096 初耳学
「ミリー、タイーシャ。大丈夫か?」
倒壊した自宅だった場所の奥深くに、ミリットとタイーシャ、そしてエンバシーがいた。
「なんとか大丈夫、タイラー」
「えーっ!? ミリットちゃんが蔑称使わなくなった!?」
「なにかあったんですか!? ミリットさん!?」
「うっさい。呼び方なんてどうでも良いでしょ」
愉快な会話を繰り広げる少女たち。そんな中、エンバシーが怪訝そうな顔をしておれに話しかけてくる。
「タイラーさん、なんで魔力の流れが逆転してるんですか?」
そういえばクラリスも同じようなことを言っていた。でも魔力の流れってなんだよ。血液じゃあるまいし。
というわけで訊いてみることにした。人間は(見た目スライム娘)正直さが肝心だから。
「魔力が逆転してるってどういう意味なんだ? クラリスも同じこと言ってたけど」
エンバシーとミリットは目を合わせ、なに言ってるんだコイツ、みたいな表情になった。またおれなんかやっちゃいました?
「タイラー、アンタ本当に魔力を知らない」
「ブリタニカじゃ常識なんですけれどね……」
「仕方ねえだろ。おれ異世界人だし」
まるで当たり前のようにロスト・エンジェルスで活動しているが、おれはあくまでも異世界人だ。まあ昔の名前も思い出せないし親の顔すらも同様なんだけれどね。
「なら説明します」エンバシーが発言し、「魔力の流れが逆転してるってことは、そのヒトが神や天使の座に近づいたってことですよ」
「神や天使? そんなのがいるの?」
「ロスト・エンジェルス以外では普遍的な存在ですよ。ただこの国は天使を失った街と読めるでしょう? 国家そのものが神や天使による奇跡を否定してるんです。だから“聖女”だった私は迫害対象になってた」
おいおいおいおい。初耳学ばかりだわ。
まず、他の国には天使とか神様がいる? それって比喩的な表現でなく?
しかもロスト・エンジェルスって“天使を失った街”という意味なの? なんか変な名前しているなあとは思っていたけど。
でもミリットが頷いているってことは真実なんだろうな。なるほど。おれは天使になれるのか。天使に……。スライム娘なのに?
「よく分かんねえ……」
「要するに天使は魔術面において人間の上位互換ってこと。私もそれらは見たことはないけど」
ミリットはそう返事した。
「ンじゃおれはなんか強くなった的な感じなの?」
「そうでしょうね。ロスト・エンジェルスで魔力が反転してるヒトは珍しいようですし」
結局、感覚的な問題だ。おれはまったく強くなった気がしない。でも傍から見れば上位存在に匹敵する──すくなくとも魔力だけは対等に近い存在になってしまったことになる。
「ま、まあ。強くなれたんなら良かったよ。おれにはオマエらを守る義務があるからな──」
そうつぶやいた瞬間だった。タイーシャが倒れ込んだのは。
「──!? タイーシャ!?」
タイーシャが小声でなにかを言う。おれは彼女の声を訊くために伏せた。
「タイラー、なにかが、なにかが来てる」
こっからが長くなりそう……。
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