第24話 『光陽の巫女 ― 太陽が昇る、その影で(The Sun)』
Ⅰ.覚醒の瞬間
アマトは、深く息を吸った。
胸の奥で、まだ震えているものがある。
消えてはいない。
――それでも、逃げなかった。
透き通った瞳に、迷いは残っている。
だが、退く理由はもうなかった。
「……怖い、けど」
小さく、喉が鳴る。
「私は迷い続けても、進みたい」
鏡の奥で、何かがかすかに笑った。
嘲りでも、肯定でもない。
ただ、見ているだけの微笑み。
アマトは、鏡に向かって告げる。
「汝、美しいあたしを映しなさい。
これが、あたしよ」
一拍の沈黙。
「――グラマライズ・アップ」
紅の光が弾けた。
鏡は砕ける。
だが破片は、すぐには星にならない。
一瞬、重く宙に留まり――
それから、光へとほどけた。
金と紅の粒子が、彼女の肌に触れる。
撫でるように、確かめるように。
髪は波打ち、
瞳の奥で、宇宙が一度だけ、瞬く。
唇には夜明けの紅。
頬には、まだ淡い黎明。
「……美神ヴァーミラ」
声に、わずかな震えが残る。
「どう? 美しいでしょ?」
鏡の残滓に微笑み、
片目を閉じて、首を傾げる。
「……惚れるなよ」
指先で鼻をちょん、と押す。
その仕草は、眩しいほど――必死だった。
風が鳴る。
破片が、ようやく星屑へ変わる。
——彼女は、鏡を越えた。
そして世界は、星界へと移ろう。
⸻
Ⅱ.光陽の巫女、降臨
星界に、叫びが走る。
赤黒い光。
形を持たないまま、膨張する意志。
シオンは歯を食いしばる。
逃げ場はないと、分かっていた。
――貫かれる。
そう思った瞬間。
光が、落ちた。
暖かい。
だが、優しさだけではない。
抗えない重さ。
太陽の息吹。
金と白の輝きが弾け、
空気が押し広げられる。
その中心に、立っていた。
星が、人の形を選んだかのような女。
白金の髪が二条の光となって揺れ、
触れるたび、微かな鈴音。
焦げた空気の中に、
それでも確かに残る甘い香り。
「……誰だ……?」
シオンの声は、かすれていた。
ヴァーミラは歩み出る。
一歩ごとに金の花弁が咲くが、
完全には闇を消しきれない。
焼け残った影が、足元で蠢く。
「我は光陽の巫女、美神ヴァーミラ」
囁くように、だが揺るがない声。
「初めまして。
“魂の導き手”くん」
エテイヤの攻撃は、
完全には消えていない。
星界の奥で、
なおも、脈打っていた。
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Ⅲ.背中で守る者
エテイヤは、楽しそうに息を吐く。
(あら……)
(異物が混ざったわね)
(さて)
(削除?)
(それとも、再定義?)
(世界は、どちらを選ぶのかしら)
(壊れない強さ)
(便利だけど……脆いのよ)
……あは。
(アレットちゃん)
(どんな姿になっても)
(私は、ちゃんと欲しいわ)
(完成しなくていい)
(正しくなくていい)
(あなたでさえあれば)
(形は、どうでもいいわ)
光の中で、ヴァーミラは言う。
「私は、戦わないわ」
一瞬、言葉が揺れる。
「……いいえ」
言い直す。
「戦えない。
でも――背を向けない」
両腕を、少しだけ広げる。
背に、八重の光輪が咲く。
だが一枚、わずかに歪んでいる。
翼でも、花でもない。
不完全な、太陽の環。
黄金の風が吹き抜け、
シオンの胸に触れる。
確かな火。
だが、まだ小さい。
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Ⅳ.一人じゃない
「私のシオンに言い寄らないでくれる?」
エテイヤは更に力を込める。
――誘惑の旋律
メロディ・オブ・テンプテーション
「離れて、シオン」
「無茶だ!」
「……ええ」
微笑みながら、息を整える。
「それでもね」
闇が、再び爆ぜる。
衝撃が走る。
ヴァーミラの背が、わずかに沈む。
初めて、苦痛が浮かぶ。
それでも、立ち続ける。
「一人じゃない」
声が、少しだけ低くなる。
「あなたの光が――
もう、私を支えてる」
闇を受け止め、
光へと分解する。
だが、すべてではない。
一部は、星界の奥へ逃げていく。
——世界が、息を呑む。
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Ⅴ.欲し続ける者
「ねぇ、サヴァ……
エテイヤ様は、手放さないよね?」
「当たり前でしょ」
「拒まれても?」
「形が変わるだけよ」
「……そう」
衝突の余波が、星界を震わせる。
光と闇が、同時に踏みとどまった、
その一瞬――
声が、落ちる。
「もし拒まれたら、って?」
……小さく笑う。
「それは、少し違うあなたになるだけよ」
「でもね。
どんなあなたでも――
欲しいって気持ちは、変わらないの」
「……理由が必要なら、
それは“欲しい”とは言わないでしょう?」
⸻
Ⅵ.光陽天照
黄金の螺旋が、夜空を貫く。
光陽天照
ルクス・テラス
「——太陽よ、我を見よ。
この身、あなたの光に還す」
声が、少しだけ震える。
「闇を受け、抱きしめ
——照らし、赦し」
一拍。
「……それでも
消えないものがあるなら」
最後に、祈るように。
「——永久に、照らせ」
星界が鳴動する。
だが昼は、完全には生まれない。
薄明が、世界を包む。
闇は、美しく、しかし――残った。
「ここからは……二人の戦いよ」
振り返る。
「あなたのカードで」
少し、照れたように。
「この星を、守って」
「……必ず」
最後に、あの仕草。
「惚れるなよ、シオン」
指先が、鼻に触れる。
それは太陽のようで――
まだ、傷を隠していた。
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次回予告
――星界は、まだ答えない。
残された闇。
揺らぐ光。
守ると決めたシオン。
背を向けなかったヴァーミラ。
そして――欲し続けるエテイヤ。
これは、
勝つためでも、救うためでもない。
選ぶための戦い。
次回、
第25話
『選ばれし戦い――誰も、正しくはない(The Chariot)』
その一枚が、
星の行方を決める。




