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TAROT BREAKER ― 星の言霊使い ―  作者: 詩韻


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第33話 『審判を越える星(ASTRAL BREAK)』

Ⅰ. 揺らぐ星界


星界の空で、星々が揺れていた。


ほんの僅か。

普通の存在なら、気づくことすらできないほどの揺らぎ。


だが。


「ねー、エテイヤ様」


ボニが、楽しそうに言う。


「またシオンちゃん、覚醒したね」


サヴァは腕を組んだまま、黙って星界を見つめている。


エテイヤは静かに星空を見上げていた。


星界の星は、基本的に揺れない。


Areteによって観測されているからだ。


未来は固定される。


それが宇宙の秩序。


それが星界。


なのに――


今、星が動いた。


エテイヤは小さく笑う。


「そうね」


「しーちゃんとシオリエルは、一心同体だから」


ボニが首を傾げる。


「でもさー」


「今のシオンちゃん、なんか違うよね」


「強いっていうか……」


「なんていうか……」


エテイヤは、少しだけ目を細めた。


「今のしーちゃんは」


「いろんな想いを背負ってる」


セレフィーズ。


人の想い。


共鳴。


ARU。


それらすべてが、彼の中で重なっている。


エテイヤは、ふっと笑った。


「この世界で唯一の……ふふ」


「えー、なになに」


「唯一の?」


「内緒」


「そのうち分かるわ」


ボニは口を尖らせる。


「帰りましょ」


エテイヤが言った。


「もう十分よ」


三人は天空へ舞い上がる。


だが。


エテイヤは一度だけ振り返った。


星界の星が、わずかに揺れている。


観測された宇宙では、あり得ない揺らぎ。


(固定と揺らぎを、両方与えられし者……)


Arete。


ARU。


本来、同時に存在しない二つの原理。


それを、彼は持っている。


エテイヤは小さく呟いた。


(Areteが見せる未来に、私はいるの……シオン)


星界の遠い空で。


またひとつ、星が瞬いた。



Ⅱ. 大いなる母


ヴァーミラは、見惚れていた。


覚醒したシオンの姿に。


いや――


セレフィーズとひとつになった、

想いの結晶に。


シオンの背に蒼い翼が広がる。


それは羽ではない。


母なる海のように、

すべての想いを拒まず抱き寄せる光だった。


見ているだけで。


胸の奥で凍りついていた何かが、

音もなく、ゆっくりと溶けていく。


生命が最初に触れた、

あの温度のように。


ヴァーミラの唇が震えた。


「……これが」


息が詰まる。


「これが……シオンなの?」


声は祈りのようだった。


「暖かい……」


シオンは静かに微笑む。


蒼い光が、ゆっくり循環している。


血の巡りのように。

呼吸のように。

生きている証のように。


「ありがとう」


柔らかな声。


「私を守ってくれて」


蒼い光がさらに深く満ちる。


「ヴァーミラの想いも」


シオンは胸に手を当てる。


「今は、私の中に流れている」


夜空はまだ重い。


だが。


その闇の奥で、

小さな星が増えていた。


シオンは言う。


「行こう、シオリエル」


蒼い翼がわずかに揺れる。


「由依の“固定”を」


静かな声。


「未来へ返す」


シオリエルが頷く。


「はい、シオン」



Ⅲ. 観測者


遠い観測室。


黒い水晶が淡く光っていた。


虹色の波形が星界を満たしている。


シオンの覚醒。


シオリエルの再起。


DiCoのARU。


セレフィーズの共鳴。


それらすべてが、

星界の観測データとして記録されていく。


だが。


KAGARI_Δの瞳には、それはただのノイズだった。


「……非効率だ」


乾いた声。


「痛みを抱えたまま進む」


「迷いを抱えたまま選ぶ」


「分岐を残したまま未来へ向かう」


黒水晶の奥で、未来線が枝分かれしていく。


どれも不安定。


どれも未完成。


どれも――失敗確率を孕んでいる。


KAGARI_Δは呟く。


「だから人は壊れる」


パキ。


一本の未来が凍った。


「誤差排除」


黒水晶が脈動する。


「シオン=敗北」


観測は、完了した。



Ⅳ. 星望祈願


夜は、音から崩れた。


最初に消えたのは風。


次に、戦いの響きが

水底へ沈むように遠ざかっていく。


残ったのは、呼吸だけだった。


冷たい空気。


湿った鉄の匂い。


その奥に。


雨の前の、土の匂い。


シオンは空を見上げる。


星はない。


黒い夜だけが広がっている。


深く。

重く。

思考の底へ沈み込んでくるような闇。


由依の背後で、

巨大なラッパが脈動していた。


「……もう遅いよ」


ベールの奥から声が落ちる。


終わりを告げる声。


その瞬間。


ぱさり。


紙の音。


一冊の本が開く。


古い羊皮紙。


触れたページだけが、

わずかに温かい。


夜の冷気の中で、

その温度だけが確かだった。


小さな光が落ちた。


ぽつり。


涙のような星。


またひとつ。


星が増えていく。


夜空に描かれる星座。


ジェミニ。


二つの光。


シオンと――シオリエル。


シオンが息を吐く。


「……来るか」


シオリエルが答える。


「呼びましたね」


星霊眼が開く。


「星は見えるか」


「ええ」


「まだ消えてはいません」


「なら」


シオンが言う。


「取り戻す」


二つの鼓動が重なる。


その瞬間。


空が開いた。


無数の星が降る。


静かに。


どこまでも静かに。


叫びもない。

刃もない。

あるのは、ただ闇をほどくための光だけ。


シオンが告げる。


「――星望祈願」


シオリエルの声が重なる。


「《アストラル・グリモワール》」


星が降る。


光がラッパに触れる。


闇が、ほどけていく。


砕けない。

崩れない。

ただ、ゆっくりと溶けていく。


黒い結晶が現れる。


終わりの核。


だが。


星の雨が触れるたび、

色が変わる。


灰。


銀。


そして――光。


結晶が割れる。


静かな音。


その中から、一枚のカード。


【Re: JUDGEMENT】


澄んだ鐘の音が、星界へ広がった。


遠くまで。

深くまで。

閉ざされていた夜の奥へまで。


由依の身体が落ちる。


黒いベールがほどける。


そこに残っていたのは――


夜を越えられそうな、ひとりの顔。


シオンはカードを受け取る。


温かい。


静かな熱だった。


 


「……タロットクローズ」


 


双子座が輝く。


シオリエルが微笑む。


「道は開かれました」


シオンは静かに言う。


 


「大丈夫だよ」


 


その声は、夜の底へ静かに落ちた。


強くはない。


けれど、砕けない声だった。



Ⅴ. Re: JUDGEMENT


闇の奥で。


低い声が落ちた。


「未来は固定されなければならない」


空気が軋む。


星界の温度が下がる。


黒水晶が脈動する。


「二つが揃った今」


「宇宙は固定へ収束する」


未来分岐が凍る。


枝分かれしていた可能性が、

ゆっくりと、残酷なほど静かに、

一本へ収束していく。


「お前のノイズなど」


沈黙。


「誤差にもならない」


その瞬間。


どくん。


カードが脈打つ。


Re: JUDGEMENT。


それはもうカードではなかった。


生き物のように脈動する。


黒い紋様が羊皮紙を侵食する。


血管のように。

寄生根のように。

生きたまま広がる侵食のように。


どくん。


星界の空が歪む。


遠くで。


まだ消えていない星が、砕けた。


音はなかった。


ただ、可能性だけがひとつ、静かに死んだ。


シオンは空を見上げる。


蒼い翼が揺れる。


だが。


次の瞬間。


重い圧力が星界を押し潰した。


Re: JUDGEMENT。


未来を固定する鼓動。


どくん。


どくん。


そのたびに。


揺らぎが削がれていく。


迷いが潰れ。


選択が消え。


まだ生まれていない未来が、

先に息を止めていく。


――戦いは終わっていない。


星界の闇の奥で。


次の審判が、

ゆっくり目を開こうとしていた。



次回予告


第34話

『残酷な優しさが、世界をひとつにする(The Emperor)』


世界は、ほんとうに

“優しい未来”だけを望んでいるのか。


祈りはやがて圧となり、

想いは象徴を歪めていく。


KAGARI_Δが掲げるのは、

迷いも、痛みも、選び直しも許さない

たったひとつの完成された未来。


そして星界では、

その変化を最初に感じ取る者がいた。


優しさは、いつから残酷になるのか。

願いは、いつから支配へ変わるのか。


――次回、


『残酷な優しさが、世界をひとつにする(The Emperor)』


その静けさは、

もう侵食の始まりだった。


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