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肉屋のせがれ、実家の手伝いで毎朝モンスターを狩っていただけなのに、いつの間にか人類最強になっていた  作者: 犬斗
第三章

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第42話 騎士団の訓練

 騎士団から迎えが来るとのことで、俺はギルドの食堂で待っていた。


「アステルさん!」

「あ! ディードさん!」


 騎士隊長のディードさんが姿を見せた。


「アステルさん。この度は引き受けてくださり、ありがとうございます」

「えっと、俺はディードさんと調査を?」

「そうです。しばらくの間、よろしくお願いします」


 ディードさんは『鬼薔薇』という恐ろしい異名を持つが、見た目は俺よりも年下に見えるほど幼い。


「今から一番隊の砦に向かいますね」


 ディードさんは明るく振る舞っているが、その表情は重い。

 自分の師匠の討伐だ。

 当然だろう。


「アステルさん。お願いがあるのですが、よろしいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「私はアステルさんの狩猟の凄さを知っていますが、対人の実力を知りません。もちろん対人でも凄いことは想像できます。ですが、正確に知っておきたいので、剣の稽古につき合っていただけませんか?」


 恐縮した表情で、とても言いづらそうに話すディードさん。

 だが、俺にとっては願ったり叶ったりだ。


「いいんですか! 助かります!」

「え? あ、あの……」

「いやー、俺自身、対人の経験が少ないのでありがたいです。騎士との稽古なんて経験できないですからね」

「あ、ありがとうございます!」


 ディードさんが深く頭を下げた。


「そうだ。だったら、騎士団の訓練にも参加させてもらっていいですか?」

「え? うちの訓練ですか? きついと思いますが……。あ、でもアステルさんですものね。大丈夫ですよね」


 俺は狩猟しかしてこなかったから、ちゃんとした訓練や対人の戦い方を知らない。

 最近は討伐クエストを行うようになったのだから、もっと実力を身につけたい。

 それに、第一師団の一番隊はエリート集団だ。

 これ以上の環境はないだろう。


「着きました。ここが一番隊の砦です」


 門をくぐると石造りの堅牢な砦が姿を現した。


「訓練は明日の早朝からです。今日はここに宿泊していただいてもよろしいですか?」

「はい! よろしくお願いします!」


 ***


 翌日の早朝に起床。

 日の出前に朝食を取り、日の出と同時に訓練が始まった。


「準備運動だ! 素振り百回!」


 副隊長のドーレスさんの声が響く。


「次は腕立て伏せだ!」


 素振りが終わると、腕立て伏せを百回行う。

 終わった瞬間に、また剣の素振りを百回だ。

 さらにスクワットを百回行い、素振り百回を繰り返す。


「いいか! 素振りで体力を回復しろ! 素振りが休憩だ!」

「「「はいっ!」」」


 素振りで休憩という言葉を聞き、さすがに驚いた。

 しかもこの素振りは全力だ。

 どこが休憩なのかと疑問に思う。


「速度を落とすな! その剣に民の命がかかっているんだぞ!」


 そう叫ぶドーレスさんも素振りをしている。

 一番隊の訓練は全員平等だという。

 ディードさんも訓練に参加している。


「よし! 水分を取れ!」


 永遠に続くかと思った準備運動が終了した。

 ディードさんが微笑みながら近づいてくる。


「アステルさん、どうですか?」

「さすが騎士団ですね。きついです」

「この訓練は身体よりも精神を鍛えています。本当に苦しくなった時にこの訓練が生きます。あと一振りできるかどうかが生死を分けるのです」


 ディードさんは額に汗をかく程度だった。

 余裕があるように見える。


「ディードさんは平気なんですか?」

「平気な振りをしています。だって、アステルさんの息は一切乱れてないですから」

「いやいや、しんどいですよ。はは」


 正直、辛いわけではないが、かといって余裕があるわけでもない。

 俺は狩猟しかしてこなかったから、ここまで徹底的に身体をいじめることはなかった。

 それに民の命という言葉を聞き、剣の一振り一振りに責任を感じた。

 精神的な疲労は、いつもより体力を消耗させる。


 午前中は体力と精神力を鍛える地味で厳しい訓練が続いた。


「アステルさん、午後は模擬戦です」

「はい!」


 昼食後は実戦訓練だ。

 隊員たちと一騎打ちで稽古を行った。

 さすがに騎士の剣技は美しく洗練されていたが、負けることはなかった。


「アステルさん、全勝とはさすがですね」

「いや、ギリギリですよ。やっぱり騎士のみなさんの剣は勉強になります」

「本当ですか? 物足りないんじゃないですか?」

「そ、そんなことは――」

「次は集団戦です」


 ディードさんが合図を出すと、各小隊長が動き出した。


「四人一組になれ! 三対一の模擬戦だ!」


 対人の集団戦なんて、以前の討伐クエストで一回経験しただけだ。

 そんな俺にとって、騎士を相手に三対一は厳しい。

 だが、これは模擬戦だ。

 勝敗は気にせず、しっかりと自分の経験にしようと思う。


 騎士たちが迅速に動き始めると、ディードさんが俺の肩を叩いた。


「アステルさん。今、勝敗よりも経験を優先させようと考えていませんでしたか?」

「え? い、いや、その……」

「いいですか、勝敗は最も大切なんです。私たちは命のやりとりをしています。負けたら何も守れないんです」

「は、はい」

「今は訓練です。確かに死にません。だからといって、勝敗を気にしないのはいただけません」


 ディードさんの言うことはもっともだ。

 訓練だろうが、勝敗は関係ないと思った自分が恥ずかしい。


「自分が間違ってました」

「ふふ。では、アステルさんはこちらです」


 十人の騎士が整列していた。


「第一小隊が全員で相手をします」

「え! じゅ、十人の騎士相手に勝てと言うんですか?」

「違います」

「え?」


 ディードさんが木剣を手に取った。


「十一人です」

「え! いやいや! 勝てるわけが――」

「戦場で、それ言えますか?」


 ディードさんの表情から笑みが消えた。

 鋭い目つきで俺を見つめている。


 何も言い返せない。

 言葉に詰まると、ディードさんが微笑んだ。


「そうは言ってもこちらは十一人ですから、騎士とは思えないほどの卑劣さです。うふふ」


 ディードさんの表情は笑顔だが、目は笑っていない。

 試されているような気がする。


「通常の訓練にしておきますか?」 

「いえ、全員で結構です。真剣勝負でお願いします。絶対に勝ちます」

「いい心がけです。ではアステルさんも、全力で来てくださいね」


 俺は剣を構えた。


「ではいきますよ。準備はいいですか?」

「大丈夫です」

「本当ですか?」

「はい」


 俺が答えると、ディードさんが左手を掲げた。


「対象を囲め!」


 ディードさんの命令に反応した十人の騎士が、一斉に走り出す。

 そして、俺を中心に輪で囲んだ。


「アステルさん、油断してはダメですよ。集団戦は常に退路を確保しておくように」

「くっ!」

「もう逃げられません。どうしますか?」


 騎士たちが、じりじりとゆっくり間合いを詰めてくる。

 さすがに十本の剣は同時に捌けない。


「降参しますか?」


 輪の外にいるディードさんが声をかけてきた。

 答えはもちろん決まっている。


「しませんよっ!」


 俺は右前方の騎士に向かって猛然と走り、突きを放つ。

 一人を崩して包囲網を破る作戦だ。


「アステルさんの剣は重いぞっ! 一人で受けるなっ!」


 ディードさんの号令に左右の騎士が反応し、三本の木剣で俺の突きを弾いた。


「なっ!」

「一本では無理でしたが、三本では止められますね。ほら、もう相手に情報が抜き取られましたよ。戦いというものは情報戦でもあるのです」

「くそっ!」

「アステルさんの剣は三人で対処しろっ!」


 俺はすぐに上段斬りを繰り出すも、三本の剣で防がれてしまった。

 木剣の乾いた音が鳴り響く。


 その音を合図にしたかのように、背後の四人が俺に向かって突きを放ってきた。

 俺は身体を右に回転させながら、剣を水平に振る。

 辛うじて四本の剣を一気に弾いた。


「お見事です! ですが止まりませんよ!」


 ディードさんが叫ぶと、今度は別の方向から四本の突きが迫ってきた。

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