083 度し難い力
「おおおおお…………!!」
その身体から水分が凄まじい勢いで抜けていく。すべての水気が消えたとき、勝敗は決する。
おれは山櫻に背を向け、仲間たちのもとへ向かおうとした。
そのとき。
「──ぐぉッ!?」
背後からの一撃。おれの身体が崩れ去った。
なにが起きたのか分かっていないおれは、分裂した身体を集結させる前にその恐怖の象徴を見てしまった。
そこには、“明王”の炎だけが意思をもって存在していた。
「嘘だろ……」
喉が干からびた。魔力を全部放出して山櫻はミイラになったはず。それなのに、山櫻は死んだはずなのに、ただそこに意思があるのだ。
「オオオオオオ…………!!」
もはや言葉も話せない明王の憤怒の炎は、しかし明確な殺意をもっておれを焼き尽くそうと向かってくる。狂気すら覚える執念におれは震え、身体を集めることができない!! 殺される!!
そんなときだった。
「老いぼれが若い命を吸い付くそうってか? 冗談はその思考だけにしてくれ」
超巨大な火の弾丸が撃ち込まれたことだけはしっかり見えた。
テレビで見た男。いつだか会食した男。この国の頂点に君臨する男。
その傍らには銀髪の幼女もいた。タイーシャがつないだ命を持つ美少女が。
意思を持った火災のような山櫻は、その煽り文句のほうを振り向く。その瞬間には勝負がついていた。
なにが起きたのかさっぱり分からないほどの速度で老人の最後の灯火が消えた。
「時代は誇大妄想をこじらせた老人が切り開くものじゃねェんだよ。ッたく、大丈夫か? タイラー」
クールと幼女ルーシが駆け寄ってくる。おれはようやく恐怖ですくんでいた身体を再生させ、人間の身体を取り戻した。
「……。だいぶ大丈夫です」
「本当かよ~。オマエ、あのスライム娘のアニキだろ?」
「そうだけど──って、ふたりきりですこし話したじゃないか、ルーシ」
「悪りィがあのあとも発作起こして倒れたらしくてな。記憶もすべて吹き飛んだ」
あっけらかんとした態度でルーシはそう言った。
「ファンキーな生き方してるな……」
「オマエもだろ。おっそろしい速度で戦歴重ねやがって」
ルーシとグータッチをしたおれは、ひとまずクールへお礼を言おうとする。
しかしそう思った矢先には、クール・レイノルズはいなくなっていた。
「大統領は忙しいんだな。お礼のひとつでもしておこうと思ったのに」
「おれの父親だぞ? せわしくて仕方ない」
「ありゃ。一人称も変わってる」
「おれはおれだよ。オレオレ詐欺ではないがな」
その頃、仲間たちがこちらに向かってきているのを確認した。
おれはドサッと地面に寝転がる。さすがに恐怖しか感じなかったし、なんならミリットたちを残して死ぬという最悪の終わり方すら覚悟していた。
でも、生き残れば結果オーライだ。
「なあ、タイラー」
「なんだよ?」
「影響力っていうものは度し難い力だからな?」
忠告めいた幼女の一言。おれはその言葉の意味を考えたが、その返事が決まる頃にはやはりルーシもいなくなっていた。
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