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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー開幕記
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Eris-敵前逃亡

今回は少し(?)残酷な描写が入っています。

自然魔力の消失した空間は、ただただ静寂につつまれていた。

風の音一つない空間は、先程までの喧騒が夢か幻だったのではないかという考えさえ引き起こさせる。

自然魔力の消失、それはこの世界において絶対にあり得ない状況の筈だ。

少なくとも、この場に居る全員が、知り得ない状況だった。

「へっ、どうしたよ!魔力切れか?」

そう言って盗賊の一人が投げた剣がテェレア目掛けて空を切る。

剣を前に突き出し、飛来する剣を魔術で燃やす。いつも通りならば、そうなる筈だった。

テェレアの呼びかけに応じなかった術式は機能せず、飛来した剣はテレアの剣を弾き飛ばし、鉄のぶつかり合う甲高い音を響かせて地面へと落ちた。

その様子を見ていた全ての者がそれぞれに動き出す。


エクスデトとダブルブがすかさずテェレアの安全を確保するために隣に駆け寄る。

「テレア!お前が魔力切れなんて、やはりあの女の所為か?」

「エク兄、流石にそれは無いと思うよ。さっきの光から空気が変わった気もするしな」

声をかけられたテェレアは、自分の身体から何かが無くなったような消失感が、身体に纏わり着くかのような感覚に顔を歪めていた。

「この感覚は・・・、なんだろう?」

自分の手が寒さに震えているかのように小刻みに揺れている、心臓の音がやけに大きく聞こえる。その音と感覚に感情を埋め尽くされた彼は、すでに回りの音など聞こえてはいなかった。


一方、トゼルも同じようにエリスの隣へと移動する。

「お姉様、何が・・・、お姉様!?」

エリスの元に駆け寄ったトゼルが驚く、地面に膝をつき、胸を抑えて息を切らすエリスの姿がそこにあったからだ。

「・・・多分、魔力が、無く、なってる」

苦しそうにそう答えるが、エリスの瞳から次第に光が失われていき、今にも倒れてしまいそうだった。

トゼルはすぐさまエリスの身体を支え、どうするべきかを考える。

このままエリスを守りながら戦うのか、その他を全て見捨ててエリスだけを守るのか。

トゼルの選択としては後者一択であったが、エリスの瞳から闘志が消えていない事が、トゼルをその場に止めさせていた。

「あたしは、どうしたら・・・」

エリスが望んだ戦いを、自分が止めてもいいのだろうか、もしもこの選択が、エリスの意志の妨げになるのだとしたら、お姉様の妨げになる者は如何なるモノだろうと容赦しない。たとえそれが、己自身だったとしても。

「私は、いいから、みんな、を、助けて」

エリスは自分の身に起こっている事を理解できてはいなかった。

なぜ急にこんな事になってしまったのか、それよりも、今は目の前の事を優先しなければならない。

自分の持つ白銀狼刀から輝きが消えた事を考えれば、この場から魔力が消えた事が分かった。誰も知らなかった4つ目の伝説。それ以外には考えられない。

魔力が消えた状況で、人魔が他種族に勝つ事など不可能に近い。ならば、相手も理解していない今しかチャンスは無い。

意識の朦朧とする頭で、作戦を考え、実行する。

総員一斉攻撃。

「そうい、・・・き」

しかし、その言葉は意識とは裏腹に、誰にも届く事は無く、エリスの最後の意識を削り取るだけだった。

「お、お姉様!?」

完全に意識の無くなったエリスを慌てて抱き起こし、トゼルは意志を決めた。

たとえ誰から責められようと、今は自分の意志で行動するしかない。

大切にしていた武器を投げ捨て、エリスを背負い、困惑する戦場に背を向けて走り出す。

トゼルは、たった一人の大切な者の為に、全てを捨てて逃げ出したのだった。


「なんだなんだ?どうなってやがるんだ?」

その事態に驚いていたのは盗賊達も同じだった。今まで絶対的な力の前に怖気づくだけだったが、突然動きの止まった自体を把握しきれず、困惑するのみ。

「へっ、なにが魔術だ!そんなもん恐くも何ともねぇな!」

盗賊の一人、爬魔の男が強がりのように投げた槍。自分の得物を投げるなど、戦いの常識としては見当はずれ、愚の骨頂とも言える行為だったが。

爬魔の力で投げられた槍は、近くに居た人魔へ真直ぐに飛んでいき、その身体へ吸い込まれるように突き刺さった。

人魔は何もせず、ただ立っていただけでは無い。爬魔の男の行動を察し、魔術による防御を発動させた、筈だった。

しかし、魔術は反応せず、人魔のひ弱な身体は粗悪な槍一つで命を失ってしまう。

地面に倒れた一人の人魔、薄茶色の岩肌が、赤く、紅く染まっていく。

その様子を見ていた盗賊達は呆気にとられた。今までどんな攻撃も通らなかった人魔を、いとも容易く打ち倒す事が出来た事を。

その様子を見た人魔達は驚愕した。殺された男が魔術を発動させようとし、彼等はそれを知っていた。けれど、その魔術が発動しなかった事に。

その出来事は、今までの立場が逆転した瞬間であった。

それこそが、エリスが危惧した最悪の事態。

自分達も魔術が使えない事を知り始めた人魔が混乱の色に染まっていく。

何度も魔術を使おうと血眼になって術式を発動させようとする者、理解が出来ないと言ったようにただ立ち尽くす者、眼前に迫る死を予感し壊れる者。

士気の低下、隊の混乱、それを気取られる事、即ち全滅。

下卑た笑い声、絶対的な強者という立場に変わった余裕から、盗賊達は笑っていた。

爬魔の男が人魔へ歩み寄る。

人魔は何度も魔術を発動させようと、手を振り続けるが、魔力の輝きは答えてくれない。腕を掴まれ、握りつぶされる。

「うぁあああ!?」

「イッヒッヒ、脆いなぁおい。これじゃ枝とかわんねぇよ」

爬魔の男はそのまま人魔を投げ飛ばす、断崖の壁に打ち付けられた人魔は果物のように血を飛び散らせ絶命する。

似たような状況が、あちらこちらで見受けられる。切り裂かれ、踏みつぶされ、引き千切られる人魔。そこにあった光景は、すでに戦いなどではなく、虐殺。

魔法という力を無くした人魔と、本来の闘争を手に入れた爬魔と獣魔。

「全員撤退だ!」

その命令を発したのはエクスデト。彼だけがこの状況を冷静に判断し、行動する事が出来た。

その声に反応し、多少の人魔は己を取り戻し、険道の下り道へと走り出す。

その時には、すでに半数の人魔が致命傷を受け、息絶えていた。

テェレアが放心状態となり、エクスデト自身、何を最善にしたらよいかを計りかねていたのだ。

「エク兄!あいつらが!」

「なんだダブルブ?今はそれどこれでは!」

未だに動こうとしないテェレアを担ぎ、敵に背を向けて逃げるエクスデトに、ダブルブが追いついた。

「二人のお嬢さんだよ、あいつらが逃げたらしい!」

「なんだと!?」

驚きのあまりテェレアを落としそうになるエクスデトだったが、なんとか持ち直すと、言葉の続きを待った。

「俺も見た訳じゃないけどよ、近くに居たヤツが言ってたんだ。盗賊が暴れ始める前、二人が突然逃げたってな」

「まさか、こうなる事を知って自分達だけ逃げたと?」

そんなまさか。それがエクスデトの最初の考えだったが、それぐらいの先読みが出来て当然なのではないか、という思いもあった。

今回の作戦も、謎の光が現れるまでは面白いように順調にいっていた。その点では彼もエリスを信頼していた。

だが結局のところ、エクスデトの中でエリスは、信用にすら足りない者だった。

その考えに至ったのが、戦いの始まる前では無く、全てが終わってしまった今だという事に、エクスデトはきつく歯を食いしばる。

今すぐあの者を見つけ出して八つ裂きにしてやりたい。この戦いで無事を信じていた同朋が受けた痛みを、奴にも味合わせてやりたい。

今更湧き上がる思いは憎悪の感情だけ。だが、今はそれどころではない。

「今は、テレアを逃がすのが最優先だ!」

「わかってるよ。その為の手は打ってあるさ」

二人はただひたすらに走り続ける。自分達が守ると誓い、変わるべき世界を目指す為の道しるべを失わない為に。

希望と、憎悪を力に、走り続ける。


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