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013 命運

「かたじけない……」


 クロエに勝負を挑んで惨敗した聖騎士ロティルの怪我は、想像よりも酷かった。

 鼻骨、両腕の骨、肋骨八本、両手の骨、頬骨骨折。右腕の骨に至っては、粉砕骨折していた。

 右腕肉離れ、切り傷と擦り傷が複数箇所。脾臓が潰れていて、胃腸や肺にも傷が入っている。

 というのが、医者であるソニアさんによる所見だった。


 特に脾臓破裂は重い。体内で臓器が破裂したので出血が多く、止血も難関を極める。

 ロティルが鮮明に意識を保っているのが不思議なほどで、命に関わる大怪我だった。


「一応上級回復薬(ハイポーション)は持参してるんだがなぁ……」


 ジャスが口籠る理由が、明確にあった。

 上級回復薬(ハイポーション)はほとんどの怪我を治すことは可能だが、部位欠損は治せない。故に脾臓を再生させることは出来ず、戻らない。

 更に、あくまで出血を止め傷口を綺麗に塞ぐだけの薬効のため、腹腔内に溜まった血液は処理できない。

 最終手段は開腹手術だけど、そんな事をするほどの設備は整ってないし、この世界では医療技術も発達してない。だから絶望的だった。


完全回復薬(フルポーション)蘇生薬(エリクサー)、或いは『超速再生』のような上級スキルがあれば……」


 曰く、それらは流れ出た血を吸収しエネルギーへと変換させて再生を促す仕組みらしい。いずれかがあれば完璧に治療出来るらしいのだが……。


「ハルちゃん」

「ん? なんですか? ……あっ」


 そこで僕はとある事実に気づく。


「僕の能力でいけるんじゃないか……?」


 試しに僕は、横たわっているロティルの腹部に手のひらをかざして能力を使ってみた。

 ぽわっと暖かい光が放たれて、青アザの出来た腹部が照らされる。

 そうすると、たちまち外傷もアザも癒えていく。みるみる内に回復していく身体を見て、ロティルは目を丸くしていた。

 ソニアさんが手袋をした手で腹部を触診する。他の箇所も暫く触って、ロティルに「痛くない?」とか聞きながら確認を行った。


「うん、問題なさそうだね。腹腔部に出血もないし、骨も全部治ってる」

「恐ろしい能力だ……」


 どうやら無事に治せたらしい。よかったよかった。


「クロエ、今後はやり過ぎないように。君のせいでこうなっちゃったんだからね」

「……わかった」


 もとはと言えばクロエがやり過ぎた所為なんだからね。ロティルが瀕死になってるのも、クロエが喧嘩を真っ向から買って強過ぎたんだから。


「ハル、だったか」

「はい」

「うちのロティルが行き過ぎた真似をして申し訳ねぇな。村にも迷惑をかけてしまった。この通り、謝罪しよう」

「い、いえいえそんな。ロティルさんはロティルさんで必死だったんですし」


 ジャスが僕に向かって頭を下げるが、別に僕は頭を下げられる立場じゃないし、何より一番可哀想なのは当の本人であるロティルさんだ。寧ろクロエがやり過ぎた事を謝罪したいくらい。


「ふ、副団長、私はどうなるのですか」

「……そうだな。お前は三度も《黒猫の魔物》に大敗を喫した。最初は西方で猛威を振るう魔王軍の討伐の際に遭遇し、交戦したものの負けて逃走された。二度目はお前が逃したことを隠蔽するために勝手に第六騎士団を動かして、追い詰めたが返り討ちに遭い。そして三度目で一騎討ちに挑み、今じゃこのザマだ」


 今回含め三回も負けてるのか……。それで序列が下がってクロエに逆恨みしているわけだ。というか、話を聞く限りはクロエってただ巻き込まれただけなんじゃ……?


「剣閃機構基本規則第十条二項に則って、ロティル・ギルベルトを皇閃騎士団から脱退させる」

「そ、そんな……!」


 ロティルは涙目でジャスを見つめる。そりゃあ三回も負けたことは事実だけれど、クロエが強かったのが運の尽きだった。執着心の強い彼女は、この結果に行き着いてしまう。序列が下がったということを耳にした時点で、薄々感づいてはいたけれど。


「――と、思ってたところなんだがなぁ」

「え?」


 僕は、あの人の目を見て理解した。この人は、周りの状況を見て正当に判断できる人なんだと。


「自分らの予想を超える《黒猫の魔物》の強さ。そして、瀕死になっても尚追おうとする姿勢。これらのことから鑑みて、自分はこの裁定を下そう。序列二位の名において、序列十三位騎士ロティル・ギルベルトを剣閃機構から脱退させる。ただし所属は皇閃騎士団とし、今後は新たなる勇者の案内役を務めろ」

「ゆ、勇者……?」


 剣閃機構と皇閃騎士団はまた違うのだろう。どうやら罰則も軽くなったようで、僕も一安心だ。

 勇者という言葉に、ロティルも僕もソニアさんも首を傾げる。


「『勇者』。それは、『超克スキル』を保有する人物のことだ。お前ならわかるはず」


 ジャス曰く、『超克スキル』というものが存在するらしく、先程話に出てきた『上級スキル』の一つ上のランク、簡単に言えば固有能力だ。


「他人に付与できない『超速再生』の効果さえも超える、上位互換の再生能力。ここまで言ったらわかるかい」

「もしや……」


 ロティルが静かに僕に視線を移す。


「……僕!?」

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