35話 嘘と本当
「そういえばどこに向かってるんですか?」
私は隊長に尋ねた
「あれ?言ってなかった?まぁ行けばわかるから」
「そうですか?」
町並みはいつもと変わらず、平和な日常が続いている
「望月、忘れるなよー。今平和なのは私たちが仕事をしたからだ
何も知らず暮らせることが、どれだけ幸せか
今のお前なら、分かるだろう?」
尾藤隊長が私に言った
「…はい!」
それを聞いた隊長は笑顔で頷いた
「それが分かっていれば、お前は強くなれるよ
早く成長して私を助けてくれよな」
そう言って再び歩き出した
そうして、一軒の店の前に着く
見た目は、ただの居酒屋のようで【水脈】と書かれている
「すいみゃく、ですか?」
「ははは!この店は【みお】って読むんだ」
隊長はそういって扉を開ける
中にはさっき別れた他の人達が席につき、待っていた
「みんな待たせたな!さぁ、はじめよう」
そう言って、隊長はグラスを手に取った
「若菜の歓迎、望月の扉、矢守の復帰!
祝いの開始だ!すべての敵を喰らい尽くせ!」
うおおおおおおお!と雄たけびと共に酒盛りが始まった
「あーね、そういうことー」
「おお!酒飲んでもええんか!?」
矢守さんは料理に、若菜さんはお酒に目を輝かせる
「ほら、あんたらもこっち来て飲みな
望月は、ジュースな」
そう言って、空いている席に隊長が座らせてくれた
「あ、ありがとうございます!」
私は隊長のグラスにお酒を注いで、自分のグラスを手に取った
「で、望月?月元の部屋壊したんだって?」
私は口につけていた飲み物を吹き出しそうになった
「いやいや、別に怒るとかじゃない。むしろ褒めてやるよ」
「いいんですか?隊長がそんなこと言って」
「もちろん大きな声じゃ言えないが、人の部下を勝手に呼び出した罰だ
何も言えやしないさ」
そう言って、グラスのお酒を一気に飲み干した
「で?望月はどんなギフトに成長したんだ?」
私はグラスを置くと、水を掬うように手で器を作った
その手の中に炎が起きる
「この炎は、怪我などを治すことができます
触っても熱くないし、火傷もしません
実際の炎のように熱くしたり、燃やしたりもできます」
それを聞いて、隊長の目が輝く
「へぇー!いいなぁ!
これは自分だけ!?それとも他の人にも使える?
あとあと!攻撃の炎と回復の効果は一緒に使えるの?
敵を回復させちゃったりしない!?」
隊長は普段とは別人のように目を輝かせながら、次々質問が飛んでくる
私が一つずつ答えていると、隊長の後ろにゆらりと影が立つ
「おいー!レイ!飲んでるか?飲んでないよな?もっと飲めよ!」
黒木副隊長がワインの瓶を尾藤隊長の口にねじ込んだ
「がぼぽ!?っはぁ!なにすんだよ!トウヤ!」
「はぁ?お前が飲んでないから飲ませてやったんだろ?
ほら、瓶が空だぞ。追加だほら飲め!」
そう言って副隊長が隊長の口に再び瓶を突っ込んだ
副隊長と目が合う
目で逃げろと言ってくれた
私は軽く会釈をし、矢守さんの近くまで逃げる
「いやー、大変だったねー
おつかれさまー」
料理を次々と口に入れながら矢守さんは笑った
「見てたなら助けてくださいよ」
「ここの料理ちょーおいしくてー
それどころじゃなかったんだよね」
矢守さんの前に空いたお皿が次々積みあがった
「料理だけやなくて、酒もええもんそろっとるで!」
若菜さんが日本酒をもって歩いてきた
「若菜おっさんくさーい」
「ええやん!日本酒が一番うまいんや!」
ここも騒がしくなりそうな予感がしたので静かに席を立った
「…で、こっちに来たって事ね」
そう言って名取さんがグラスに口をつけた
「騒がしいのは嫌いじゃないですけど、絡まれるとどうしていいか分からなくて…」
「酔っ払いなんだから適当に流しておけばいいんだよ」
そう言って私のグラスにジュースを注いでくれた
「名取さんて、何か大人の余裕がすごいですね」
「いやいや、僕より大人な奴はいるよ。そうだろ?宮村」
私は近くで飲んでいた宮村さんを見た
「…なんだよ?」
少し不機嫌そうに名取さんを睨む
「望月さん、宮村の事、苦手?」
「正直、少し…」
それを聞いて名取さんは少し笑った
「やっぱそうだよね。いやごめん、笑うつもりはなかったんだ
…宮村はさ、嫌われ役を買って出てくれたんだ」
「名取お前…!」
そう言って名取さんは串焼きを手に取った
「矢守が望月さんの教育係について、俺がチームを指揮するってなった時に
僕たちが宮村みたいになったら、望月さんは誰も頼れなくなってしまうからって
歓迎会で俺のイメージは悪いから今更だって、言ったんだ」
名取さんは串を一口かじり、お酒と共に飲みこんだ
「だから、あまり嫌わないでやってほしい」
「お前しゃべり過ぎだ!まだそんなに飲んだわけじゃないだろ!」
宮村さんが名取さんに飛び掛かり、口に料理を詰め込んだ
「正直宮村さんは、言い方も当たりも強い時はあるし、私の事も嫌いだと思ってました
けど、宮村さんなりに私を育てようとしてくれてたんですね
ありがとうございます!」
そう言って私は頭を下げた
「望月が、デレた!」
宮村さんの声ではっと顔を上げる
「お返しだ。これからもビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけ」
そう言って宮村さんはニッと笑った
それに釣られて私も笑ってしまう
「そのセリフ、宮村さんには似合わないですね!」
「確かに!」
「お前らなぁ!」
そう言って私と名取さんは笑い
それを見た宮村さんは少し不機嫌な顔をしていた




