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俺が魔王で勇者があきらめた!  作者: 結城悠
戦国編ー旅行記
57/73

旅終想像

「姉者、少々やりすぎですな・・・」

「えぇっ!?でも、鱗を砕けって?」

その言葉を聞いたヤトオウドがしまった、という顔をする。

文字どおりの意味で言葉を受け取ってしまったエリスは、ステルヴィオの鱗を砕いた。

結果的に彼の自身を無くさせる事はできたのかもしれないが、彼は暫く回復に専念しなければならないだろう。

「まぁよい、これで余計な血が流れて冷静な判断も出来るであろう、結果的には同じ事だのぅ」

気を失っているステルヴィオは、全治1カ月といったところだろうか、運が悪ければ武術家としての自信を無くして二度と立ち上がれなくなってしまう可能性もあったが、その点に関しては心配していないようだ。

運ばれていく彼の顔は、確かに笑っていた。

その顔は敗北感や劣等感ではなく、ただ単純に負けを認める男の顔だった。

エリスの肩にキュウが飛び乗り、尻尾で頬を撫でる。

「上出来だ、お前は本当の意味で自分の存在を確立させた。それは誇るべき事実だ」

「キュウさん・・・。はい!」

キュウが褒めてくれる事など数えるほどしかない、だからこそ言葉の意味も、重みも理解している。


道場を後にし、広間に戻ってきた。

因みに、エリスの魔法で滅茶苦茶になった砂を整地する修行者達は、文句どころか、自分達が役に立てると言うだけで喜んでいた。

一方エリスは任せてしまう事に少し心苦しさを覚えていたのだが、ヌエの後押しもあってその場を後にしたのだった。

「お姉様おかえりー、おつかれさま?」

広間にはすでにトゼルが座っており、どこから持ち出したのか、酒を飲んでいた。

「トゼル、姉者の試合も見ずに酒とは良い身分だな?」

「なによぉ、どうせ勝ったんでしょ?分かり切った勝負なんてつまらないわよ、賭けにもならないしね」

そう言いながら酒を煽る姿はだらしなかったが、エリスの勝ちを最も信じていたのは間違いないだろう。

「トゼルはしょうがないんだから・・・、それより、何かお話があるんですよね?」

「おぉ、そうだったのぅ。おっほん!一つ頼みごとがあってのぅ」

三人の姿に呆気にとられていたヤトオウドは、咳払いと共に話を始めた。


「実は最近、山賊や野盗の被害が頻繁しておってな、無論こちらも対処はしているのだが、報告が後を絶たんでのぅ」

彼の話によると、商人や旅人が賊の被害に会う事が数年前から増えているのだと言う。

その被害は年々増加しているらしい。

「ここの修行者の何人もが護衛に着いた事もあったが、その者は結局帰って来んでのぅ」

そこで白羽の矢が立ったのが、ステルヴィオだった。彼は商人と修行者が通った道を探り、ラセン山が怪しいと踏んで調査に出かけていたのだと言う。

「ラセン山って、どこかで聞いた名前よね?」

「トゼルよ、もう忘れたのか?我らが出会った村で聞いたであろう?」

酒の匂い香る魚人族の村で魔物退治を頼まれたあの事件、あの時のカワズはラセン山から来た物だと推測していたはずだ。

「あぁ!思い出したわ、カワズ退治した所だわ」

「なんだ、お前達何かしっておるのか?」

三人の反応にヤトオウドが不思議そうな顔をする、ヌエの旅の事は聞いていたようだが、ラセン山とは道が違うのだ。

「実は、トゼルと出会った時の事なんですが・・・」

三人は村であった事件、ラセン山に生息する筈のカワズが村近くの森に住み着き、その影響で別の魔物が村に降りて来て、村人が困っていた事。そのあらましを説明した。

「ほぉぅ、そんな事があったのか。それは間違いなくラセン山に陣取っていた山賊の影響だのぅ」

「魔物と山賊・・・?影響というのは一体何なんですか?」

「うむ。普通の山賊であったなら、わざわざステルが行かずともここの門下生が後れを取る事など在り得ないだろうが、奴は特殊な武器を持っていたようでな」

エリスははっとして、自分の武器を見た、魔術適正の無い爬魔族だから気付かれなかったが、彼女の持つ白銀曲刀もまた、普通とは違う武器なのだ。

「それで、その武器というのは・・・?」

「ステルから預かった物がこれだ」


テーブルの上に出されたのは、装飾を施された円形の金属板。その中心には透明な石が埋め込まれており、魔術道具のように見えた。

エリスが手に取ると、そこには複雑な魔術式が無数に刻まれており、一瞬では理解できそうになかった。

「やっぱりこれって・・・?」

「間違いないな、これは俺の造った物だ」

魔国で伝説エンシェントと呼ばれる術式を施された武器。

法冠ほうかんとキュウは名づけていた物で、魔術に適性が無い物でも、魔法を扱う事のできるようになる武器だ。

中心に魔石を取り入れ、複数の術式を噛み合わせる事によって様々な魔法を扱う事ができるようになる。

「やっぱり、これもエンシェントのようですね」

「これも?という事はまだ他にもあると言う事かのぅ」

エリスは自分の曲刀をヤトオウドに差し出す。

武器を握った瞬間、想像よりも軽い武器に驚いたようだった。

「その武器を持っているだけで大丈夫です」

続いてエリスが鉄板を取り出し、氷の礫をゆっくりとヤトオウドに飛ばした。

ふわふわと飛んでいく氷は曲刀に触れるよりも早く、風に吹かれたように魔力となって消え失せた。

「微弱な魔法を消すのか、確かにこれは不思議な武器だ」

ヤトオウドはその現象を一瞬で理解したようで、一通り眺めた後、エリスへ返す。

「して、これはどこで手に入れたのか?」

一瞬、エリスの顔に影が落ちる。彼女も背負った命の重みを忘れた事は無い。

「ヌエと出会った時に、・・・倒した。山賊が持っていた物です」

あえてエリスは倒したと言ったが、彼もその言葉に含まれた意味を理解したのか、それ以上深く聞く事は無かった。


「やはり、ここ最近の被害はこのエンシェントが係わっているのは間違いないのぅ」

神殿の扉が開いた事により、この魔国に現れた伝説武器エンシェント。その力は今までの魔国の力関係を一転させるには十分な力を備えていた。

その原因の一端を持っているエリスは、責任を感じずにはいられなかった。

そんなエリスを気にかけたのか、トゼルが口を開く。

「ところで、おじ様。この武器アタシが貰ってもいい?」

「うぅむ、お前達に任せるのであればやぶさかではないが・・・」

「なんだか、これはアタシと似合う気がするのよねぇ。ね?」

トゼルは意味ありげにキュウの耳を指先で小突く。耳をピクリと動かし、ニヤリと笑うキュウ。

エリス程ではないが、ヌエとトゼルも彼の表情を感じる事が出来るようになっていた。

その笑顔が意味するのは、おそらく肯定。

トゼルは法冠を手に取ると、指先でくるくると回して遊び始めた。

「ふむ、今後必要になるやもしれん。いいだろう、それはやろう」

「うふふ、おじ様ありがとう」

こうして、トゼルは新たな武器を手に入れたのだった。


「ここからが本題なのだがのぅ」

そう前置きし、三人を見渡しながらこう言った。

「お前達には白色盗はくしょくとうの討伐隊に参加して欲しい」

白色盗とは、ここ一年で勢力を急激に伸ばした野盗集団であり、今ではその規模が膨れ上がり、一領地では手に負えないほどになっている。

手に負えない理由は人数だけでは無い、集団を纏めている三人の頭領の持つ力だ。

「おそらくはエンシェントの力だろうが、数万の軍勢を退ける程の力を持つらしいのぅ」

「数万!?それはもう野盗の域を超えていますな」

「討伐隊というのは、どういう事なんですか?」

白色盗の目的は、魔国に住むヴァイスの保護と、今まで自分達を蔑んできた者達への復讐。

理想を掲げてはいるが、やっている事は普通の盗賊と何ら変わりない、窃盗と虐殺。

その状況を良しとしない各領地の有力者が集い、討伐隊を結成したと言う訳だ。

けれどその説明の最中、エリスは不信感を募らせていた。

「おじさん、一つよろしいですか?」

「なんであろう?」

「その討伐隊にわたしが入っては問題がある気がするのですが」

白色盗というのはヴァイスによって発足した集団であり、構成される主要人物の大半はヴァイスだ。

その討伐、つまりは殺す相手と同じヴァイスが討伐隊に加わるというのは、双方にとって混乱をきたすのではないか。

なにより、エリス自身同じ苦しみを知る者達と殺し合うなど、想像もしたくない。

「父上、拙者達の力を買って貰えるのは嬉しいですが、こればかりは」

「お姉様にとってはかなり辛い戦いになってしまうものね」

二人はエリスの心情を察し、それぞれがエリスを庇うように声をかける。

「それは重々承知だが、ワシも強さだけでこの話をしたのではない」

「どういう、ことですか?」

ヤトオウドは以前からヴァイスという言葉に疑念を抱いていた。

ただ色が白いと言うだけでその者の全てを否定するなどあってよいのだろうか、白いと言うだけで悪と決めるのは、それこそ何も考えない者達の悪癖でしかないのではと。

「昔、一人の門下生が居てな。ワシと歳も変わらん奴だった。・・・そいつは蛇族だったが、全身が白い鱗に被われていてな」

「もしや、父上の良き戦友ともであったという?」

「カガシジと言ってな、終ぞ奴の技には敵わんかったのぅ」

そう言って懐かしそうに微笑む彼の顔は、どこか寂しそうに見えた。

カガシジと呼ばれた白い爬魔の男は、誰よりも強くあろうと修行し、ヤトオウドと並ぶほどの強さを身に付けた。

けれどその先にあったのは、絶望。

「奴は白い者達を救い、皆の考えを正さんと旅に出た。初めは順調だったのだが、ある日事件が起きてのぅ」

獣魔領で起きた悲劇、爬魔領へと変える道すがら、大量の魔物に囲まれ、窮地に陥っていたカガシジの一行は、通りかかった別の旅人に助けを求めたのだという。

だが、白いと言うだけで助けは得られず、助けを呼びに行った彼だけが助かり、各領地を巡って出会った仲間は魔物に食われて死んだ。

「その話をした後、奴はワシの前から姿を消した。かれこれ20年は会っていないのぅ」

彼は力を手に入れた事で、世界を変える力を手に入れたと勘違いしたのだろうか、それとも、どれだけ力があろうと変えられない事に絶望したのだろうか。

今となっては知る事ができない。

エリスは想像した、自分とステルヴィオを闘わせたのも、そんな間違いを二度と起こさせない為の、彼なりの指導だったのかもしれないと。

「ワシに出来る事は少ない、多くの門下生を育てる立場にあっても、この国の本質を変える事はできない。己の力量は分かっているつもりだからのぅ」

自傷ぎみに笑う彼の心の傷が疼く、戦友と呼んだ一人救えなかった彼の傷は、年を経てもなお血を流し続けているのだろうか。

「だからこそ、エリス。お前さんに頼みたい!白で在りながら美しく、人を惹きつける容姿。それでいて強く凛々しい力。お前さんならば、この国を変える事が出来るやもしれん」

「・・・わたしが、国を?変える?」

急に大きくなった話しについて行けず、困惑する。

この戦いに参加すれば、ヴァイスとしての悪評よりも、エリスとしての評価が高まる可能性がある。それによってヴァイスという認識が少しでも変わる可能性があるならば、そう考える。

元々、エリスが神殿でキュウと出会った事によって始まった白色盗の問題、負い目が無いとは言い切れない。


頬に当たるふわふわした感触。キュウが一度だけ頭を押し当てる。

「キュウさん・・・?」

何も言わぬ黒猫は、エリスの肩から降りると、トゼルの肩へと移った。

トゼルは何も言わず、キュウの重みを確りと受け止め、エリスを見つめた。

ヌエも同じく、エリスの答えを待っている。

キュウの言いたい事、それはすぐに理解できた。

今この瞬間に未来を決めなければならない。今この瞬間にエリスの旅は岐路に差し掛かっているのだ。

このまま旅を続けるのか、それとも旅の先を見に行くのか。

「まだわたしには、旅の先は見えないけれど、それでいいんですか?」

自分の掌を見つめるエリスは、最後の一歩を踏み出せずにいた。答えは決まっているはずなのに、その最後が恐ろしい。

「姉者、何も迷う事は無いです。拙者も、永遠に誓ったではないですか」

ヌエがエリスの手の上に自分の手を重ねる。義姉妹の誓いは、どんな事があろうと破られる事は無いと言うヌエの強い信義。

「アタシだって、同じ気持ちよ?それに、逃げ出すにはお姉様達の事、好きになりすぎちゃったしね」

同じように手を重ね、冗談っぽく言ってはいるが、それがトゼルの本心だと言う事は確りと理解している。道化のように振舞うトゼルの心情。

「そうですね、わたしは。私達に迷う道なんてないですよね」

二人の手を掴み、力強く立ち上がるエリスの瞳に映るのは確信。

旅の先に在る物が何かは解らない、解らないのなら作ってしまえばいい。

「この先の道は、私が、想像します!」


エリスの旅は一旦の終わりを告げます。

と言っても、手段のための目的から、目的の為の手段へ変わるだけですが。

大きな変化の一つでもあります。


感想御待ちしております。

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