097 死なないことを君に誓う
なにかが来ている? さっきカピートの外道を倒したばかりなのに?
「タイーシャ、しっかりして」
ミリットがらしくもなくタイーシャを心配する。つまり、異世界人には分からない“ナニカ”が起きている。おれの哲学じゃ思いもよらない苦難が待ち受けているのだ。
そんな中、エンバシーがゴクリと息を呑み込む。
「……。タイラーさん。すべて私の責任です」
「なにがだよ!?」
「天使を失った街を滅ぼすために、ブリタニカがとんでもない者を派遣してきたみたいです。そしてそれは私がいなければこちらを伺うこともなかった」
「……つまりは」ミリットも息を呑む。
「ブリタニカの“守護天使”バルブレアが派兵されました……」
またもや知らない単語が出てきた。けれどもう突っ込んでいる余裕もない。おれはエンバシーにひとつだけ訊く。
「ソイツを倒せばタイーシャは復活するのか?」
「すると思いますが……倒そうと思って倒せる相手では──」
「なら大丈夫だ。おれがなんとかしてくる」
笑みを浮かべ、気丈に振る舞う。
実際、天使とか神だとかにそう簡単に勝てれば苦労はしない。エンバシーとミリットのうろたえた態度からもそれは明らかだ。
だけど、いい加減学んだんだよ。この世界は勝てない者には微笑まないって。
「タイラー……」
「ミリー。絶対大丈夫だ。おれを、タイラントを誰だと思ってる? 何度も格上には勝ってきた。今回だってきっと大丈夫さ」
すでに異様な魔力を感じ取っている。“魔力が逆転している”の意味が分かるほどのめちゃくちゃな魔力だ。
「……。死なないでよ。アンタはいつも私たちを置いて傷ついて帰ってくる。誰よりも強気に振る舞って、いつの間にかどんどん成り上がる。それでも私は知ってる。怪物の陛下タイラントは虚像だってことを」
ミリットはとめどなくあふれる言葉を繋いでいく。
「誰よりも弱気でビビりまくってるってことを。だけど、そうするしかないって決めたら絶対に闘う。だからこれだけは誓って。神のいないこの国で、死なないってことを」
おれは苦笑いを浮かべ、すこし涙腺が緩んでいるミリットの髪に触れて宣言する。
「当たり前だ。誰が死んでやるかよ」
ここまで散々闘ってきた。ただの水気あるなにかからスライム娘になって、何度も苦しい思いをしてきた。
でも、それで良かったじゃないか。こんなに守るべき者がいるんだ。帰りを待ってくれている者がいる。それだけで充分幸せだ。
「行ってくる。タイーシャのこと、頼んだぞ」
異世界転生50日目15時45分30秒。良く晴れた日だ。泥臭い喧嘩なんてまるで似合わない。
だからスマートに終わらせよう。またみんなでくだらない遊びでもして盛り上がろう。
そう思い走り始めた矢先、携帯電話が鳴った。
『よォ。タイラー』
「小粋」
『例の聖女の魔力が消えてブリタニカの連中も勘づいたらしい。守護天使が来るぞ』
「知ってるよ。敵はひとりだけ?」
『ひとりだけだが……正直タイマンで決着つけるのは無理あるぞ?』
「だったらオマエらも付き合ってくれよ。仲間だろ?」
『当然だ』
ラスボス戦まであとすこし……!!
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