皆だけでも幸せにしたいという世迷言
「そんなこと信じられるか、貴様ら人間が私たちにしてきたことをわかっているのか」
はじめて僕に向けられた感情は激情だった。僕とリースがかかわりを持つようになったのは昨日のことで当然彼女の身に何があったとしても僕には無関係だが、リースの中に秘められた怒りは、その理屈を認めてはくれない。
「きっと君もひどい目に合ってきたのだということは僕も理解しているつもりだよ。でも僕はそんなことはしたくないんだ」
「どうしてだ。奴隷を使役せず、ただ侍らせているだけの奴隷商人などいるはずがないだろうが」
「ここにきてすぐの時に、僕は奴隷だった獣人が殺されるところを見たんだ。何も悪いことはしていないのに、いともたやすく僕の目の前で死んでいったんだ。その時の光景を今でもはっきりと覚えてる」
「・・・」
「たとえどんな理由があったとしても 獣人も人族も命が簡単に奪われていいわけがないんだ。でも僕は非力だ。とてもこの世界そのものを変えるなんてことはできない。けどせめて手の届く範囲の皆だけでも幸せにしたいと思っているんだ」
「それが世迷言を信じろなどと、それこそ不可能だと言っているのだ。貴様ら人間は我々をさらい道具の様に使うことはしても、思いやることなど・・・」
まだまだ体が万全ではないにもかかわらず、怒りにより心拍が早くなったことで、血の流れが乱れ、リースの身体からふと力が抜ける
「リース」
僕は思わず駆け寄り、シーツに倒れこむ彼女を支えた。その時初めて触れた彼女の身体は、あまりにも細く、まるで骨格に包帯の様に肉を巻き付けただけのyようだった。なので小鳥のように軽い体を僕はゆっくりとシーツに寝かせた。
「触るな、汚らわしい」
「ごめんなさい。でも頭をぶつけると思って」
「うる・・・さい」
リースは横になると、ゆっくりと呼吸を整始めた。
「リース大丈夫?」
「うるさい、すこし話過ぎた・・・寝る」
「わかった」
リースは瞼を閉じると、そこから五分もしないうちに眠りについた。とはいえそばを離れるわけにはいかないので、しばらく彼女の側で見守っていると、食事入りの器を持ったコチカとクイネがやってきた。
「ご主人様、この子誰なの~」
「ああえっと、昨日保護したんだ」
「ほご~?」
「危ない目にあってたから助けたんだ」
「そっか~」
「それで二人ともどうしたの?」
「おひるごはんの時間だから、ご飯を持ってきたのです」
「ああ、もうそんな時間か」
そういえばもうかなり長い間ここにいたような気がしていた、まさかそんなことになっていたとは思いもしなかった。
「それでチセから言われて、怪我してる人のご飯を持ってきた」
「ありがとう」
僕は二人から食事を受け取ろうとしたが、ここであることを思いついた。
「そうだ。もしよかったらなんだけど二人が食べさせてあげてくれないかな」
「えっ」
人間である僕はひどく警戒されている。だが獣人であるとともに年も近いコチカとクイネにならきっとある程度は心を開いて食事も受け取ってくれるはずだ。そしてあわよくば彼女の境遇についていろいろと聞き出せるかもしれない。
と思っているが、実際のところはリースが少しでも僕ら一団について理解を深めてくれればそれでいいのだ。たとえ時間がかかったとしてもリースが街の外に出たという情報は当分知られることはない。だから今は時間をかけてでも彼女から信頼を勝ち取ることの方が大切だ
「難しく考える必要はないんだ。ただ一緒にご飯を食べてくれれば、それでいいんだ」
「わかったのです」
「オッケイ」
突然ことだったが、思った以上に二人はすんなりと受け入れてくれた。そのため僕はコチカとクイネの分の食事をとりに行くことにした




