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離婚の理由は  作者: @眠り豆


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第四話C R々那

 一流店のナンバーワンホステスだったという母がA社社長に囲われていた家には、多くの金回りの良さそうな男が訪れた。

 だれがR々那の父なのかは知らなかった。

 たぶん全員違うのだろうと思いながらも、R々那は男達にパパと呼びかけて金をせびった。金が欲しければそうしろと、母に言われていたからだ。


 母はナンバーワンホステスだったころも、そうでなくなってからも、引き寄せた男達から金を搾り上げ、同時に得た情報を流すことで株価を操作して稼いでいた。

 けれど、その金をR々那のために使うことはなかった。

 いや、最低限の面倒は見てくれていた。そうしなければR々那の父だと思い込まされている男達に、自分の渡した金はどうなったんだと問い詰められる。


 R々那の母はホストに貢いでいたのだ。

 店を辞めたのはR々那を産んでA社社長から継続的に金を搾り上げられるようになったからだけではなく、その男と過ごす時間を確保したかったのもあったのだろう。

 金蔓との鉢合わせを恐れたのか、母は本命を家に招くことはなかった。


 R々那に会わせたこともない。

 娘の口から金蔓達に真実が漏れるのを恐れて、というよりも、R々那が自分より若かったからだろう。恋敵になるかもしれないと恐れていたのだ。

 本命の所属するホストクラブで、若い女の相手をさせられていた彼を金で呼び寄せたと自慢していたこともある。


 会ったことはないものの、R々那は母の本命の顔を知っていた。

 母は彼とのツーショットをスマホの待ち受け画面にしていたからだ。

 女から金を巻き上げるだけのゴミムシのくせに、どこか人の良さそうなお坊ちゃんめいた顔の男だった。裏社会の人間が礼儀正しいのと似たような感じかもしれない。


 その男は、雇われホストから店持ちのオーナーになるべく母よりも年上の女とイチャついていたときに、ほかの女に刺されて死んだ。

 A社社長の前妻が亡くなったのは、それからすぐのことだった。

 愛する男がいないなら、せめて金と地位、と思ったのだろうとR々那は考えていたのだが、異母姉ということになっていたS織の婚約者M臣と出会って察した。


 母が本当に欲しかったのはこの男(M臣)、いいや、この男の父親だったのだと。

 だから寝取ってやった。

 娘を(かえり)みない母を恨んでいたからではない。これから老いて男から相手にされなくなる女なんてどうでも良いけれど、他人のもの、他人が欲しがっているものを奪い取るのは楽しかった。


あの莫迦(M臣)に婚約破棄を宣言させたときは本当に楽しかったなあ。あの女(S織)もババアも豆鉄砲食らった鳩みたいな顔しちゃって)


 M臣がなかなか婚約破棄に踏み込まなかったので、ほかの男を誘惑して妊活しなくてはならなかったが、それだけの価値はあったとR々那は思っている。

 しかし、その後が良くなかった。

 結婚式でM臣の母親、R々那の母の本当の恋敵が暴れたせいですべてパーだ。M臣自体は惜しくはない。婚約破棄させた時点でこのゲームのトロフィーは得ている。


 A社社長の種ではなかったR々那は家を追い出された。

 復讐に燃えていた母は、馬脚を現して逮捕されてしまった。

 妊活相手の家を回っても、最初から家庭を壊したいと思っていない――M臣に密告しない(チクらない)だろう人間を標的にしていたので受け入れてはもらえなかった。多少口止め料をもらえたくらいだ。


 最終的に、R々那は自分の教育係をしていたA社の社員Y嗣のマンションを訪ねた。

 ほかの男のところはもう回ったのだ。

 そのうち口止め料のお代わりをもらいに行く予定だ。間を空けないと追い詰めてしまう。逆切れされても困るのだ。


 R々那はY嗣をあまり気に入っていない。

 大柄な彼は古い感じの男前で、最近のイケメンとは違った。

 それにほかの男達は家族がいないときなら家に入れてくれたのに、Y嗣はそれだけは拒んだ。普段妻と寝ているベッドで寝取れなかったので、トロフィーをもらい損ねた気分なのだ。とはいえ、背に腹は代えられない。


 マンションエントランスでインターホンを鳴らして、R々那はY嗣を待った。

 妻がいないらしいのに、彼は今日もR々那を部屋に招こうとしない。

 体調が悪そうなのに、わざわざ降りてくるというのだ。


(たっぷり搾り取ってあげなくちゃね。家族に思い入れが深いみたいだし、アタシの子が自分の種だと思わせたら、どれだけ出してくれるかな?)


 R々那は知らなかった。

 Y嗣が精子を失っているということを、彼にとってそれが絶対に明かしたくない話だということを、彼がなによりも役立たずと言われたくないと思っていることを。

 そして、もし彼が熱で弱り切っていなければ、遺体となって転がるのは自分のほうだったということを、R々那は知らない。

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