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 調印式当日。

 アーシャとマーガレットの3番目の弟との婚約の書類を交わす日だ。

 

 広い会議室に、細長い机が置かれておりアーシャはドキドキしながら座っている。

 この日の為に新調したドレスは今日の空のように青い色。

 二の腕の太さが目立たないようにデザインされて、少しだけ濃い目の化粧をしてもらい、髪の毛も綺麗に結わってもらっている。

 準備は完璧だがアーシャの心は不安なままだ。


 アーシャを挟むようにドウランとマーガレットが座り、後ろには騎士団長が腕を組んで立っている。

 

 部屋の隅に、主な護衛騎士とミナとハンナも立っているが威圧感を感じる雰囲気にアーシャは後ろを振り返った。


「隊長、私の後ろに立たなくてもいいんじゃないかしら?」


「いいや。俺はここに立って相手の王子様を威圧してやろうと思ってな」


 戦いに行くような気迫を感じアーシャは身震いをする。


「すっかり父親気分なんだよ」

「嫌だねぇ。むさ苦しい父親ずらして」


 護衛騎士が呆れてヒソヒソと話す声に騎士団長はぎろりと睨みつけた。


「うるせぇ!王子はまだ来ねぇのか?」


 騎士団長が待つことに痺れを切らしたころ、ドアがノックされた。


「リバーグ国 第三王子一行が到着しました」


 直ぐに部屋に入って来た人物を見てアーシャは目を丸くする。

 

「ジーク……」


 ジークは来ないかもしれないと思っていたアーシャは彼の姿を見てホッとする。

 結婚相手はジークに変わったのか、それとも第三王子のままなのかとジークの背後を見るが部屋に入来たのは彼と髭の生えた高齢の男性数人だ。

 第三王子らしき人は見えずアーシャはジークが席に座るのを確認して尋ねた。


「あの、私の結婚相手はジークで間違いないのかしら?」


 不安な表情で小さく聞いてくるアーシャにジークは笑った。


「間違いないよ!」


「良かった。お相手が変わったという話を聞いていないから不安だったの」


 アーシャがホッとしていると隣に座っていたマーガレットがドンと机を叩いた。


「良くないでしょう。アーシャちゃんは不安な日々を過ごしていたの。アンタがいい加減なことを言うから!」


 マーガレットの迫力にジークは若干引き気味だ。


「いや、それはすまない。驚かそうと思って」


「驚かすですってぇ?あんた他に言う事あるでしょう?」


 怒りを込めたマーガレットの言葉にジークはアーシャを見つめた。


「まだ気づいていないようだから言うけれど、俺の名前はジークヴァルト。目の前にいるマーガレットは俺の姉で、俺はリバーク国 第三王子だ」


 ジークの告白にアーシャは理解が追い付かず首を傾げる。


「つまり、第三王子がジークって言う事?お相手は初めからジークという事?」


「そうだ。いい加減気が付いていると思っていたが」


 ジークに言われてアーシャは首を振った。


「全く気付かなかったわ」


「私、アンタは身分を明かしていると思っていたわよ!それが、昨日アーシャちゃんに言われてびっくりしたわ!一体何をしているの!」


「俺もびっくりしたぜ。なぜ、言わなかったんだ!俺はとっくに言っていると思っていた!」


 騎士団長も凄みを効かせて言うと、ジークは肩をすくめた。

 寄ってたかって文句を言われているジークにアーシャは慌てて両手を振る。


「私が鈍感だから!私、お相手がジークで嬉しいわ」


 アーシャが微笑むとジークはもう一度頭を下げた。


「はっきり言わない俺も悪かった」


「本当にこんな馬鹿な弟でいいの?考え直すなら今よ!命を救ってくれたって最後まで自分の身分を明かさないなんて!呆れちゃうわ!」


 マーガレットに言われてアーシャは頷く。


「私、ジークがいいです」


 はっきりとアーシャが言うとジークは嬉しそうに笑った。





 少し二人で話がしたいとジークに言われて、二人は庭へと向かった。

 隣を歩くジークは黒い礼服の騎士服だ。

 第三王子ですと言われても、ぱっと見は分からないだろう。


「ジークは騎士なの?それとも私を偵察に来るための嘘なの?」


 アーシャが聞くとジークは苦い顔をする。


「騎士の仕事が俺にはあっていて、俺は騎士として生活をしている。だからほとんど公務は行っていない」


 幼少期、アーシャも騎士団長と一緒に訓練をしていたことを思うと気が合うような気がして頷いた。


「マーガレット様と仲がいいなと思っていたけれど、お姉さんならば当たり前よね。私の様子を見に来るために護衛騎士なんてしてくれたの?」


 アーシャの言葉にジークはますます顔を顰めた。


「縁談の話は前から上がっていたんだ。その前になぜかドウラン様と姉上の気が合ってご結婚してしまったが……。それよりも前にアーシャ姫と縁談話があったんだ。俺が忙しくて返事をないがしろにしていたんだ。姉上がこの国に来るっていうので、アーシャ姫はどんな人だろうかと見に来たんだ。すまない」


 頭を下げるジークにアーシャは手を振る。


「いいのよ。私だって顔も見た事ない人と結婚なんてできないもの。ジークと過ごしたおかげで私結婚したいって思ったし。見に来てくれて良かったわ」


「そうか。そう言ってもらえると嬉しいな」


 嬉しそうに微笑むジークにアーシャは下を向いて言いにくそうに口を開く。


「それで、その、私を見に来て嫌にならなかったの?私、腕太いし……」


 ジークはアーシャの言葉に思い出したように頷く。


「別に腕の太さは関係ないだろう。アーシャ姫は可愛らしいから嫌になる事なんて無いよ。むしろ俺が騙してしまったような形になってすまない」


「可愛らしいですって?私が?」


 そんなことを言われたことが無いと驚くアーシャにジークは真面目に頷く。

 

「見た目以上に性格が可愛いと俺は思う。それにいざというときに俺を助けてくれた」


「あの時は夢中だったから……」


「それでも助かった、ありがとう。あの距離、弓を飛ばせるのはアーシャ姫ぐらいだろう」


 ずっと持っていなかった弓を褒められてくすぐったい気持ちになる。


「弓よりも私は図書室の大きなドアを壊すぐらい怪力なんだけれどそれでもいいの?」


 ジークは忘れているかもしれないとアーシャは念を押した。


「怪力もアーシャ姫の特技の1つだろう?そこも全部含めて俺はアーシャ姫と結婚したいと思っている」


 はっきりと言われてアーシャの顔が赤くなる。

 ジークは立ち止まるとアーシャの顔を覗き込んだ。

 数日ぶりに見るジークは、やっぱり心から安心できる相手であり好きだなとアーシャは思う。

 ジークはそっとアーシャの手を取った。


「俺こそただの騎士のような人間だけれど、それでも俺と結婚してくれるだろうか?」


 真剣に聞かれてアーシャは勇気を振り絞って大きく頷いた。


「ジークが何者でも、私はジークと結婚したいわ」


 アーシャの返事を聞いてジークは満面の笑みを浮かべた。

 それを見てアーシャも心から嬉しくなった。



 

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