19話 ギルド
ほう……?
お前、どうやら?クエストを熟したようだな?
俺はギルド長の一人。そんなことは、目をみれば分かるものなのさ。
だが、よかったよ。これでお前も、本当にギルドの仲間。
……同士だ。
僕たちは冬曇のような市場の中ぶらり。と彷徨っていた。
探し物は――何ですか?
はい、食材です。
「――オートミールにバター、ライスにチョコレート。あとはナッツか……」
ここは最北端の町――バレンツ。
そんな冒険の際、必要になるのは、軽くて高カロリーな食材だ。
故に、持ち運びしやすい食材を僕たちは求めていた。
いつ、また、どこかで、極寒の地へと足を踏み入れるとは限らない。
まぁ、メーティスの回復次第では、今すぐ王都に向けて、出発しても良いのだが……。
「――また、オートミールか……」
彼女こと――アイリスは拗ねたように唇を尖らせた。
「そんな文句を垂れないでください。僕も気が滅入ります」
「だがな?流石に飽きがくるぞ?余り、美味しくないし……」
「駄々をこねる子供に、与える食事はありませんよ?」
「だって――」
僕は彼女の頬をモキュッ。と摘んだ。
「にゃ、にゃにをしゅる!?いふか!?」
「あのね?この際だから、はっきりと言いますけど……。
誰のおかげで、まともな冒険者稼業をやりくりできていると想っているんですか?」
「しょ、しょれは……」
「――あんた独りだと絶対に死んでいましたよ?それにあんたは杜撰だから、冒険の準備も適当に熟していただろうし、何よりも危機管理能力が無さ過ぎる……!
あてずっぽうの冒険ではこの先、世界の秘密は疎か、その先に辿り着くことさえできませんよ?」
僕は摘んだ手を離した。
彼女は不服そうに顔をしかめていた。
「き、貴様と組む前は独りで冒険を続けていたもん……!」
「――それは、魔王討伐以後のお話しでしょう?」
「……うむ」
アイリスは――直感的だ。
その仕草もそうだが、そうと決心したら、後先を考えずに行動する。
だから――よく失敗を起こす。
「で、でも……、本当に独りで、何度か冒険したことはあったぞ?」
「その感想はいかがでした?」
「――最悪だった」
彼女は苦そうに顔を歪めた。
「食料が足りないし、前人未踏の地だから、引き返せなかったし……」
「その後はどうしたんですか?」
「ほ、他の冒険者たちに救助された」
「やれやれ……」
これだから、彼女は――。
尚更、僕が一緒にいなければ、彼女は野垂れ死ぬことになるだろう。
「――とにかく、その冒険者たちに感謝ですね?」
「あぁ……、今でも憶えている。彼らを……」
彼女は懐かしむように冬空を見上げた。
「――今も彼らは冒険者稼業を続けているのであろうか?」
「さて?流石にそれこそ『神のみぞ知る』では、ないでしょうか?」
「この同じ空を見上げているとよいのだが……」
彼女は記憶に浸るように瞼を閉じた。
「当時は若かった。若気の至りでよく無茶をしでかしたものだ」
「その失敗が今も活かせてないのは何故ですか?」
僕はジトーと彼女の美麗な横顔を見つめた。
「そ、それは……だな!イツカ!」
「もういいですよ。僕も怒っているわけじゃ、ありませんから」
僕は彼女の手を引くと、買った食材を抱えて、市場を飛び出した。
「今から、何をするつもりだ?」
「暇ですし、久々に『ギルド』に行くのはどうでしょうか?」
――ギルド。
冒険者が集う――集会所。
様々なクエストがボードには貼られており、冒険者たちはそのクエストを受託することにより資金や成果を得る。
特にクエストには難易度が指定されている為、誰でも簡単に受託できるわけではない。
その推奨にはランクというルール制度があり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、チャンピョンという順番に明確に区別されている。
ちなみに、僕は最低ランクのブロンズ、彼女は最高ランクのチャンピョンだ。
が、彼女はあくまでも、ランクとは富や名声のようなモノだと説明する。
まぁ、僕も確かに上級ランクのモンスターを普通に狩っているから、御世辞にもランクが一存に関係しているとは言い切れないが……。
「おお!それはよい意見だ。共に『クエスト』を熟すぞ!」
――クエスト。
冒険者たちはクエストを熟すことにより、その生活水準を保っている。
例えば、地下水路に蔓延るドブネズミの退治とか、汚れた街を清掃とか。
つまりは――何でも屋だ。
「その前に食材を宿に預けましょう」
僕たちは買った食材を宿へと預けると、そのまま、ギルドへと足を運んだ。
「こんなのはどうだ?」
「何々?“ビッグフット”の討伐?」
――聞かないモンスターの名前だ。
「何やら、クエストの説明を見る限り、奴は近辺を荒らしているらしい」
「それは、穏やかじゃないですね?ちなみに、難易度は?」
「――プラチナだ」
「オオ……、ジーザス……」
容赦なくブロンズの僕に対して、高難易度のクエストを突き付けてくる彼女。
果て、困ったものだ。
「イツカ?貴様なら簡単であろう?」
「まぁ、できないことはないでしょうが……、それでも、心配であることには変わりありませんよ」
「人はそんな逆境を乗り越えてこそ、英雄と称えられる」
「誰かがそんなセリフを吐いた憶えが……、誰だっけな?」
「まぁ、どれでもよい。このクエストを受けるぞ?いいな?」
「へい」
僕たちはクエストを剥がすと、受付へと手続きを運んだ。
「――こんにちは~」
一言で京風美人の受付嬢さんが可愛らしく微笑んでくれる。
「――こんにちは」と、つられて僕たちも挨拶を交わした。
「このバレンツのギルドは初めてですか?」
「初めてです」
「そうですか、遠路はるばる、こんな町を訪れるなんてご苦労様です。
――っとその前にランクを拝謁できますか?」
「構わない」
彼女は胸に付けたバッチを見せつけた。
「――チャ、チャンピョン!?」
受付嬢さんの光彩が極限まで見開かれる。
その影響を受けて、周りの冒険者も騒ぎ出す。
「チャンピョンなんて、初めて見た!」
「普通、プラチナまでだよな?」
「ここは最高難易度の町だぜ?チャンピョンがいても可笑しくはない」
受付嬢さんはコホンッ。と一言。
どうやら、気を取り戻したようだ。
「――大変失礼しました。
まさかチャンピョン・ランクの方と出会えるなんて、想像だにしなかったものですから……。
お恥ずかしながら、驚かせて頂きました」
「気にすることはない。
いつものこと、だからな」
「もしかして、お連れの方も……」
受付嬢さんは僕の全身をくまなく見つめた。
「残念ながら、僕はブロンズです」
「ブ、ブロンズ……!?」
ギルド内が別の意味で騒いだ。
当初の通り、ここのモンスターは難敵だ。
新人冒険者がこんな辺鄙な場所に訪れること自体が間違っている。
「――何か、問題でも?」
「――問題大ありですよ!?
どうして、こんな町にいるんですか!?
普通は、始まりの町、『ロレンツィオ』にいるはずでしょ!?
まぁ、チャンピョン・ランクの方と一緒なら、その死線も潜り抜けてきたことは分かるのですが……。
それでも、異常ですよ!」
――ロレンツィオ。
通称、始まりの町。
所謂、新人冒険者たちが集う駆け出しの町だ。
難易度も低く、そのモンスターたちも実質強敵ではない。
まぁ、群れれば話しは別に変わっていくのだが……。
――閑話休題。
そんなに不思議かな?
何だか、彼女に鍛えられてからというのも、その実感が全然、湧かないや。
「まぁ、確かにイツカはブロンズだが、その実際は強い。チャンピョンの私が保障する。
それに、ランクなんぞ飾りに過ぎない」
そんな彼女に対し、受付嬢さんは食ってかかる。
「――関係ありますよ!それが、前人未踏の地なら、尚更……!」
「――そうなのか?」
「どうやって、こんな辺鄙な場所を訪れたんですか?」
「普通に飛行船に乗ってだが……」
「そ、それでも!ブ、ブロンズの新人を連れてくるなんて、非常識です!」
「なぁ?イツカ?貴様はどう想う?」
えぇ……。
唐突に話題を振られると困るのは僕だけだろうか?
「まぁ、師匠がよいなら、いいんじゃないですか?」
そんな僕の言葉が癇に障ったのか、受付嬢さんはヒートアップする。
「あなたは自身の命を何だと想っているんですか!?」
「フッ……。生きるも死ぬのも総て天――任せですよ」
僕はキザッ。ぼく微笑んだ。
「呆れました!」
受付嬢さんはプイッ。とあらぬ方向を向いてしまった。
うーん。どうしよう。
クエストは受注できるのかな?
突如――。
「――おい、坊主……。ここはヒヨッ子が訪れる場所じゃないぞ?」
見上げるような鎧を纏った巨漢さんが僕の背後に立っていた。
「そうだ、そうだ!」
「新人はとっとと、ロレンツィオに帰りやがれ!」
罵声は度々、強くなる。
僕は間違っているのか?
彼女と共に冒険することは間違っていたのか?
「『黙れ』」
「――ほえ?」
彼女は無言で零れるような威圧を辺りに撒き散らしていた。
「イツカは私の後継者だ。それを侮辱することは私が許さん」
それだけで、まるで葬式のように押し黙る他の冒険者たち。
「受付嬢さん。クエストを受諾してください」
「ひゃう!ダメですよ!それじゃ、私があなたを殺したようじゃないですか!」
「腕前には自信があるんです。それでもダメですか?」
「絶対にダメです!」
彼女は口角を綻ばせると、テーブルを勢いよく叩いた。
「『金色の稲妻』がこんなに頼んでも、か?」
受付嬢さんは銃弾に撃ち抜かれたように腰を抜かした。
「こ、金色の稲妻……!」
ギルド内が更に、慌ただしくなる。
「バカな!王都に住んでいるじゃ、ないのか!?」
「あれだろ!魔王を討伐した勇者一行の一人だと……!」
彼女は呼吸を整えると、受付嬢を静かに見据える。
「安心しろ。イツカは私の弟子だ。その腕前も一人前だ」
「で、でも……!」
「ランクなど、所詮、飾りに過ぎない。
その実質、コイツは――強い。
金色の稲妻であるアイリスがそこまで言うのだ。
信じられぬか?」
「そ、そこまで、言うのならば、受けてみますか!?」
受付嬢さんはもはや、自棄だった。
「死んでも知らないんだから!」
お読み頂きありがとうございます。
感想、お待ちしています。




