29話 新世界
目が覚めると、ベッドで寝ている
ここは、見慣れた医療棟の一室だ
私が寝ているベッドの傍らには、宮村さんと名取さんがいた
「ここはどこだ?自分の名前が言えるか?」
宮村さんが聞いていた
「ここは、医療棟ですよね。名前は望月マリです」
私がそう答えると、宮村さんは何も言わず部屋を出ていった
「あの私、宮村さんに何か変なこと言いましたか?」
私が名取さんに尋ねると、名取さんは笑った
「宮村の事は気にしなくていい。君の無事が確認できたから帰っただけだ
でも、望月さんにも見せてあげたかったよ。あの宮村がめちゃくちゃ慌ててさ。
ほんと面白かったんだよ」
名取さんがそう言うと、部屋のドアが勢い良く開いた
「名取てめぇ!嘘言ってんじゃねぇ!」
それを見た名取さんが眼鏡の位置を直した
「廊下で立ち聞きしてるくらいなら、出てかなきゃ良かったんだよ
照れ隠しだろうけど、男らしくないぞ、宮村」
それを聞き、宮村さんは舌打ちをした
「改めて、君は無事、扉を開いたようだね」
名取さんが私に言った
「あの、扉って何ですか?」
「失礼、扉は業界用語だったね」
名取さんが改めて説明をしてくれた
「扉って言うのはね、僕たちみたいな対人戦を主に行うギフト持ちがなる、
一種の病気みたいなものさ
ギフト持ちが、ある程度、その、命を奪うと発症すると言われてる
ただ、発症する人はかなり稀なんだ」
名取さんが、少しうつ向いた
「それで、症状は様々なんだけど、
言動、行動の変化。戦闘行為への快楽、執着の増加なんかがある
今回の望月さんみたいにね」
私が、宮村さんを見ると、目を背けられた
「対処が遅れると、さっきの症状が定着してしまう可能性があったんだ
今回なんだけど、望月さんの指導係って矢守だよね
だから、その矢守に付いてるから矢守に似てきたんだろうって、
気付くのが遅れてしまったんだ…」
私は納得した。確かに最近矢守さんに似てきたと言われることが多かった気がする
「でも、扉も悪いことばかりじゃない。
乗り越えられれば、能力者としての格がひとつ上がる」
それを聞いて私は身体を確認する
「確かに、なにかできる気がします」
私がそう言うと、名取さんは笑った
「一応ここ病室なんや、
怪我人に長話したらあかんでー」
若菜さんが部屋へ入ってきた
「それじゃ、僕たちは帰るよ
望月さんはゆっくり休んで」
そう言って名取さんが立ち上がった
2人が部屋を出る時、宮村さんが少し振り返った
「間に合って良かった。
望月、早く現場に戻ってこいよ」
それを聞いた私は、驚いた
「み、宮村さんがデレた…!」
「てめっ!」
宮村さんが完全に振り返る
「冗談ですよ。ありがとうございました」
私が頭を下げると、
宮村さんは何も言わずに部屋を出て行った
「ほいじゃ、うちもそろそろ行くわ」
「ちょっと待ってください!」
私が呼び止めると、若菜さんは振り返った
「若菜さん、本っ当にすいませんでした!」
私が頭を下げると、
若菜さんは笑って私の頭をワシワシと撫でた
「うちの方こそ悪かった。
扉なんやったら、うちが気付かなあかんかった!
マリちゃんをあそこまでいかせたんは、
うちのせいでもある」
若菜さんが私に頭を下げた
「いえ、いえいえいえ!悪いのは私です!
頭下げないでください!
…それで、約束、覚えてますか?」
私がそう言うと、若菜さんが頭だけ上げて、
私の顔を見た
「私の事、教えるって言ったじゃないですか」
私はベッドから降りて、若菜さんの手を引いた
「矢守さんの部屋へ、行きましょう!」
私達は矢守さんの部屋のドアを開け、中に入る
矢守さんは相変わらず静かな寝息をたてている
「ここに来て、どないするんや?」
若菜さんが聞いてきた
「若菜さん、これから私が何をしても、
絶対に止めないでくださいね」
若菜さんが無言で頷いた
私は、両手を打ち合わせる
打ち合わせた両手に炎が灯った
「行きます!」
私はその炎をすくい上げるように持ち、矢守さんへと炎を注いだ
矢守さんの全身は、すぐに炎に包まれる
「何やっとるんや!」
若菜さんが駆け寄ろうとした
「止めないでと言ったはずです!」
それを私が止める
「大丈夫です。これは殺す炎じゃありません」
私がそう言うと、若菜さんは矢守さんをよく見た
「確かに、火は着いとるけど服も布団も、矢守自身も燃えとらん」
しばらくすると、矢守さんを包んでいた炎が静かに消えた
「ぅん…?」
矢守さんが体を起こし、大きく伸びをした
「あれ?二人ともどうしたのー?私に夜這い?」
矢守さんはそう言って首を傾げた
「なにがどうなっとるんや…
マリちゃん、しっかり説明してもらうで!」
若菜さんが私の肩を掴んだ
「なんかよくわかんないけどー、私お腹すいたー
若菜、なんかご飯ちょーだい」
その二人の様子をみて、私は思わず笑ってしまった




