心に酒を、姉妹の宴会
カワズの討伐を終え、生きと同じく二日をかけて村へと戻った一行は、強面のおじいさん店主の元へ到着した。
帰りの道で水蝗を見つける事は少なかった。危険が去った事を察し森に戻ったのか、また別の場所に移ったのかは定かではないが、村の水穂への被害は格段に少なくなっているようだ。
元々水船葛の花を食べていたがそれが食べれなくなった代わりに、同じく水分量が多い水穂を食べていたのだが、魔物にも食の好みのような物が存在する。
食物連鎖の崩れた理由、それを突き止めない限り、また同じような被害が出る可能性もあったが、今は一先ずの安息を手に入れるだけで十分。
「店主さん、証拠としてカワズの核を持ってきましたが。いらないですよね」
主の核は無残に斬り裂かれ、肉の塊と化していた。
倒した証として持ってきたが、正直今すぐ捨てたい気持ち悪さだ。
「早かったな、それはこっちで貰うよ。スライムの肉は珍味だからな」
「うえぇ、おじいさんそれ食べるの?」
店主が受け取った肉を見ながらトゼルが舌を出す。
見た目だけで言えば巨大な肉団子だが、元の姿を知っている三人は眉をひそめる。
「よかったら食ってみるか?酒と合うぞ」
不敵に笑う店主の言葉に真っ先に反応したのはトゼル。
「ほんとに!?お酒飲めるなら何でもいいわ!」
そんな彼女の反応に溜息を吐くヌエ。
「トゼル、反省の色が足りないのではないか?」
「それはそれ、これはこれ。ね!お姉様いいでしょう?」
「今日はもう遅いですし、出発は明日ですね。旅の途中は飲む暇ないですし、今日だけですよ?」
そう言って片目を閉じてウインクしたエリスに抱きつき、大喜びのトゼル。ヌエは少し腑に落ちないようだったが、エリスの言う事ならと了承したようだ。
この村に宿は無い、店主の好意で一日だけ納屋に泊めてもらう事になり、その日は宴会が始まった。
実はトゼルの買っていた酒樽が一つ余っていたのだが、馬車に乗せるにはスペースを取り過ぎるし、重すぎると言う事で、全部飲んでしまおうと言う事になったのだ。
容量で言えば70リットル弱、18ガロン。
「ぬぅ、これは何とも。芳醇な香りがたまらんな」
「お酒って初めてですけど、美味しいですね」
「ちょっとぉ、二人とも強すぎでしょ・・・」
樽一つ、その半分を飲み終えた時、ヌエは変わらぬ表情で煽り、エリスは少し頬が赤くなりながらちびちびと、一方トゼルはテーブルに倒れていた。
酒は好きでも強くはない。とは言ってもすでに4リットルは飲んでいるのだから、耐性としては十分にあるはずだ。
少しづつとは言えエリスも4リットル以上、ヌエに至っては一人で20は飲んでいる。
それでこの状況の差が出ているのだから、酒の強弱とは恐ろしいものだ。
「それに、カワズの肉って面白いです。コリコリした歯触りが面白いです」
「うむ、初めて食べたが案外イケる物ですな」
「美味しいのはいいんだけどねぇ、うっぷ。やばいわ」
ついに抑えきれなくなったのか、口を抑えて動きを止めるトゼル。なんとか抑えてはいるようだが、これ以上飲むのは難しいようだ。
「わあしも、眠くらってきあしたでう」
「姉者も、無理はなさらぬように。酒は程々が一番ですよ」
「そぅしまふ。ふぁぁ・・・」
欠伸を終えると、そのままの体勢で目を閉じて寝てしまうエリス。
ヌエはスッと立ち上がると、エリスを抱えて納屋へ連れて行き、布団をかけた。
あどけない寝顔は、ヌエを超える武術と、トゼルを超える魔法を持つようには見えない、女の子だ。
エリスを寝かせて戻ってくると、風の当たる窓辺でトゼルが仰向けに倒れて眠っていた。気絶していたと言った方が正しいのかもしれない。
酒はまだ半分以上残っていたが、流石のヌエも全てを消費できない。
どうしたものかと悩んでいると、キュウが樽を引っ掻いている姿が見えた。
「キュウ殿、一体何を?」
キュウは一度だけヌエを見ると、また樽に向かって傷を付け始める。
しばらくその様子を眺めていると、一段落したのか、キュウの動きが止まった。
時間は深夜の2時、店主も眠りに着いた時間だ。周りにヌエしか居ない事を確認すると、魔力を流す。
樽の中で魔力が暴れ出し、僅かに光ったかと思うと、その中身に異変が起きる。
まだ半分以上残っていたはずのお酒は無くなり、白く濁った結晶だけがその中に残されていた。
キュウは魔術式を爪で掻き消すと、樽の中には入り、出来上がった結晶を飲み込むと、何事もなかったかのように納屋へと向かって歩き出した。
「ぬぅ、もう一杯くらいは飲みたかったな」
ヌエもどちらかと言われれば酒は好きだった。無くなった物は仕方ないと、キュウの後を追い納屋へと向かうのだった。
キュウが行ったのは魔力凝縮。簡単に言えば魔力回復薬の生成だ。
この世界の酒には大量の自然魔力が含まれている。魔族はアルコールによって酔うのではなく、魔力によって酔うのだ。
もちろん飲み過ぎで魔力過多となって死に至る事もあるのだが、よほどの量を飲まない限りは大丈夫だ。
固有魔力の高いエリスは酒の耐性が強いし、爬魔族は固有魔力を蓄える魔袋という特殊な器官が身体に備わっている為、酒を飲んでも滅多に酔わない。
妖魔はその特性上酒に弱いはずだが、トゼルはその中でも強い方だろう。
つまりキュウは、凝縮した魔力の結晶を体内に取り込み、もしもの時の緊急燃料を手に入れた訳だ。
因みに、魔国は酒で魔力を回復する習慣はあっても、この生成法は知らない。
結晶化させる段階で魔術式を刻み、形状を維持させる技術など在り得ない筈の物だ。
だからこそ、キュウも魔術の適性が低いヌエの前でのみこの術式を使用した。
着実に以前の力を取り戻しつつあるキュウだったが、当分はこのままの姿でいいとも思っているのだった。
何もできないこの身体だからこそ見えてくる、この世界のありのままを感じる為に。
翌日村を出発した一行は、ヌエとキュウ以外が二日酔いという悲惨な状況だったが、運良く魔物と出会う事もなく、無事にその始まりを迎えたのだった。
注意。お酒は20歳になってから!
この世界でのお酒は回復薬的な物ですし、明確な法律も存在しませんが。
現代社会(日本)においては法律が存在しますので、未成年者の飲酒はダメゼッタイ。
ただ、お酒というのは想像の終わりのような物で、どうしても登場させたかったんですよね。
飲んで潰れて頭が回らない、想像の欠片も見えない状態だからこそ、その先が生まれるのではないか。
想像にとって酒はゼロ地点である。なんて酩酊。
感想待ってるわよぉ。




