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第22話 王都のメイド服屋さん

「イキり王子と、被害妄想強めのギルマスと、凶状持ち令嬢……ザコたちが徒党を組んでいるだけなのでは?」

「それなー」


 そんなわけがあるか。ツッコミたいのを我慢する。


 連れ歩くアキュートは亜麻衣(キトン)みたいな長布と帯だけの格好。俺の予備のローブでもちっとも間に合わなかった。体格(ガタイ)的な意味で。

 毛足の長い毛並みでいろいろ隠れているとはいえ、商店街を全裸で歩かせるのは公序良俗に反するだろ? そういう趣味で奴隷を連れてるアホ金持ちを見たこともあるけれどさ。


『なんとも高尚なご趣味ですな。アキュートめは嫌いではありませぬぞ?』


 念話がうるさいよ。

 とはいえ検証が進む。人混みの中でも念話にノイズなし。チャンネルがどうのとアキュートが言ったこともあったかな。


 同行してくれているのはクランBWlz(ビーワルツ)の魔術士ハニーさん。

 大きな三角帽子から足下まで、全身蜂蜜色でコーディネートしたお姉さんだ。


「ハニー様は同行してくださっているというか、監視ですな」

「マジそれなー」

「肯定していいんですのね」


 そりゃそうだ。ソフトな監視くらい付く。

 その依頼を受けているだろうBWlz(ビーワルツ)の皆さんが好意的だから助かっているだけで、当然のことだ。

 ハゲのおっさんこと冒険者ギルドの内部監査特員(ギルドナイト)、コナン・マウルにはそれをする義務がある。


 年齢不相応に力のある子供が実は、王国の英雄である冒険騎士(ナイト)フィン・マックールの隠し子で、彼の象徴であるアーティファクトまで託されている。

 俺のことだ。ふざけんな。

 アーティファクト(ナインライブズ)は元はといえば王家の国宝だ。監視がつかない理由がない。フィンの息子オシアン・マックールに話が届いたんだ、どこまで情報が共有されただろうか。

 具体的に俺が何をすると思われているのか。この肩書きと持ち物だけで、どこまでできるのか。


 考えたくもない。

 文字通りの借り物で、俺の力じゃないだろ。あまり使いたくない。

 手元にある力を使うのは当然だ。でも、あっさり手に入った力だぞ。何かの拍子にあっさり失われるに決まってる。そんなものに頼って依存してすがりつくなんて絶対にごめんだね。


「ハニー様。うちのお嬢様が鬱に沈んでいるので、何かお言葉を賜りたく思います」

「マジでか。すっふぃー、ぴえんな感じ? なら燃料補給するっきゃないじゃん? 暴飲暴食しようぜ、フラペっちゃおうぜー? タピって流行りに乗っちゃおうぜー?」

「その流行り、商業連合と比べて年単位の遅れなんですわよねぇ」

「マジでか。あたしがぴえんだわ」


 というか、すっふぃーって何だ。俺か。確認したくない。


「……この店ですわね」


 手元のメモに記された所在地、店名と、目の前の看板を照合する。今日の目当ての店だ。


「あぁん。無視すんなよぉー、悲しいじゃんかよぉー」

「左様。アキュートめもぴえんにございますぞ、お嬢様」


 何でお前らは息が合ってるんだよ。


 店は服飾専門店。それも獣人その他、巨躯や矮躯の注文にも対応できるそうだ。

 冒険者御用達の装具店で体格に合わせて仕立て直してもらうものいいだろうが、最初からサイズを合わせてもらえるならそれに越したことはない。

 もちろん買いに来たのは獣人態のアキュートの衣装。

 オシアンさんに貰った紹介状を確かめながら、店に入る。


「すみません。このうすらデカいのに似合うメイド服が欲しいのですけれど」

「お嬢様、流れるように攻撃者側に移動しないでいただきたいのですが」

「文句があるならはっきり言いなさいな」

「むしろ、なぜ執拗にメイド服など着せたがるのです?」

「何ですの。ひと目でそれとわかる従者の証明でしょう? それとも首輪でも欲しいんですの? ……自分で言って気づきましたが趣味じゃありませんわね」

「まさかの個人的な固定観念ですかな」


 お前のまともな服を用意したいのは本音だよ。


「まあ。ようこそいらっしゃいました、かわいらしい魔女様。こちらへどうぞ」

「……どうも初めまして。お世話になりますわ」


 さすがオシアン・マックールの紹介状。先に連絡が届いていたんだろう。

 加えて、先日の国営決闘場での一件で顔が売れたっぽいんだよな。上品な奥様といった雰囲気の店員さんが、嫌味なく案内してくれる。

 おお。これは。思った以上に。

 王国には異種族が少ない。よその国から訪問、逗留する異種族のお偉いさんがメインの客層なんだろう。透けるような薄絹、丁寧な染めつけの反物、精緻な模様細工織、種々様々だ。

 

「これは、目が眩みますわね」


 ついフードをよけて、まじまじと見る。


「まあ。綺麗なおぐしですわね」

「それな。お姉さん良いこと言った。すっふぃー、フードかぶりっぱなの絶対もったいないじゃん?」

「…………」

「おっと。観念して観賞の対象になりなさいませ、お嬢様」


 再び顔を隠そうとしたが、巨躯の獣人にフードをつまんで邪魔される。


「ふふふ。死なばもろともというアキュートめの言葉を憶えておいでですかな」

「奥様。デカいのが着せ替え人形を志望してますので、片っ端からお願いしますわね」

「まあ嬉しい。承りましたわ、お客様」

「キャイン」


 アキュートが小さく高く鳴いた。泣いた、かな。


「おー、よしよし。あっきゅん泣くなよ明日があるぜー?」

「そう言いながら、なぜアキュートめの腹を撫でるのですかな」

「マジにカチコチじゃん。すげー、かっけー、えろーい」

「……二足歩行特有のアピールポイントをまじめに検討するべきかもしれませぬ」


 おっと。自分の武器を自覚し始めたか?


「メイド服と言いましたが家令用の物はあるでしょうか。支払いは商業ギルドの登録証(カード)で……ああ、やっぱり冒険者ギルマスに邪魔されてるかもなので、この竜鱗で行けますか? 十枚まで出せますわ」

「まあ、まあ。奥へどうぞ。カタログとサンプル、あと、お茶のご用意をさせていただきますわね」

「お、お嬢様! 金の力で自分だけ助かろうとしておりますな!? 自分だけは着せ替え人形にならぬつもりでしょう!?」


 その考えはなかった。

 え? だってメイド服だぞ? 妥協できないだろ当然だろ? なんだよ、その怪物を見るような目は。



◆◆◆◆◆



「──ぁ──」


 最初に気づいたのはアキュートだ。


「お嬢様」

「うん? って何ですの、これ」


 聴覚が共有されて、俺にも聞こえてくる音がある。

 あ、の声の連なり。あるいは伸び。

 音のピント、焦点とでも呼ぶべきものはアキュートが合わせているので、まだ慣れてない俺には距離がわからない。


「──ぁぁああ──」


 少なくとも屋外だろう。店の外。

 叫びなのか。よくわからない。獣人の聴覚による聞こえ方なのか、それとも、魔獣特有の感覚器による感知を聴覚で受け取ったものとして変換しているのか。考えすぎか?

 呆れるなよアキュート。伝わってるんだぞ。

 別の声も届いてくる。外から、いくつもの恐慌状態に陥った絶叫で。


「暴れ令嬢だぁぁああ!」

「ひぃぃいいい!」

「お助けー!」


 急な激しい目まいと頭痛に襲われる。攻撃を受けたとか体調不良とかじゃないけれどさ。

 王都の治安、終わってるだろ。


「──スフィアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」


 そいつは店の扉を蹴破りながら躍り込んできた。

 令嬢騎士リブル・マクネッサ。

 抜き身の剣と鎧で完全武装。淑女から遠くかけ離れた、鬼のような憤怒顔である。もう令嬢というより侵略蛮族の尖兵だが、これで本物の侯爵令嬢だから治安の他も終わりだよ王国。

 一線級の騎士にも匹敵する戦力の彼女ではあるのだが。


「アキュート」

「かしこまりましてございます、お嬢様」


 俺自身が相手をする必要なんてない。

 俺の使い魔、巨躯の獣人に殴り倒されるリブル。床に埋まるほどの一撃で勝負は決まった。



◆◆◆◆◆



「ハニーさん、拘束お願いしますわね。あと、お店には竜鱗を追加させてくださいまし」

「まあ。いいえ、結構ですわ」


 女騎士の気絶を確かめていると、店員さんはそんなことを言う。


「ギルドの保険に入っていますので」

「どういう項目の保険に該当するんですの……?」

「お嬢様、加減し損ねました。女騎士めは生きておりますかな?」

「アキュートはパンチひとつ打つのも初経験ですものね。どうせ大丈夫ですわよ、お姉さまの装備は防御の護符だらけですもの」

「お嬢様、お嬢様。その、初経験、という言葉を、もう一度言ってはいただけませぬか。耳に刻みますので」

「お前はどんどん気持ち悪くなっていきますわねぇ」


 それどころじゃないんだよ。

 もしかして、と思いながら平静なふりをしつつ、世間話を装い振ってみる。


「ワタシ、まだ王都に慣れてませんのよ。こういうのって普通なんですの?」

「まあ。噂にお聞きしましたよ、王子様と楽しく演習場で遊んでらしたのでしょう? そんな感じでいいのですよ。ただ、少し、マクネッサやマックールのお嬢様が起こす騒ぎには気をつけてくださいね」


 店員さんの答えに戦慄する。

 マジか。あれが普通か。これが日常か。ちょっとおかしいよ王都民。

 店の前に集まってくる群衆がモンスター的な何かに見えてきたぞ。せめて都市部の表向きくらいは穏便を保ってくれ。


「あれー? どしたの、はーやん。野次馬趣味なんてあったっけ?」

「はーやんって言うな」


 野次馬から抜けて店に踏み入ってきたのは、ひとりの冒険者。先日、闘技場でワスプさんに絡んでいたのを覚えている。

 クランHtBt(ハートビート)の、染めた髪を逆立てたチンピラ青年だ。


「そのぶっ倒れてるお嬢さん、預かってくぜ」

「はー? なんですかー? 衛兵のバイトでも始めたんですかー? HtBt(ハートビート)ったらクランぐるみで金欠なの? かわいそ、かわいそじゃん」

「ぐっ……。ほっとけ。蜂蜜女が」

「待ってくださいまし」


 ハニーさんに煽られていたチンピラが足を止めた。落ち込んでいるような顔色の彼に、質問をぶつける。


「衛兵の職に就いていないのなら、何の権限でマクネッサのご令嬢を連れて行くんですの?」

「権限ならある。マイレダッハ殿下預かりだがな。詳細は訊くな」

「ずいぶん王子さまからお仕事をまわしてもらっていますのね?」

「武闘派クランとして、俺に勝った奴からの命令に否はないさ。例え拒否したくともな」


 武闘派A級クランを自慢する冒険者に勝っただって? あの王子さまが? 嘘だろ? あいつ、そんなに強くなんかなかっただろ。

 しかも思わせぶりに、嫌々従ってます的な空気出しやがって。


「それは……お疲れ様ですわ。どうぞマクネッサのご令嬢をお連れくださいまし」


 チンピラさんは俺と視線を合わせてから、ずっと気を失ったままだった女騎士を鎧ごと軽々と担ぎ上げた。たいして筋肉質でもないのに、そういうところはさすがA級冒険者だな。


「すっふぃー、行かせちゃってよかったの? 絶対怪しかったじゃん。あれ回収班ってやつだよ」

「そうですわね。クインさんに連絡してくださいまし」


 オシアンさんには連絡いらないだろ。どう考えてもとっくに承知してる。参った、また茶番の気配がしてきた。


「きっと、船頭多くして船山に上る、ですわね」

「ほほう。お嬢様、つまり?」

「アキュートが言ったんですわよ。イキり王子、冒険者ギルドのマスター、凶状持ち令嬢らの徒党だって。……主張したがりばっかりの面子ですわ」

「凶状持ち令嬢めは今、連れて行かれたではないですか。然るべき捕縛は望めませなんでしょうが」

「公衆の面前でやらかしたのは大きいと思いたいですわ」


 なんだか王都民はメンタルが頑丈なようなので、どこまで読みが当たるか心配になってきたが。

 ほとぼりが冷めるのを待つくらいはするだろう。その間、女騎士は身動きが取れない。たぶん。


「船が山に上ってしまわないように、これで船頭を減らしたことになりますわよね」


 俺がイキり王子たちならこれを機に行動を起こす。

 こんな読み、何もかも外れてほしいもんだ。


「さあ、今のうちに急いでメイド服を買ってしまいますわよ」

「お、お嬢様、どうしてそんなに着せたいのですかなぁ?」

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