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契約魔導師のレシピ帖  作者: タキ マサト
二章 シルニキの拘束

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28話 制御


 私の視線の先に、冷たく光るセミオートの魔導銃があった。

 確かな存在感を放つその銃の構造の講義を、イリアから受けていた。

 資材部の地下、射撃練習場に私たちはいた。


 イリアは手慣れた手つきでスライドを引き、安全バーを外した。

 そのあとで安全バーを戻し、スライド上部後方をしっかり押さえ銃口を逸らしたまま、私の手元に銃把を向けた。


「やってみろ」

「はい」


 見よう見真似でスライドする。

 とてもイリアのようには動かせない。


「魔導師が使う魔導銃は、魔導を込めて撃つ——」


 魔導銃の手解きを受けているとき、刻印魔導師の紋章をつけた魔導師が弾を持って現れた。


「イリア師。闇魔導を刻んだ弾だ」

「さすがはセレブロ師、早かったな。……視界をこれで奪うんだな?」


 セレブロは、弾をじゃらりと鳴らした。


「視界だけじゃあない。天地も狂わせる」

「持続時間は?」

「魔導拒絶反応によるが、理論上、魔熊だったら二分だ」

「完璧だ」

「ああ、完璧だ」


 二人はにやりと笑った。


「これと魔導素中和弾があれば、魔熊も縛れるな」

「魔狼だったら、これだけでいける」


 イリアの表情が、一瞬にしてハンターの顔つきになった。

 

「今すぐにも、試したいところだが……」


 そして私を見る。


「まずはヴェーラには、催涙魔導弾を撃てるようになってもらおう」

「……はい」

「人を殺傷せずに制圧できる」

「!!」


 人? 人に撃つ?


「部長から話は聞いただろう?」

「……はい」

「軍も何をしてくるか、分からん」

「……」


 禁忌に触れた軍、所長を呼び戻したい軍……

 軍人に本気で襲われたら、為す術もなく殺されてしまう。


——でも、人に銃を向けるなんて……


 私はセミオートの魔導銃に目を落とした。


「殺傷能力はない、そのときは気兼ねなく撃て」

「……はい」


 とは答えたものの、銃を持つ手が震えた。


「殺すな。拘束するんだ」

「! ……はい」

「契約局は”殺す組織”じゃない。”縛る組織”だ」

「分かりました!」


 その言葉に力が入る。

 前を向いた。


「まずは、この普通の弾で練習だ」

「はい」

「まずは、銃口の向きだ。人に向けるな、常に周囲を確認しろ」


 イリアは淡々と、だが一語一語に重みを込めて言った。


「利き手は引き金、左手で魔導を流し込む——それでなければ魔導弾の効果は出ない」

「はい」


 スライドを引くと金属の低い音が響いた。

 イリアがそっと私の手を正しくセッティングする。

 私は銃を構える。


「引き金に指を置くのは、撃つと決めた瞬間だけだ。反動は思ったより強い。腰を落として、視界を一点に絞れ」

「はい」

「左手に魔導を通すことで、普通の弾でも威力を発揮する」


 私は息を整えた。

 狙いを定めていくうちに、周囲の音が消える。

 銃口の先のターゲット板が、照準と呼吸のはざまで揺らぐ。


 その状態で左手に魔導を通す。

 一キロの重みが、腕にじわじわ食い込む。

 引き金が引けなかった。


「ふーっ」


 張り詰めていた息が苦しくなって、吐き出した。

 銃口が下を向く。


「ゆっくりでいい」


 イリアが後ろから優しく言った。

 私は深呼吸を一度して、また構えた。

 左手に魔導を通す。


 制圧するためだ。

 私は決意した。


「撃ちます」


 引き金を引く瞬間、昨日のBー88の顔が思い浮かんだ。


 左手に流した魔導が、ぶれた。


パン!!

……ダン!!


「きゃ……」


 乾いた音が地下の射撃場にこだました。

 手首に強い衝撃を受けたあと、体ごと反動で後方に持っていかれた。

 弾はターゲット板にかすりもせず、火花を散らし壁に大きな弾痕を残した。


「さすが、魔導係数11を切るだけはある……」


 衝撃で倒れ込む私を、イリアが後ろから支えた。

 火薬の匂いが漂った。


「反動を受け止める姿勢を忘れるな。踏ん張りが命中率を左右する」

「……はい」


 魔導を込めた弾の威力はすごかった。

 魔導灯がクレーターのような着弾点を照らした。 


「……魔導防御が……弾けた……すごいな!」


 イリアの声が一瞬、はずんだ。


——でももし、あれが人に当たったら……

 息を呑んだ。


「もう少し魔導を抑えていい」

「はい」


 私は両足を踏ん張り、腰を落とした。


 集中する。

 銃を把持する右手と左手に流した魔導の感覚が、研ぎ澄まされていく。


 そして魔導を抑える。

 でも、一度流した魔導は止まらなかった。


「……っ」


 え? こんな流れじゃ——


「撃つな、ヴェーラ——!」


 イリアの声が遅れて届いた。

 引き金が落ちた。


——轟音、次いで射撃場が揺れた。


 爆ぜるような衝撃が腕を突き抜け、視界が白く弾けた。

 ターゲット板は跡形もなく吹き飛び、奥の防壁に黒い焦げ跡が円状に広がった。


 耳鳴り、焦げた匂い、震える銃口。


 気づくとイリアの腕の中にいた。

 そして、腰が抜けたように崩れ落ちる。

 手から魔導銃が転がり落ちて、金属音を立てた。


「嘘だろ……」


 呆然としたイリアの声が頭の上で響いた。


「ヴェーラ……立てるか?」

「……はい」


 立ち上がったが、すぐにふらつく。

 イリアが後ろから支えた。


「おいおい。爆裂魔導弾でも、ぶっ放したか?」


 音を聞いたセレブロが上から降りてきて、二つのクレーターを見て言った。


「いや通常弾だ……」


 イリアが首を振った。


「マジかよ。……ヴェーラ師、顔色が悪いぞ」


 セレブロが私を見て、眉を顰めた。


「大丈夫です……」

 とは言ったものの、放心状態だった。


 なに……あれ。

 私が、やったの?


 床に転がるセミオートの魔導銃を見た。


——怖い……


「少し、休もう」

「……はい」


 私はベンチに座った。


「これは補修が必要だな……」


 セレブロがため息をついた。

 イリアが並んで座り、深呼吸をした。


「危険だが……魔導銃は必要だ」

「……はい」

「休憩して落ち着いたら、魔導は流さずに撃ってもらう」

「え?」

「まずは、射撃に慣れてからだ」

「はい……」


 まだ両手はジンジンしていた。

 深呼吸をして、落ち着かせる。


「大丈夫だ。外では催涙魔導弾しか持たせない」

「……分かりました」

「殺傷能力は、……ないはずだ」

「……」


 本当に……?


 イリアは自信なげに言った。

 紅茶で一服したあと、また射撃訓練をすることになった。

 

「出来るな?」

「はい。やります」


 また銃を手に持つ。

 あの衝撃を思い出す。


「大丈夫。あれだけの衝撃はもうない」

「そう、ですよね」


 イリアの指導が始まる。


「作動音を聞け。異音は故障の前触れだ。慌てず規則に従え」

「はい」

 

パン!


 銃口が跳ね上がり、弾はターゲット板のはるか上を通過した。


「グリップが甘い。もっと絞るように」

「はい」


パン!


「当たらなくて良い。まずは基本姿勢だ」

「はい」


パン……






   *






「まあ、今日はここまでだ」

「……はい」


 イリアが終了を告げた。


 やっと、終わった。

 緊張の連続だった。


「まだ、実戦では使えないな」

「……はい」

「しばらく毎日、訓練だ」

「え……?」


 頭がくらくらした。


 魔導を流しっぱなしの私の左手は、悲鳴を上げていた。

 昨日、八十八人の蛮族の契約を施し、午前中は射撃訓練。


 明日からも……?


 もう午前中だけで疲れ切っていた。


 でも、やらないと。


 あの魔導銃を制御できないと、また魔狼や魔熊に襲われたとき、今度こそ死ぬ。


「分かりました。やります」


 私は力強くうなずくのだった。


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