにパチンッ。と手を叩いた。


「さて!皆さん!帰りませんか?お互い仕事でしょうし、僕は今日も学校です」


「あ!そっか!イツカ君はまだ、学生さんなんだ」


 桜さんが最もらしい発言する。




 ――そうだ。




 僕は対魔官という職業に着任した覚えはない。

 学生という本分を忘れるつもりも毛頭ない。


「学生にしては、本当に人間を止めているよな?イツカは……」


「佐々木さん?僕は人間を止めても、捨てたつもりはありませんよ?」


 どこの吸血鬼かな?

 俺は人間を止めるぞー!


「捨てるも何も、あんた本当に人間なの?」


「綾乃さん?見た目からして理解できませんか?」


「あら?私はてっきり、どこぞの奇妙な冒険のように仮面を被った人間だと想っていたけど……?」


「堪忍してくださいよ……」


 どうやら、僕の受難は未だ続きそうだ。




お読み頂きありがとうございます!


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