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 女盗賊が高らかに言うと、女盗賊の仲間の男がジークの前に進み出てくる。

 男に背を押されて歩かされるとジークは薬の影響か足元がおぼつかない。

 フラフラとした足取りで男に背を押されながら歩くジークをアーシャはハラハラして見守った。


「ジークが殺されそう。どうしましょう」


「もうすぐ騎士団長が来ますから」


 焦りながらも言う副隊長の言葉にアーシャは弓を握りなら頷く。


「ジーク殿が絞首台へ乗せられ首に縄が掛けられたら攻撃を開始だ。女盗賊たちを弓で射るぞ」


 副隊長の言葉に騎士達は頷いて弓を構えた。

 弓を構えつつ騎士達は小さく呟く。


「副団長。この距離だと射程範囲を超えていますが」


「わかっている。もしかしたら届く可能性があるだろう」


「いや、届いても敵を射るまでの強さは保てている可能性が低いです」


「わかっている。だから騎士団長が来るまで待機だ!」


 副団長と騎士達の会話を聞きながらアーシャも不安になる。

 弓で射るには距離が遠すぎる。

 強度を保って女盗賊たちに届くだろうかと不安になっているところに強風が吹いた。


「クソッ。風も向かいから吹いてやがる。ますますこの弓では届きませんよ!」


 突然の強風にアーシャも首を振った。


「弓は無理ね」


 風が無くても届くかわからない距離。

 アーシャは騎士団長が早く到着するのを祈りながら、ジークがゆっくりと絞首台の階段を登るのを見守った。

 ゆっくりと一歩ずつおぼつかない足取りでジークは階段を登らせられる。

 13段の階段の上に登りきると、背を押していた盗賊の男がジークの髪の毛を引っ張って女盗賊の方へ無理やり向かせた。

 

「どう?気持ちは変わった?今なら許してあげるわよ。私を愛してくれるかしら?」


 女盗賊はゆっくりとジークの前へ回り込んで台を見上げた。

 松明に照らされた女盗賊の顔が良く見える。


「凄く綺麗な人」


 ジークの心配をしながらも、アーシャは思わず呟いた。

 男ならほおっておかないぐらい整っている顔立ちは自信に満ち溢れている。

 ジークは美しい女盗賊ジェリーエンを無表情に見下ろしている。


「お前を愛すことなど未来永劫無いと言っているだろう」


 ジークがはっきりというとジェリーエンは歯を噛みしめる。


「私をっ!馬鹿にしているの?私に惚れない男は居ないのよ?この私が、ジークと添い遂げようと言っているのよ?ジークだけに愛を誓うと言っているのに!」


「申し訳ないが、俺はお前には興味が無い。自分の心に嘘は付けないたちなんだ」


 フラフラしながらも言うジークに女盗賊は怒りを爆発させる。


「首に縄を掛けなさい!」


 女盗賊の怒りの一言に盗賊の男はジークの背を乱暴に押した。

 ジークはフラフラしながらゆっくりと歩みを勧め、縄の前へと立たされる。


「どうします?」


 弓を構えながら騎士が聞いた。

 アーシャの目から見ても向かい風のせいもあり威力のある弓は打てないだろう。

 それでも場をかく乱させることが出来る。


「まだだ。本気でない可能性もある。確実にジークさんと女盗賊を捕まえたい」


 副団長が小さく言う。

 

「そうね。ジークを連れて逃げられたら困るものね」


 アーシャも手を出せないもどかしさを感じながら言った。


 ジークの首に縄がかけられそうになった時、騎士団長の地鳴りのような声が響いた。


「うぉぉい!女盗賊さん!捕まえに来たぞ!」


 熊の雄たけびの様な騎士団長の声が当たり響くと、女盗賊は自分の腰の剣を抜いてあたりを見回す。

 騎士団長は塀を乗り越えて地面へと着地した。


「間に合ったわ!」


 ジークが殺されるのではないかとはらはらしていたが、騎士団長が間に合ったことにホッとしてアーシャが声を上げる。

 騎士団長は中剣を振り上げると女盗賊へと向かった。

 振り上げた騎士団長の剣を女盗賊は受け止める。

 ギィンという金属音が当たりに響いた。


「ジークは無事?」


 騎士団長が女盗賊と剣を交えているのに気を取られて、慌ててジークを確認する。

 ジークは首に縄を掛けられたまま男に背を押されて足が台から宙へと浮かんだ。


「何やってんだ!あの男!押しやがって!」


 騎士達は立ち上がると一斉にジークの縄を切ろうと弓を射るが、風が強くて届かない。

 力を無くして失速した弓がジークへと届かず地面へと落ちていく。


「ジークが死にそう!助けて!」


 力いっぱいアーシャが叫ぶが、騎士団長を含めて現場に駆け付けた騎士達はそれぞれワラワラと現れた盗賊たちと戦闘中だ。


「ちょ!無理っす!ジークさんまで助けに行く余裕が無いです!」


 剣を交えている騎士がアーシャの叫びを聞いて答える。


 誰か居ないかと視線を彷徨わせるが、騎士よりも盗賊団の方が数が多くとてもジークを助けに行くことが出来ない。

 後ろでに縛られたままジークは抵抗することが出来ず、首に縄を掛けられて宙に浮いている。


 アーシャは震える手でゆっくりと弓を構えた。


「私ならできる!」


 小さく呟いてありったけの力で弦を引いた。

 キリキリと弓がしなる音と強風の音が混じる。


「姫様、間違えてジークさんに当てないでくださいよ!」


 若い騎士が弓を射りながら叫んだ。

 騎士達はジークに弓が当たるのではないかと心配して声を掛けてくる。

 アーシャは一瞬心配になるが、自分に言い聞かせるように頷いた。


「大丈夫!私は弓が得意なのよ」


 そう言いつつも、強盗に襲われている母親の光景が脳裏に浮かんだ。

 強盗を射る勇気が持てず、矢を射ることが出来なかった。


 いや、母親に間違えて当たるのではないかと躊躇したのだ。

 あの時の一瞬の躊躇が、母親を殺してしまった。


「ジークを助けたい!お母さま、見守って」


 アーシャは呟いて、風に吹かれて不規則に揺れているジークを吊るしている縄に狙いを定める。


 (今だ)


 狙いを定めてアーシャは力いっぱい弓を放った。


 


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