ヴァルフが調理する番
「まあ、僕らは主人と奴隷なんて気にしないんだ。それに今回は功績の高い順で食べてもらっているけど、これだけ量があるんだ。どんな順番でも全員おなか一杯になるくらいの量はあるから、気にせず食べてよ」
そう、僕らは仲間なんだから。そんなことは気にしない。出来る人ができることをすればいい。自分にできないことはほかの人が、あるいは力を合わせてなんとかすればいい。そして今は元気な者の中で僕が肉焼きの任についただけのことだ。
「おっと、焼けたみたいだよ。リースお皿だして」
「ああ、わかった」
僕は焼けたお肉をつかんでリースの皿に盛る。リースはやや遠慮しながらも受け取ると静かに食べ始めた。
「さてと、これで全員いきわたったよね。それじゃあ僕の分を」
「ご主人様」
自分の分の肉を焼こうとしていた時、僕の横からそっとヴァルフが現れ僕の手を止めた。
「残りは私が」
「いいの、もっと食べたいでしょ」
「それは、そうですが。焼きながらでも食べられますのでどうかここはお任せください」
「わかったよ。じゃあヴァルフ」
「はい」
「一番いいのを頼む」
「かしこまりました」
ヴァルフがはっきりと言い切ってしまったことに僕は自らの発言に対しての彼女のとらえ方について今一度考えねばならないことになった。
「あ、いええっとね」
何年か前にネットで見たネタをやってみたのだが、ヴァルフには通じずかえって彼女の中の謎のスイッチをオンにしてしまったらしい。
「先ほど食べてわかったことは、この肉は高たんぱくではありますが、中には非常に多くの脂を秘めています。ですからフライパンに敷く油は少量で問題ないでしょう。そしてある程度表面が焼けたタイミングで、ナイフを入れ肉を割れば」
言葉通りヴァルフがナイフを入れると、わかってはいたがたった一つの切れ目からフライパン一杯の脂があふれ出た。
「そして、これをスプーンで回しかければ」
フライパンで熱せられた脂が肉の表面にかかり、そして自らの熱でパチパチとはじけた。
「ご主人様、油が飛び散って危険ですので、少しお下がりください」
「ああ、うんわかったよ」
とはいえ当たっても軽く火傷する程度なのだが、それでも調理中に母に話しかけたとき、すごく不機嫌になったのを思い出し、ヴァルフの指示に従うことにした。
「といっても、すぐにできますので、今のうちにお皿の用意をお願いします」
言われるがままに皿を構えて待っていると、なぜだかヴァルフはそんな僕の姿を見て笑みをこぼした。どうやら今の僕の様子が、食事を楽しみに待つ、コチカとクイネの二人に似ていたらしく。失礼だとわかっていてもどうにも我慢ができなかったらしい。
その後彼女は一度火から離し、フライパンのふたを閉め、余熱で肉を蒸し焼きにした。
「はい、お待たせいたしました。どうぞご堪能あれ」
ヴァルフが焼いてくれたお肉は単に火を通しただけの僕の物とは違い、表面が油で黄金色に輝きつつも中の部分は柔らかくなっていた。
「おいしいよ!!ヴァルフ」
パリパリの皮にあれだけ垂れ流してもいまだになくなることを知らない肉汁、そしてしっとりとした舌触りでありながらもしつこさはなく、飲み込んで喉奥に流してしまうと、あとはわずかな余韻が残るだけで、あっという間に消え去り、次の肉が欲しくなる。
「うんうん、やっぱり料理はヴァルフに任せるに限るね」
「お褒めいただき光栄でございます。さあ、どんどん焼きますので、好きなだけお召し上がりください」
その後はヴァルフが焼く当番を引き受けたため、その後の焼肉での皆の満足度はかなり高いものとなった。そしてもともとは切り取った大岩ほどのサイズがあった肉塊は無事全員のおなかに収まった。
「食べたのです~」
「幸せ~」
「確かにかなりの幸福指数ですが、明日にはおなかを壊しそうですね」
「・・・」
「満足していただけたようでよかったです。ご主人様はいかがでしたか」
「うん、最高だったよ。僕よりもヴァルフ、途中から食べてた?」
「はい、食べてましたよ」
実際僕がその姿を見れていなかっただけなのかもしれないが、記憶にある限りではヴァルフはずっと焼いてばかりだったような気がするが、彼女が満足なら、それ以上は特に言うまいと心に決めた。
そしておなか一杯になった僕らはその日はすぐさま眠りについた。




