6話
3日ぶりでしょうか?なんか嫌なペースですね。
「...そういえば、呪術ってのは一体何なんだ?」
村に向かう途中、男はモーントにそう切り出した。
「何、とは?」
「あー...、例えば、何が出来るとか。詳しい理屈は教えられても分かんねェと思うけどさ」
「うーん、何...と言われると困りますね」
モーントが首をひねる。そして歩いたまま視線を漂わせ、ふとしゃがみ込んだ。何かを見つけたようだ。
男がのぞき込もうとすると、その瞬間モーントが立ち上がった。
「ぐぇっ」
ごつっ、という鈍い音。
灰色の頭が、男の顎に直撃した。くぐもった衝突音と男の間抜けた呻き声が、両者の耳に届いた。
「あっ、ごめんなさい!お怪我は...!」
「...や、大丈夫だ」
気を抜いていた、と男は反省した。そんな彼の目に、少女が両手で木の葉を握りしめているのが映る。
「...それで?その葉っぱで何かやんのか?」
「あっ、...ちょっと待ってくださいね」
ばつが悪そうにする少女を促す。すると少女は、懐から細い棒状の物体を取り出した。先端が黒く変色したそれは、ペンだろうか。
(へぇ...)
男の横で、モーントは木の葉に何かしらを書き込んでいく。ミミズが這った跡のような、一つの線で繋がったそれが、所謂呪文のようなものだろうか。
「これでよし、と。手を出してもらえますか?」
そう言うと、モーントは男に木の葉を差し出してきた。男が言われるがままに手のひらを上に向けると、少女は木の葉をそこに乗せた。モーントはひとつ頷き、手のひらを合わせて呟いた。
「我が身と成れ」
モーントの呟きに合わせて、ふわりと木の葉が舞い上がった。
風が吹いたわけではない。まるで木の葉に意志が宿ったように、木の葉が蝶のように『羽ばたいている』。
「...すげぇな」
今まで...恐らく記憶を失う前も見たことがないであろうささやかな不思議に、男は目を奪われていた。
「呪術とは、大地の力を借りて、大地から産まれた生命に更に力を与える術です。これはそのひとつで、術者と自然の一部を繋げる術。勘違いされがちですけど、人を呪うというのは呪術の中でも殆ど無いんですよ?」
そう言うと、木の葉が地面に落ちる。そして新たな木の葉に触れると、その木の葉もまた動き出す。そうして5分ほども歩いている内に、木の葉は数百もの大群となり、その全てが蝶のようにモーントの周りを漂う。
「中には名前を決めたり、職業を決めるものもあります。よろしければ、後でやりましょうか?」
「...ああ。悪くないかもな」
男は笑って言った。
まやかしが女を囲っているのを、【グアリニ】の黄色い瞳が捉えた。その鼻が赤く光る。
グアリニは革帯に吊るした鈴を鳴らす。間抜けな人間には聞こえない、特殊な音の鈴。
ゴブリン達が集まってくる。匂いが濃くなる。人間達を狩るために、徐々に包囲網を作っていく。
(村の女。モーントと言ったカ。あれハ...誰だ?巨大な剣を持っていル。巨人を殺したのは奴カ)
ゴブリンは賢かった。
まず男をやれ。次に女だ。そう意思を伝える必要は無かった。全てのゴブリンは、女ではなく男を注視していた。
ある者が弓を引く。またある者は2つの鉈を構え、ある者は身の丈程もある剣を両手で構える。
グアリニが手を身体の前に突き出す。その手に握られているのは、霊樹の枝から切り出した杖。
「...五元の奥底に住まう神ヨ、空に瞳を浮かべた者ヨ、我らの祈りに触れたまエ」
目を閉じ、呪文を口にする。それと同時に、ゴブリン達が身体を持ち上げる。
「我らの鼓動をかき消したまエ。我らの魂を布で覆い、愚かに動く様を秘密とせヨ」
唱えた瞬間、彼らの発する音が消えた。
「【ムシオズマ】!」
グアリニが叫ぶ。その視線の先に居るのは、ゴブリンの長、【斧のムシオズマ】。
ムシオズマは斧を片手で持ち上げ、高らかに吠えた。
「突貫しロ!!」
一度何処かで手直しをしたいと思ってます。明日か明後日くらいに軽くいくつかの話を修正すると思います。




