26話 違和感
ルイが消えた後、私は訓練所を後にし、
医療棟へと向かった
ある一室のドアを開け中に入ると、
ベッドに矢守さんが眠っていた
普段の天真爛漫さは無く、穏やかな寝顔をしている
私は静かに近づき、
ベッドの横に用意してある椅子に腰を下ろす
近くで矢守さんの寝顔を眺め、ちょっとした好奇心から
矢守さんの頬を指でつついた
流石というべきか、矢守さんの頬は
ガラスのようにすべすべで、赤ちゃんの様に柔らかかった
思わず何度もつついてしまう
そんな事をしていると、部屋のドアが開き、
若菜さんが部屋へ入ってきた
若菜さんは私を見ると驚いた顔をして、すぐに厳しい顔付きになった
ツカツカと私に近づき腕を掴むと、
部屋の外へと連れ出される
若菜さんは、部屋を出た所で私の腕をじっと見つめた
「戻ってる、いや、また少し変わってるんか?」
若菜さんは私の顔をじっと見つめた
「うちのギフトな?うちは【観察】ゆーてるけど、
これは相手の情報が見れるんや、ざっくりカルテみたいなもんやな
そんで、それは滅多な事では変わらん
多重人格や妄想癖の強いのなんかは、1部変わったりするんやけど
マリちゃんは、この間、全部変わっとった
そんなん、完全に別人って事や
……マリちゃんは、何もんなんや?」
若菜さんは私を睨みながら言った
そんな若菜さんの手を私は笑顔で弾いた
「私は私、望月マリちゃんですよ
何変な事言ってるんですか?若菜さん」
私は笑顔でそう答えた
「うちは真剣に聞いとる。ふざけるんやない!」
若菜さんが私に強めに言ってきた
「別にふざけてないんだけどなー」
私はそう呟いた
「秘密は女の嗜みなんですよー?
若菜さんだって、言えない秘密の1つや2つ
あるんじゃないですか?」
私は若菜さんの顔を覗き込んだ
「うちは人に何かを隠すような生き方はしてへん!」
若菜さんはそう言い切った
「……マリちゃんは、うちに話す気は無いって事やな」
「話す気は無いってより、話せないが近いですね
私も、何が何だか分からないんで
でも、近いうちに少し分かりそうなので、
そしたら、話せるかもしれませんね」
私は笑顔で若菜さんにそう告げた
若菜さんは諦めたようにため息をついた
「なら、しゃーないか
でも、約束やで?絶対うちに説明してや?」
「理解いただき、感謝感激!
もちろん、その時は説明しますよー」
私はそう答えた
それを見た若菜さんはまた表情が曇る
「マリちゃん、ほんまに大丈夫なんか?
いつもと少し、いや、かなり喋り方ちゃうで
なんかあったんやないか?」
「…大丈夫ですよ、大丈夫です
また、矢守さんのお見舞い来ますね
今度は起きてる時に」
私は笑いながら医療棟を後にして、自室へと向かった
部屋に入ると壁に手を付きながらベッドへと歩く
途中、ゴミ箱に躓き、床に倒れる
ゴミにまみれながら、床に手を付き身体を起こそうとして
床に頭を叩きつけた
「うるさい、黙れ!」
私は頭を床に叩きつける
4、5回繰り返し、やっとベッドへと倒れ込んだ
私は望月マリ。私は望月マリ。私は望月マリ。
頭の中で反芻するうちに、意識が沈んでいく
気が付くと、目の前に誰かが立っている
笑顔が離れない
1歩、近づいてきた
気分が沈まない
また、1歩
早く戦いたい
私の目の前まで来た
誰かを、斬りたい
私の目の前に立ったのは、私
笑いながら、血に濡れた手を私の胸に置く
「私は、それが好きでしょ?」
私はベッドから跳ね起き、壁に頭を叩きつけた
「違う!私は!お前じゃない!」
声は笑いながら遠のいていく
帰ってきてから何かがおかしい
私が私でないような、気分と言動と行動が一致しない
私はため息をついた
「私、どうしちゃったんだろう?」
天井を見つめながら、なんとなくそう呟いた
再び意識は深く落ちていく
今度はさっきとは違う夢を見た
すごく、懐かしい様な…
「ねぇ、今日はどこ行くの?」
私がそう尋ねると、母が笑った
「今日はね、マリちゃんの誕生日だから、
プレゼントを買いに行くのよ」
それを聞いた私は、すごく嬉しくなる
「ほんと!?やったー!
あ!見て!お父さん、飛行機!」
私は空の飛行機雲を指さし、父に言った
「こら!お父さんの手を離しちゃダメでしょ!」
母が私を注意する
「ごめんなさーい」と私は父の手を握り直した
父は笑って私を見る
「ちゃんと謝れたから、ご褒美だ!」
そう言って父と母は私の手を大きく上げて、
私の身体は中に浮いた
「あははは!ねぇ!もう1回!」
父と母にねだると、ふたりはまた、
私の身体を浮き上がらせた
私は2人の手をぎゅっと自分の体に引き寄せた
「お父さん、お母さん、だいすき!」
私がそう言うと、ふたりはまた笑って
私はそれが嬉しくて
いつまでも、今が続けばいいと思った




