8話
書きたいこと...ある。分かってる。でも書けない、不思議。
「腰が引けてる!木剣で死ぬわけないんだから、当たっても良いくらいの気持ちで来なさい!」
「は、はいぃっ!」
中庭の修練場。
アイーダはそこで、シーラの下へ入った事を早くも後悔し始めていた。
「目が死んでる!そんな目で何が出来るの!敵に集中して剣戟を見極めなさい!」
「はいっ...うわぁっ!」
今まで『外』で見ていたシーラは、ここには居なかった。その代わりに待っていたのは、ただただ強く厳しい、青い髪を振り乱す鬼、【血纏いのシーラ】だった。
斬る、弾く、いなす、突く。
それぞれの動きが全て一級品の剣舞の様な動きに、だがアイーダは見惚れる暇も、目に焼き付ける余裕すらも無い。
「振りが遅い!この鈍ら!」
「ひぃっ!?」
あっという間に距離を詰められる。次の瞬間、光よりも速いのではないかという程のスピードで、アイーダの持つ木剣がなぎ払われる。思わず悲鳴をあげ、咄嗟に防御の姿勢を作る。
が。
「甘っちょろい!!」
木剣同士がぶつかり合い、アイーダの手が痺れた。顔が苦痛に歪む。アイーダとシーラの視線が交差する。
アイーダはシーラの瞳に映る自分を見つける。青い瞳に映った自分の顔が、まるで青ざめたように自らを見つめていた。
シーラが剣をくるりと回し、柄をアイーダの腹に突き出す。体内に重い音が響き、そこでアイーダの意識は途切れた。
アイーダは修練場の隣、簡易食堂の長椅子で目覚めた。慌てて起き上がると、テーブルを挟んだところでシーラが微笑んでいる。
「おはよう、アイーダ。檸檬水飲む?」
「あ、ありがとうございます!」
シーラにグラスを差し出されたアイーダは、それとシーラを見比べて、一先ずグラスの中身を飲み干すことに決めた。
「ふふっ」
シーラがそれを見て笑う。薄い上品な黄色を喉を鳴らして流し込む様子は、貴族からしてみればはしたない光景だろうが、シーラの目には好ましく映った。
ぷはぁ、とアイーダがグラスから口を離す。
「よっ、豪快な一気飲みで」
シーラがそう煽ると、アイーダは頬を赤くしてバツが悪そうに返す。
「...多分サラが見てたら怒りますけど」
「あの子はそういう所きちっとしてるからねぇ」
言いながら、シーラも檸檬水に口をつける。アイーダが気絶した後も稽古を続けていたシーラだが、僅かに一口ほど含むようにして飲み、テーブルにそれを置いた。
貴族たるもの余裕を持て、という教えだ。
「...副団長は、いつもああして稽古を?」
「シーラで良いわよ。...まあ、あれくらいは第二王立騎士団の普通ね」
うえー、とアイーダは顔をしかめる。
「ぜんっぜんついていけてません...」
「平民騎士と違って、ウチは王からの命令も聞くから甘くないのよ。何処かに行って一人でも死にました、捕まりました...なんて言ったら、他国どころか地方を治めてる貴族にもナメられるからね」
「レベル高い...」
「そういう立ち位置にある、というだけよ。人間として上かどうかはまた別の話」
「へっ?人間として...って」
「みーんな貴女やサラみたいな優しい子じゃない、って事」
また一口を含み、嚥下する。甘い香りがふんわりと広がる。
「...いずれにせよ、その剣の腕はなんとかして欲しいところだけど?」
「...はい、精進します...」
「実戦経験があまり無い子はみんな貴女みたいになるのよ。でも、訓練を積めばモノになる。センスはあると思うわ」
「ありがとうございます。...あっ、質問!質問いいですか!」
「うん?」
そうシーラが聞き返すと、アイーダは首をかしげながら言う。
「シーラさん、今日はあたしに合わせてソードでしたけど、普段は変な...というか、面白い...というか、凄い武器を使ってるんでしたよね?蛇腹剣、とかいう...」
「...別に私は気にしないから、楽に話していいのよ?...そうね、いつもはその『変な武器』を使ってるわよ?ふふっ」
「あっ、ごめんなさい。...それで、どんな武器なんですか?」
「んー...任務に出てからの秘密」
「そんなぁ!」
「心配しなくても、いずれ見れるわよ」
最後の一口を飲んだシーラが、空のグラスを指で拭った。
「まあ、面白い武器なのは事実よ。でも女が片手で振り回せる程度の武器だから、別に大した武器じゃないわ」
「そうなんですか?蛇の腹って言うくらいだからすっごく広くて分厚い、巨人が使うような剣かと...」
「...『血纏い』も恐れられたものね」
苦笑して言う。
「そんなのを振り回すのは【ガルディア】の兵士くらいじゃないかしら。まあ、勇猛果敢のガルディア兵でも、そこまでの馬鹿はそうそう居ないと思うけど。記憶の限りでは、そんな武器を使う奴は私も1人しか知らないわ」
「そうなんですか...。ガルディア兵って、そんなに強いんですか?」
「んー...化け物ね。私でも3人相手にするのがやっとよ。それ以上だとマトモにやり合うのは無理ね」
「シーラさんでも無理って...」
アイーダは、まだ見ぬガルディア兵に恐れをなした様に身震いする。それを見てシーラは口に指を当てて笑う。
「まあ、貴女が5人居たらようやく1人を相手に...出来ないわね。多分1分持たないわよ」
「...重ね重ね、精進します...」
「まあ私たちはしっかり連携を取りさえすれば良いのよ。野蛮な奴らに負けないように、ね」
「はいっ!あの、また稽古をつけてもらってもいいですか!」
「えぇ。やる気のある子は大歓迎よ」
精進します。(都合の良い言葉)




