書籍第2巻、発売記念SS「クロト脱走? 追跡開始!」(前編)
今日も今日とて俺と美月と陽菜は、学校帰りに俺んちへと向かっていた。
「もぅ、たくみんってば~! ほんと、えっちなんだから~! えっちたくみーん♪」
俺の右隣を歩いていた陽菜がじゃれつくように、俺の腕をぺしぺしと叩いてくる。
「なんでそうなる!?」
「もぅ、拓海くんのえっち……」
すると左隣を歩いていた美月が、俺の制服の肘の辺りをチミっとつまんで、抗議するようにキュッと引っ張ってきた。
「だから違うからな? 陽菜があれこれ好き勝手に話を膨らませただけで、俺は無実だからな?」
「えー?」
「えー、じゃありません。こんな公共の場で男子にえっちなんて言ったら、俺は社会的に死んでしまうんだぞ?」
「あはは、たくみんってば大げさすぎー♪ ウケるー♪」
「死んじゃだめだよ、拓海くん」
なんて他愛もない話をしながら、俺んちの近くまで来たところで、それまで普通に話していた陽菜が突然、「あっ!」と鋭い声を上げた。
「うおぉあ!? びっくりしたぁ」
すぐ隣を歩いて俺は大きな声に驚いて、思わず身体をビクリとさせてしまう。
しかし俺を間に挟んで反対隣にいた美月はそうでもなかったようで、
「急に大きな声を出してどうしたの陽菜ちゃん?」
落ち着いた様子で陽菜に問いかけた。
美月の問いに、少し離れた民家の庭を指差しながら答える陽菜。
「見て見て、あそこあそこ! あれクロトじゃない?」
「えっ? クロト?」
「どこどこ?」
「ほらあそこ! ツツジの花壇の右端のあたり!」
陽菜の言った辺りを見ると、そこには1匹の黒猫が――『クロト』がいた。
『クロト』はこんもりと元気良く育ったツツジに顔や身体、尻尾をすりつけたり、地面に顔を寄せて鼻をヒクヒクとさせている。
「うわっ、クロトのヤツまた脱走したのか」
クロトは一度、俺んちから脱走を図ったことがあった。
(おかげで美月と陽菜の想いを知れたので、結果的には良かったのだが)
「脱走って。拓海くん、もしかしておうちを開けっ放しにしてきたの? ちゃんと戸締りしないとだめだよ?」
「そうだぞたくみーん。不用心だぞ~」
2人に「めっ!」されてしまった俺は、慌てて言い訳を始める。
「いやいや、してないから。俺は毎日しっかりと戸締りをして――たと思うんだけどな……? いや、どうだろう。もしかしたら二階の俺の部屋の窓の鍵が、開いていたかもしれない……ような?」
なにせ毎日のことである。
ほとんど無意識にルーティン化しているのもあって、今日やったかと改めて問われると、正直、記憶は曖昧だった。
だって日常のアレやコレやだぞ?
意識なんてしてないし、記憶にも残ってなくてしょうがないだろ?
「クロトって自分で窓を開けられるんだ?」
「見たことはないんだけど、時々、引き戸に爪を引っかけて自力で開けているから、同じ要領で窓も開けれなくはないと思う。鍵さえ開いていればだけど」
「へぇ、クロトって器用じゃん。ウケるー♪」
朗らかに笑う陽菜とは対照的に、美月はとても心配そうな顔をしていた。
「ねぇねぇ拓海くん、陽菜ちゃん。クロトが事故にでもあったら大変だし、早く連れ戻さないとだよ」
「おっと、そうだよな」
「だねっ。じゃあちょいと行きますかー」
陽菜の言葉に、俺と美月はこくんとうなずいた。
というわけで、俺たちは外に出てしまった『クロト』の回収作戦を始めることにした。
ネコタマ
黒猫を拾ったら俺んちが二大美少女の溜まり場になった。
書籍第2巻の発売記念SSです!
(既に発売後3か月以上が経過していますが……)
https://www.amazon.co.jp/dp/486716805X
書籍版はうなさか先生の素敵なイラストが満載です!
美月や陽菜、クロトのイラストがががが!?Σ(゜Д゜)
良かったら買ってくださいね♪




